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147話目 正解は教えてくれない

「おっと……そうそう、評議長からの伝言でおじゃる」

「マリーノさんが?」


 意外……でもないか。市長としてやりとりはあるだろうし。


「ヒゲの英雄いわく、『クスリの影響は予想以上に強い。そちらで2議席取ってくれ。こちらで最低3は取る』……以上でおじゃる」


 北で3/5、南で2/4か……。謀殺のリスクを考えたら、どちらかでもう1議席欲しいな。


 セレーナは、少し表情を緩めた。


「良かったですわ。それなら、バンビーナとフェリーチャ船長で2議席です」


 ――ん?

 いや、待て……なにか、とてつもなく思い違いをしている気がする。


 黒い骨の匂いは、違和感を覚えつつも慣れていた。死臭を放つヤク中患者に比べれば誤差である。


 ――そうか、解せない理由が分かった。


「お二方、失礼いたします」


 私の呼びかけに、セレーナとドン・マウロは視線を向けてきた。


「反対したメンバーの理由は、なんでしょう」

「ほっほ……その方、名をなんと申すでおじゃる?」

「ガイギャックス――ガイとお呼び下さい」

「左様でおじゃるか。ではガイ、クスリ漬けの議員は簡単であろ? 否決した方が骸骨王サマの復活に近づくからでおじゃる」


 ああ、そこはOKだ。


「では、他の3議員は?」

「個人主義に走った結果でおじゃるな」


 ドン・マウロはキセルを取り出した。


「ロッセッラ、猿の息子、そしてドン・ガブリエーレ……。情報収集を疎かにしているから、ヨソの国など放っておけ、などと思うでおじゃる」


 刻みタバコを丸めて火皿に入れる。


「解散が、もう少し遅れていたら詰んでいたでおじゃるな」


 銀色の点火装置で火をつけ、ゆったりとフカしてみせた。


「船での爆破を狙った規模からして……現時点で、ドラッグマネーは南北2議席ずつほどの力があるでおじゃる」

「えっ」


 セレーナは愕然とした。


「じゃ、じゃあ……ドラッグマネーだけでも、すでにギリギリ……」

「もっとも、ギャング側は、クスリのヤバさをよく知っているでおじゃる。反ドラッグ陣営で固まれば、今度は、姿を見せたクスリ漬けのネクロ教団を一網打尽に出来るでおじゃるよ」


 今度の選挙は、どっちが過半数を取るかで、天国と地獄になるわけか。


 ――マズいな。容赦ない地獄ルートがありうるぞ。


「私の穿ちすぎであれば、無用な波風を立てることになりますが……」

「ほっほ、構わぬ。言うでおじゃる」

「最悪の場合……現在、詰む寸前です」

「なぜでおじゃるか?」


 私は頭蓋骨をなでた。




「フェリーチャ船長が、敵の可能性があるためです」




「――なっ」


 すぐにセレーナが怒りだした。


「ガイさん、あなた何を言ってるの!? 船長は議案に賛成したわよ!? 敵陣営なら反対するでしょう!」

「いいえ、しません。――協力法案の決をとった時、フェリーチャ船長は最後・・に手を挙げました。反対が5票……すなわち、『自分が賛成しても否決する』と確信したからです」

「妄想よ、ガイさん! 根拠はコレだけ!?」

「船長が……襲われていません」

「良かったじゃない!」

「いいえ」


 ゆっくりと首を振る。


「船長は、薬物中毒患者を治療するという、スバらしい活動をされておりました。その上、常日頃から狙われているノヴェッラ様よりもガードが甘いです。――いいですか? ドラッグマネーからしたら、天敵みたいな存在です。真っ先に殺したいほどに」

「――船長は、強いのよ!」

「お婆様よりもですか?」

「え? えっと……白と黒のエキスパートなの! ――ああ、疑り深いガイさんに言っておきますけどね! 黒で死霊術士じみたことも出来るけど、治療のために習熟してるだけよ!」


 はぁ……ガッツリ反論してくるな。

 だが、いつもより思考がニブっている。盲信だ。


「ならば、セレーナ様にお聞きしましょう。薬物がギャングの資金源になっていることを、船長は肯定・・しましたよ?」

「――あっ!」


 ああ……キツい。

 船長が敵の可能性が、どんどん強まっている。


「実際は、ネクロ教団の資金源です。そうですよね、ドン・マウロ?」

「そうでおじゃる」


 吸い終わった火皿のカスを、灰の火鉢にポンと落とす。


「我らは、治安の悪化が困るでおじゃる。得するのはネクロ教団の方でおじゃるよ」


 セレーナは、銀髪をいらだたしげに掻いた。


「せ、船長の説明が不正確なのは……部外者への分かりやすさを優先したせいよ」

「薬物問題を扱っている船長が、大事な所で誤誘導しますか? この島の市長はドン・マウロなのですから、彼と組むのがクスリ撲滅への近道です」

「えっと……彼女がギャングを信頼してないからでは? あ、悪辣な手段にも……及んだり、するし……」


 口元を覆ったセレーナだったが、不意に表情を明るくした。


「あっ、そうよ、年少者をクスリから救うプロジェクトもしてるわ! それに、ガイさんの今までのお話は、全て推測でしょう?」

「はい」

「仮説は気に留めておくわ。でも……証拠がないなら、やめて」


 ああ、今はここまでか。


 現実の人狼は……精神を追い詰める。

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