148話目 おかんとピルヨと、時々おとん
私たちは市役所をお暇することにした。
「ほっほ……食事は中央エリアなら『ルイーザの酒場』が良いでおじゃる。あそこはマリーノ評議長の妹殿がやっておるチェーン店でのぉ、ギャングもあそこでは暴れぬでおじゃるよ」
うむ、安心して食える店は重要だな。
礼を述べてドン・マウロと別れたのち、私たちはその店でようやく食事にありつけた。パスタと赤ワインが美味い大衆酒場である。
なお、セレーナ付きの護衛は、それでも立ったまま周辺を警戒していた。食いっぱぐれは大変だな。モグモグ。
「ガイさん」
周囲が騒がしいなか、セレーナがスプーンで私を指した。
「その薬、食後に飲めと『船長』から言われましたけど、飲みますの?」
めちゃくちゃトゲがあるね。
「飲みますよ」
フェリー女を敵だと言われて気分を害するのは分かるが、可能性は高い。島はドラッグマネーに溺れる寸前だよ。
私は食後に白い錠剤を飲んだ。
「うっ!」
「ガイさん!?」
私は体を震わせつつセレーナを見た。
「――ウマい」
「殺すわよ」
なんだよ、良薬口に苦しというじゃないか。ウマかったらビックリするだろう?
「こぉんばぁんはー!」
その時、どこかで聞いた鳥のイントネーションとともに団体が入ってきた。
「あー! アンちゃんやー!」
うわー、ピヨちゃんだー……って、ウソだろ?
後から入ってきたハーピーたちも、私たちのテーブルの近くにやってくる。護衛がサッと構えるが、私に近づく40代女性については見事にスルーした。
「どーも、おニイさん。うちのピルヨが、ほんまお世話になっとりますわ」
「あ……え?」
「え~ぇ、そらもー、羽根を折って羽根伸ばそうみたいな子でっから、よーけ迷惑をかけとるんやおまへんか?」
「いえ……そんなことは」
「はー、ありがたやありがたや。あ、ウチらはピルヨのこと、盛大に送り出したんがつい昨日みたいやわーとか少~しお喋りしてたら、なんや渇き覚えたさかいな? ノドに魔力補充ですわー」
「おかん!」
ピルヨが慌てて引き剥がしにきた。
「余計なこと言わんといて!」
「アホ! 王女様とお近づきになれたんやろ? お礼やお礼!」
「ありがとーだけでえーねん!」
なお、他のハーピーはすでにビールを飲んでいる。はいはい、ピルヨの帰ってきたお祝いにかこつけて飲みたいんだな。
「あ、そういえばそっちのおネエさんは、どっかで見たことあるんよねー。どこやったかなー、んー、なんやノドまで出かかってるんやけどなー」
「セレーナ王女様や」
「あーっ! せやせや! どーも、ウチの子よろしく頼んますー」
「アカンて! その王女様はちゃうねん! 3女、3女! スラちゃんの方や!」
おう、一気にカオスだ。
セレーナが小声で言った。
「ガイさん、そろそろお邪魔のようだし引き上げましょう」
「いえ、島の話を聞くいいチャンスです。それに……彼らも1票を持っておりますよ」
私は立ち上がった。
「お近づきの印に、今いる方の酒代を1杯ずつ奢ります!」
すぐにどよめきと拍手が巻き起こった。
「このおニイちゃんは、えーニイちゃんやで~!」
「ほな、こっからここまで全部!」
待てコラ。
「1杯ですよ、1杯!」
「せやでー? い~っぱいやろ?」
「ジョッキ1つ分!」
「「「ケチー!!」」」
まあ、ステキな人たちだこと。
ガソリンも入って舌も滑らかになったのか、バンバン情報が聞けた。
「なるほど。ヤケクソ解散……ですか」
「せやで」
ピルヨのおとんやと自己紹介してくれたハーピーさんが、新聞について話してくれた。
「ワシャ号外好っきゃから、よーけ集めんねん、北も南もな。ほいたら、どーも同じこと言ぅとるハズなのに、印象が違うンや」
「ははあ、今回のは、北だとトモダチ解散でしたね。友がピンチの時に助けないのはどういうことか、みたいな」
「せやろ? 南では、法案が否決されたから、評議長がだだっ子みたいに解散させおったでーみたいな言い分やねん」
うわぁ、新聞をやられている。テレビもあったら完敗だったな。
「せや、アンちゃん。おたくの子鹿ちゃんも言われとったで? ヘタレのバンビーナって」
ぐっ……話題を変えよう。
「ピルヨさんのお父さん。これは内緒の話ですよ?」
「お、なんや、えー話か? ――よし、みんなー、今からガイくんが、ナイショの話するでー!」
本当にノリいいな。みんなが聞く姿勢になった。
「実は、トモダチ解散の方が実態に近いんですよ」
「お? なんでそないな事が言えるんや?」
「その場にいましたので。ねえ、セレーナ王女様?」
「ええ」
セレーナはうなずいた。
「イェーディルから、協力法案についてお願いしに来ましたの」
あちこちから、「あー、そらそやわー!」「確定やん!」と声が上がる。
まずは、一矢を報いたか。
翌日、二日酔いになった。
「うぅ……」
ああ、【解毒】の薬と酒は……相性が良すぎたな。というか、血液も脳もないのに、ドコで酔ってるんだ私は。あぃたたた……。
ふと肋骨を1本外してみると、白くなっている。
よし……反撃開始だ。




