表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/188

142話目 ちょっと一服

 ふと気付くと、病院のベッドに横たわっていた。


『あ~ら、ザンネン。あなたの夢は終わりよ~?』


 瀬玲七が、枕元から私を見下ろしている。


『ずいぶん幸せな夢だったみたいねえ~。笑い声が気持ち悪かったわ』


 ううっ……瀬玲七……。


 振り払おうとするも、手が動かず、声も出ない。


『ねえねえ。デブなあなたが好き~って、本気で言ってると思ってたの? スッゴーい、あなた頭がいいと思ってるバカよね~。え~ぇ、あたしも好きだったわ~、お金出てくるオモチャだったもん』


 瀬玲七が耳元でささやいてくる。


『ねえ、保険金サギってあるじゃない? あれって、犯罪で捕まっちゃうでしょ。だけど、あたしは違うの。あくまであなたが勝手にお金を出しただけ。スキスキスキ~ってね。ありがとね~。お礼に特大のどん底に叩き落としてあげるわ。これ、なんて言うんだっけ? ざまぁ? いいわね~、ざまぁ大好き~』


 ふざ……けるな……。


『あ、言いふらしていいわよ? でも、あたしってば外ではイイコちゃんだから。よ~くご存知でしょ~?』


 ああ……よく知ってるさ。


『品行方正なあたしと、腐ったデブ。どっちを信じるかしら?』


 くそっ……! 瀬玲七……瀬玲七……!






「――はっ!」


 私は目が覚めた。

 かたわらには、銀髪の女がいる。セレーナだ。


「気付いたみたいね」

「ここは……」

「船の上よ。爆発してから3分ほどね」


 周りでは、ノォ婆さんや傷ついた護衛らが眠っていた。セレーナの【治癒領域】の恩恵を少しでも増やすためだろう。

 抵抗の概念は、回復魔法にも適用される。治すさいの常套手段だ。


「あなたの意識が飛んでるなか、ずーっと、恨みがましく呻いてくれてたわ。セレナ、セレナってね」

「――申し訳ございません」

「こちらこそ。チラ見で催促して、悪かったわ」

「いえ。全員生き残るには、あれがベストでした」


 起き上がろうとして、体が動かないことに気付く。


 そうだった……。手だけでは「代わりに持つ」扱いにならなかったので、頭だけ船に残して、全部ピルヨに持って行かせたんだった。


 頸椎から下は、爆心地で木っ端みじんである。


「ガイさん。ここからリセットは出来る? 駄目なら船に戻らせるけど」

「感覚はあるので、なんとか出来そうです」


 護衛の1人に、頭蓋骨を持って甲板に出てもらった。


「リセット・フルパワー」


 多大なエネルギーの消耗と引き替えに、体の集まってくる感触がある。しばらくして、大小さまざまな骨がやってきたので、いったん近くで全部がくるまで渦を巻いて待機させ、それからユルユルと組み立てていった。


 骨が黒ずんでるな……。それに、病院で嗅いだ妙な匂いもする。

 潮の匂いや焦げたものとも違う。いったい何だろうか。


 歩いて戻ってくると、少し驚かれた。


「い……色黒ね」

「イメチェンしました」


 カラ元気である。

 正直、殺意と狂気をむき出しにして襲ってくる敵は、精神的にキツかった。ゴブリンを相手にしたときは冷静でいられたが、あれは人外だったからというのが大きい。

 ヤク中とネクロ教団の信者は……人間だった。

 殺さなければ殺されるという状況にも関わらず、ロクに動けなかった。


 向こうにあるストーブの前では、ピルヨが歯をガチガチ言わせながら暖を取っている。ノォ婆さんの後継者だというバンビーナも、その近くで泣いていた。


「あぁぁ……ムリですムリです、候補なんてムリムリムリムリ……」


 まあ、気持ちは分かるがね。


 セレーナが、空になった紫キューブを置き、次のを手にした。


「お婆様だけど、かなり重傷よ」

「では、出馬は」

「出るって言うでしょうけど……」


 静かに首を振る。


 ――ああ、ダメか。


 ピルヨの羽も、治るまで2ヶ月以上かかった。回復魔法は、自らの治癒力を促進する効果に重きを置かれている。万能には程遠い。


「セレーナ様。敵はここで全滅させるつもりだったハズですから、今後これほどの猛攻はないと思われます」

「戦力の逐次投入を避けてると見たのね。嬉しいわ」


 しかし、選挙戦は始まったばかりである。今後も何を仕掛けてくるか分からない。

 子鹿を見ると、やっぱりブツブツと呟いていた。


「あぁぁ、死んじゃう……死んじゃいます……ムリムリムリ……」


 ――これは厳しいな。公示日までになんとか立て直さねば。


「ねえ、ガイさん」


 セレーナの呼び掛けに、私は振り向いた。


「ちょっと迷ったけど……やっぱり訊くわね」

「なんでしょう」




「『セレナ』って、誰?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ