15話目 ループの打開
力はありそうなゴブリンのボスだったが、さすがにデカい棍棒が重すぎたのだろう。革鎧が体にあってないせいもあり、動きは遅い。
私は、赤ゴブリンの後ろに左手の骨をバラまいた。また、白ゴブリンの後ろにも右手をブン回して飛ばす。
ゴブリンどもよ、奇襲に失敗したのが運の尽きだったな。
「リセット」
高速で指が戻るさい、ドゴドゴと肉を削った。赤と白はピクリともせず、ついでにボスにもダメージが入る。
よし、上出来だ。赤が炎を飛ばしてきた以上、白は神聖呪文を使う可能性が高かったからな。回復もありそうだし、ツブせて良かった。
残り2匹。散開していなければ、一度に倒せていたな。惜しい。
「ギギャーーー!」
ボスがひときわ凄まじい雄叫びを上げて襲いかかってくる。
――ありがたい。お嬢様に向かわれる方が厄介だった。
これなら、さっきと同様の技で倒せる。
そう思っていたら、銀ゴブリンがボスに魔法を飛ばした。
「ギェ~!」
その途端、ボスがいきなり速くなる。
「なに!?」
ぼぐっしゃあ!!
左肩甲骨と鎖骨をブチ折られた。
――しまった!
なおも振りかぶってくる。
「うおおっ!」
なんとか頭蓋骨を銀ゴブリンの後ろに投げた。残りの骨はバラバラにして回避する。
放物線を描く私を、銀が目で追った。
「――ちっ」
一瞬、銀の腹の膨らみが目に入った。
「リセット」
子持ちの銀の体を、猛烈な勢いで骨の嵐が通過した。今までで一番ヒドい肉片と化す。
許せとは言わん。
安らかに眠れ。
「む」
魔力の不具合か、それとも殴られたせいか。
左の鎖骨と肩甲骨から先が、戻っていなかった。
感覚はある。しかし、殴られて粉々になったせいか、リセットには多大なパワーがいりそうだ。
「アブない!」
お嬢様の声で敵に集中する。ボスの棍棒を食らう寸前、今度こそ先にバラバラになった。
しかし、予想以上にボスは素早くて狡猾だった。リセットをかなり警戒しており、いずれの仕掛けも不発に終わる。
砕かれた左肩から先の骨は、依然として戻ってこない。仮に戻したとしても、事態の打開は不可能だろう。
「あなた、マズいわよ!? 魔力が……!」
「いえ、いいんです」
「何がいいのよ! 倒せないのよ!?」
「そうですね」
――そう。そしてそれは、目の前のボスも同じだ。
どうだ、ボス。無限ループに見える状況は。
こっちは、魔力が消えるとマズいが、お前は知らないよな。なら、私が延々と回避できるように思ってしまうハズだ。
いつまでもかわし続ける私に焦れたお前は、どうする?
「ギェ、ギェギェー!!!」
私の相手をやめたボスは、お嬢様に向かった。
倒すのに骨が折れる私よりも、与しやすいと踏んだのだろう。あるいは、再び人質という手段も可能である。
――ああ、別に卑怯とは言わんよ。むしろ、こう言わせてくれ。
「ありがとう」
ボスを十分に引きつけたお嬢様が、体内から私の骨を出した。砕かれた、左肩から先の骨を。
「リセット・フルパワー!!」
次の瞬間。
無数の骨が、散弾銃のごとくボスに降り注いだ。




