141話目 歓迎の花火
ノォ婆さんにトドメを刺す寸前の奴を、大女が殴り飛ばした。
すぐにセレーナが駆け寄る。
「お婆様!」
【治癒】を使うため、白魔法に切り替え始めた。そこへ、一般客の方からナイフが乱れ飛んでくる。
「ぬうん!」
ザザザザクーッ!
大女が体を張って止めた。
「シビッラ!」
「大丈夫です!」
そのまま猛ダッシュして、ナイフ男に顔面パンチ。雄叫びを上げつつ、さらに客へと睨みを利かせる。
私もセレーナの元へ駆けつけた。
「護衛のみなさん! 一般客の中にも敵がいます! 敵が紛れ込んでいます!!」
くそっ! クスリで暴れさせた所で便衣兵だと……? 何でもありか!
『ゴゴゴゴブリンどもー! ブッ殺してやらー!』
『ネクロ教団、バンザーイ!』
あちこちで悲鳴と狂った叫びが聞こえる。
護衛たちも、便衣兵には苦戦していた。【巨大な盾】などを張って必死に防御していたが、それは敵も熟知しているようで、不意打ちの初手は大量の投げナイフである。当たりどころの悪かった護衛から、1人、また1人と倒れていく。
私は、せめて【力場】を張ってみたが、ナイフ1本防げなかったので諦めた。
「ヤク中を眠らせたりは出来ませんか!?」
「ダメだ! クスリの効いてる人間は抵抗力が上がっている! 範囲魔法にしても、最悪、一般人だけが眠ってしまう!」
「ならば、避難してる側の一般人に……!」
「教団の奴らもクスリを飲んでいる!!」
経験則だろうな、くそっ。
攻め手は1番いいタイミングで攻められるから、防衛側はどうしても後手に回る。仮に良い対策が出来ても、次の攻め手はそれを上回る策で押し寄せてくる。
それでも、多大な犠牲の甲斐あって、ヤク中と便衣兵の猛攻を鎮圧した。
「イ、イーディアス様ァ……! 次は、あなたのしもべで蘇ります……ガフッ!」
最後の1人が、笑顔で吐血し、そのままくたばった。
見ると、敵は残らず事切れている。クスリの影響らしい。
ちぃっ……ネクロ信者か。
私は異様な匂いを覚えるなか、辺りを見回した。
セレーナが伝えた情報は、奴らの耳にも入っている。
“骸骨王さまが復活”
信者は狂喜乱舞ってわけだな。
――いや、違う。
こっちはまだ、みんな生きている。
私たちの死をもって完成とするなら……、トドメが来るはずだ!
「すみませんが、手分けして船内を調査しましょう」
婆さんを治療中のセレーナが、私を見咎めた。
「ガイさん、あなた何をする気?」
「爆弾を探します」
「何を言ってるの? そんなチェックぐらい、最初にしているわ」
「しかし、現に襲われました。――私なら、船を沈める所までやります。ぜひとも再チェックを」
護衛の面々は渋っていた。たしかに、便衣兵がまだ出る可能性もある。ここにも護衛が必要だ。
だが……この場にクギ付けの今こそ、爆弾は効果を発揮する。
「昨日、ノヴェッラ議員は言いました。あたしを死なせるなら、世界をブッ壊すほどの爆弾を用意しろと。――私が敵なら、爆殺を企てます」
「ガイさん、あなたね……」
「へっへ……、いいぜ、お前……」
そのとき、ノォ婆さんの意識が戻った。
「セレーナ……骨の、言う通りさ……」
「お婆様!」
「ネクロの奴らにゃア、身を捧げて初めて発動するような邪法がある……。船をもういっぺん、【魔力感知】で調べな……」
号令一下、動ける護衛の半分が魔法でローラーした。
「! 反応ありました!」
男子トイレの貯水タンクの中に爆弾がセットされていた。ご丁寧に、残り時間も表示されている。あと3分だ。
――生け贄の数が多かったからだろうな。禍々しい黒オーラが漏れ出してるよ。
時間的に解除はムリとのことで、船からブン投げることとなった。
「む?」
護衛は甲板から放り投げようとしたが、手から離れない。
「なにっ……!? か、かくなる上は自分ごと!」
「へっ、落ち着けバカ……」
ロクに傷の癒えてない婆さんが悪態をついた。
「奴らの、イヤらしい手口さ……。誰かが触れたら、くっつきっぱなしって仕組みだよ……」
婆さんは爆弾をヒョイと持った。
「別の人間が持ちゃあハズせるのさ。こんな風にな……」
そして、私をチラリ。
手が離れた護衛は、慌てて婆さんを説得にかかる。
「ノヴェッラ議員、あなたの代わりに自分が!」
「へっへ……しなびたババアが死にゃいいさ……」
またもや私をチラリ。
「お婆様、いけませんわ。わたくしが代わりに……」
セレーナも、私をチラリ。
――あー、くそっ。分かったよ。
「私が持ちましょう」
立候補させられた。
「アアァァアンちゃーん! ワワワテ、ごっつサムいんやけどー!」
冬の海の上を飛ぶピルヨ。手にした風呂敷内には、私のボディと爆弾が入っている。
「もー、もー放す! アカン、アカンて! もー真っ赤やー!」
残り30秒の時点で、ピルヨは風呂敷ごとブン投げた。
あーあ、海で泳いだり潜ったりする予定はなかったんだが。
無事に着水し、体が濡れる。
やれやれ……浮き世の寒さが、骨身に染みるねえ。
ゼロと同時に、特大の水柱が上がった。