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146話目 はーい、島におクスリ出しときますねー

 セレーナも、少し驚いていた。


「あなたが……ドン・マウロでしたか。兼務は大変じゃございませんか?」

「ほほぉ、王女殿もイェーディルの使者にして、キューブ会社の支社長でおじゃるよ?」

「――それもそうですわね」


 偉い人間が役職をたくさん持つのは、よくあることだ。


「して、我になんの用でおじゃる?」

「すでにご承知のこととは思いますが、お婆様が船内で襲われました。一命こそ取り留めたものの、選挙戦には出られませんの」

「ふむ」

「代わりに、バンビーナ候補を支援していただきたいのですが」

「コロッセオの、最年少優勝者……これだけを聞くと、実に素晴らしい『塔』でおじゃるな」


 ドン・マウロは、ペンをまっすぐに立ててみせた。


「我らの言うことも聞いてくれて、国民にもよりよい暮らしをもたらすという、うら若き英雄……広告塔として、しっかり育てたいでおじゃる」

「それでは……」

「ただし」


 ドン・マウロは、ペンをパタンと倒した。


「肝心の英雄はどこであろうのぉ? 襲撃におびえる子鹿など、取り立てのさいに山ほど目にしたでおじゃる。そんな姿をさらすぐらいなら、凍てつくヴェスパーの海に体をさらすでおじゃるよ」


 おう、私は済ませてきたぞ。さっきな。


「今、お婆様が特訓中ですわ。キッチリ仕上げます」

「保証は?」

「その前にお聞かせ下さい。船で襲われた規模は、『前座』でしょうか?」

「――どういう意味でおじゃる?」

「この島でも、連日連夜あの規模に襲われるのであれば、保証は致しかねますわ」


 双方の護衛がピリつく。

 セレーナは今、「お前らギャングの勢力下なハズだろ。なんでネクロの奴らが野放しなんだよ。怠慢だろボケ」というのを、品良くブチかました。

 ドン・マウロは、綺麗に揃った前歯を見せてニタリと笑う。


「いや、失礼したでおじゃる。我らもネズミの動きは警戒していたでおじゃるが、イェーディルよりやってきた魚が、骨のエサをもたらしたであろ? あれでネズミがトチ狂ったようでおじゃるよ」

「あら、まるで情報を早くお届けしたのが悪しきことかのようなお言葉ですわね。その魚が伝えずとも、いずれ誰かが伝えましたわ。手遅れになってから」

「おっほっほ……相済まぬの。船の動きは不覚をとったでおじゃる。この島では、大規模なネズミ花火はさせぬでおじゃるよ」

「分かりました。では、候補もそのレベルには耐えるよう、仕上げます」

「OKでおじゃる」


 セレーナとドン・マウロは握手を交わした。


「さて、王女殿の国を助ける法案が否決されたこと……それと件のネズミとは、密接に関わっているでおじゃるよ」

「どういう事ですか?」

「今から、この島の現状をお教えするでおじゃる」


 ドン・マウロは島の地図を広げた。


「この、少しタテ長の島は、4つの陣営と、十字の緩衝地帯によって成り立っているでおじゃる」


 先ほどのペンで、スッ、スッと線を引いたのち、軽くそれぞれを説明してくれた。



 右上:ノヴェッラ エネルギー関連が支援

 左上:フェリーチャ 病院・海運が支援

 右下:ガブリエーレ 建設土木が支援

 左下:ジャコモ クスリが支援



 ――おいおい。せめて取り繕えよ、1ヶ所。


 セレーナは溜め息をついた。


「クスリが支援、というのは……」

「分かりづらいとな? ――クスリ漬け、ドラッグマネーでおじゃるよ」


 確定してしまった。


「北ではトビアが、ドラッグマネーでの当選でおじゃるな」


 ドン・マウロはそう吐き捨てつつ、左下に×印を書いた。


「ヴェスパーは小国が多かったでおじゃるからの。古来よりイザコザが絶えなかったでおじゃる。そんなふうに市民が疲弊したところへ、クスリが忍び込んだのでおじゃるな」

「――それって、誰が最初に持ち込んだのか、ご存じ?」

「はて、今となっては不明でおじゃる」


 はいはい、あんたらギャングだろ。


「されど、このクスリ……如何せん効き目が強すぎたでおじゃる。市民が消えてしまったら市長も消えるのはごく当然。生産力も下がって税収も下がるから、我らは取り締まることにしたのでおじゃるよ」


 うわーい。もう、清々しいほど自分勝手。


「しかし、未だに白い粉をバラまく売人が後を絶たぬでおじゃる。見せしめの極刑も、ネクロ信者には効果がイマイチでおじゃるよ」


 おっと、出てきたネクロ信者。


「ドン・マウロ。彼らの規制は出来ませんの?」

「我らは『話し合って決める国』を目指したでおじゃる。そこで、それぞれの国で信じる宗教も、みな一様に認める方針を採ったのでおじゃるよ」


 ドン・マウロは指を組んだ。


「クスリやネクロ信者がはびこる原因は、市民の不満や不公平感でおじゃるな。スジの良い解決法は、彼らが住みよい世界に変えていく事であろ? いま、強圧的に制限をしたら、かえってその不満が大爆発するでおじゃるよ」


 おや?

 ギャングが、きちんと市民のことを考えてる?

 ――などと感じるのは、クスリのヒドさと比較するからだろうな。


 よりマシな方を。より最悪ではない方を選べるのが選挙だ。

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