表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/188

149話目 始まる前に終わる

 私はノヴェッラ婆さんの選挙事務所にて、過去の新聞を見せてもらった。


「――これはヒドイ」


 紙面では、マリーノ評議長を巧みに貶めるような論調が展開されていた。ノヴェッラ婆さんについても、「老害よ去れ」、「後継者に変われ」などといったコラムで、たびたび槍玉に挙げられている。1つ1つは小ネタだが、ネチっこくやられると凶悪だ。

 そんな中、フェリー女についてだけは褒める記事が頻発していた。――敵と認定していいな、クソッ。


 島出身の護衛に尋ねる。


「この新聞、島のどこで刷られてます?」

「左下だよ」


 クスリのエリアか。――見事なハッコウ具合だことで。


 机に新聞を叩くようにして置いたら、一回転して下のゴミ箱に落ちた。




 選挙用のポスターや立て看板などはないため、国側の準備はそれほど必要ないらしい。そのため、立候補者の届け出を行う公示日は早く、その分、投票日までの期間が長く取られているそうだ。


 ――にしても、公示日が3日後というのは早すぎるだろう。現職議員が全員揃ってると、こんなにスピーディーなのか。


 陣営は、バンビーナを「魚の穴」で叩き直してから大々的にスタートを切るそうな。


 私はそれまでの期間、島の政治情勢や選挙関連について、ひととおり叩き込んでおいた。




 そして公示日。


「だ、だいじょうぶ、です……」


 まだ顔色は悪いが、なんとかマシになったらしいバンビーナが、護衛らとともに出てきた。

 ノォ婆さんは、眼帯ごしにボリボリ掻いている。


「セレーナ、しっかり頼んだよ」

「分かりましたわ、お婆様。――さ、行くわよ、バンビーナ」

「は……はい」


 バンビーナは、胸のブローチをぎゅっと押さえて歩き出した。覚悟が決まったようで何よりである。


 しかし、受付場所である市役所までの道中で、子鹿がモジモジし始めた。


「あ、あの……すみません。キンチョーして、おトイレに……」


 しまらない奴め。


 市役所にほど近い場所で、ちょうど公衆トイレがあったため、そこでトイレに行かせた。もちろん、扉の前に護衛を立たせている。


 ――うっ!?


 不意に、強烈な死臭を感じた。


「ガイさん。どうしたの?」

「セレーナ様。――向こうから、死臭がします」

「え、誰もいないわよ……? あっ」


 角を曲がって、船のかぶり物をした女が歩いてきた。


「あら、おはようございます、セレーナ王女」

「フェリーチャ船長……。ええ、おはようございます」


 向こうもお供の護衛が数名いる。


 ――このうちの、誰から死臭がしてるんだ?


 バンビーナに似た鹿人の女が、フェリーチャの袖を引っ張った。


「ねぇ~、船長~。早く行こうよ、うぇーい」

「あらあら、ディアマンテったら、せっかちね」


 その言葉に、セレーナは耳ヒレをぴくりとさせた。


「ディアマンテ……? あなた、クスリに手を出したっていう、従姉妹のディアマンテ!?」

「おぅ? そんなアンタは、セレーナ姉ぇ~? うぇーい、チョリーッス」


 ――軽いな。鹿ビッチと呼ぼう。


「そ~そ~、アタシィ~? 議員に立候補すっから~、ヨロシク~」

「はぁ!?」


 思わずフェリー女を見るセレーナ。


「本当ですか、船長!?」

「ええ、もちろん。彼女はキチンと更生しましたよ。人は立ち直れるんだということを、身をもって証明してくれているんです」

「で、ですが、実力が……」

「たしかに、まだ途上ですね。――なので、私が面倒を見ます」

「うぇ~い! 見られま~す!」


 ウルセェ、鹿ビッチ。


 2人とその護衛らは、そのまま市役所の方へと去っていった。


「セレーナ様。あのディアマンテとかいう女性は、どなたですか?」

「――お婆様の孫よ」


 マジか。


「勘当した長男の娘なの。たしかに、船長の更生プログラムに入ってるとは聞いてたけど……まさか出馬だなんて」


 いま会っただけでも、ありえなさは分かったよ。――おっと、そうそう。


「セレーナ様。死臭を出してる人間が特定できましたよ」

「そう。誰?」

「フェリーチャ船長です」

「――ウソでしょ?」


 だよな。自分の鼻でなかったら、とても信じられん。


「ですが、本当です」

「ピンピンしてたわよ?」

「私も、そこは疑問ですね」

「はあ……間違っても船長の前では言わないで」


 セレーナは額を押さえた。


「ところで、バンビーナはいつまでトイレに入ってるの? 誰か、様子を見てきてちょうだい」


 丁度そのとき、焦った様子で護衛が出てきた。


「た……大変です! バンビーナ候補の返事がありません!」

「なんですって!?」


 トイレの裏手に回ると、窓が開いていた。どうやら、そこから出たらしい。


「逃げたの!?」

「あるいは……襲われたのかもしれません」


 おいおい、非常にマズいぞ……。

 候補が消えたら、どれだけ戦略を立てようとオシマイだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ