14話目 部外者は去るべし
カラスめ! どこまでも邪魔してくれる!
頭を振った私は、スライムのお嬢様に向き直った。
「その核のヒビですが、治せますか?」
「う~ん、難しいわ。こんな事例は初めてだもの」
漏れている魔力が、依然としてゴウゴウ燃え盛って見える。
――命の尽きるさまを見せつけられるのは、さすがにキツいな。
たまらず、【魔力視覚】をオフにしてもらった。玉を返してもらい、頭蓋骨の中にしまう。
「お嬢様。玉の魔力は、どのくらい保ちますか?」
「10時間ぐらいだと思うわ。――ごめんなさい」
心なしか縮こまるスライムのお嬢様。
ああ、腹をコワしたせいで時間が減ったと思っているんだな。
「悪気は無かったので、OKです」
知らなければ、回避しようもない。
「それより、直せる方に心当たりは?」
「あたしのパパなら確実に直せるわ」
「そこまでの道のりは?」
「洞窟から出ないと分からないわね」
「ならば出ましょう」
私も、知ってそうな奴に1人だけ心当たりがあった。
カーマインを飼っていた爺である。
――もっとも、あいつに直してもらった場合、館からは決して出られないと思うがな。
万一出られたとしても、その存在は「今いる私」じゃないだろう。
先ほどのゴブリン達の居住区を抜け、ダンジョンの出口を目指す。
「む」
後ろのお嬢様を手で制す。
「なに?」
「新手です」
手短に答える。
全部で4体。まだ気付かれてはいないようだ。
そのうち1体は、さっきのボスよりもデカく、いい武具をつけていた。
――なるほど、コイツが真のボスか。
その周りには、胸のふくらんだゴブリンが3体。女だろう。それぞれ、赤、銀、白の頭飾りをつけている。
奴らは、まっすぐ向かってくるようだったので、迂回して出口を目指す。
幸い、鉢合わせすることなく回避できた。
「ギェ!? ギェ、ギェギェ~!!」
背後から、甲高い叫び声がした。仲間の遺骨に、女ゴブリンの誰かが気付いたらしい。
ああ、恨みはなかったが、すまんな。
部外者は速やかに去る。また一族を増やしてくれ。
私とお嬢様は、奴らに気付かれぬように洞窟の入り口から出られた。
出た先は、森の中。山の斜面である。
木々の切れ間から、ふもとの町が見える。町はそれなりに大きいようで、中央には教会のような建物がそびえ立っている。
「あの大聖堂は、ソネの町!」
お嬢様が興奮して跳ねた。
「良かった、知ってる所よ!」
「お父様も、そちらに?」
「いえ、パパはイェーディルのお城……城下町にいるわ」
「そちらは、どのぐらい離れてますか?」
「えーっと……6時間ぐらいかしら」
不測の事態を考えたら、相当厳しいな。
だが、行くしかないか。
スッと動いた、そのときだった。
ボシュッ!
火の玉が襲ってきた。
「なにっ!?」
たまたまあのタイミングで動き出したため、回避できた。そうでなければ直撃だっただろう。
慌てて周囲を見回す。
「あ、あそこ!」
義肢の先へすぐさま目をやると。
「ギェギェ……! ギェギェギェ!」
20m後方の木のカゲから、赤い頭飾りのゴブリンが杖を向けていた。
「なっ……!」
道らしき道などなかったぞ。なぜ正確に、私達を追ってこれたんだ……?
バレたことが分かったのだろう。先ほどのゴブリンどもが4体、勢揃いで出てきた。
「ギェ~ギェ~!」
銀の飾りをした女ゴブリンが、杖に銀色の光を集める。
すると、私の背負い袋がぼんやりと光り出した。
「あぁっ……【追跡】!」
「なんです、それは?」
「愛用の品を対象にするとね、その物のありかが分かるの!」
ふむ。それで背負い袋が光った、というわけか。
途中で捨てることもないだろうし、対象に取るにはちょうど良い品だな。チッ。
「ギェギェー!!」
ボスが咆哮を上げた。ショートソードを打ち捨てると、背負っていた棍棒を両手持ちにして、前に出てくる。
「敵討ちってわけか……」
どうやら部外者は、この世界から去れ、ということらしい。