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138話目 これがセーカイ

「フェリーチャ議員は、病院をいくつも経営しているのよ」


 セレーナは、お供のガード越しに話しかけてきた。


「風変わりな帽子は、親しみやすさを覚えてもらって、ドラッグ撲滅の啓蒙活動につなげるためね。他に、海運業から資金援助されてるのもあるわ」

「セレーナ様は、なぜあの議員が好きなんですか?」

「票にはつながりにくいことを、地道にやっているからよ」


 けっこう深いな。


「1人でも多くの人を、クスリの依存症から救おうと頑張ってるの。治療薬の開発にも、力を入れてるのよ」

「なるほど」


 詳しいあたり、本当に好きらしい。


「セレーナ様。各評議員には、お婆様の方から根回し済みだとか。協力案が成立したあとは、どうなさいますか?」

「もちろん、闇の勢力の資金を辿るわ」


 ダルマさんガードをやんわり押しのけて、顔を見せるセレーナ。


「魚が裏切ったっていう予知夢なのよ? ここからネクロ教団におカネが流れてる可能性は高いわ。今ならまだ間に合うハズよ」

「――お言葉ですが」


 私は口を挟んだ。


「2、3年後の悪夢でしたよね」

「ええ」

「杞憂なら、バカな骨とお笑い下さい。――しかし、敵が大々的に仕掛けている場合、すでに汚染されている可能性があります」

「どこが汚染されてるの?」

「評議会が、です」


 お供のダルマや大女たちがニラみつけてきた。魚の国を悪く言うなとでも思っているのだろうが、冷静に考えるとそうなる。


「セレーナ様。むしろ、1人や2人は、すでに薬物マネーの支援を受けていると考えた方が自然です」

「――そうね。ガイさんは物事のウラをよく見ているわ」


 セレーナはうなずいた。


「全員が色よいお返事を下さったとのことだけど、それは『自分だけ反対しても可決するから』とも考えられるわ。それなら、目立つ動きを避けるため、大人しく潜伏しているわね。――新年の日に遊んだ、人狼ゲームみたいに」

「左様でございます」


 あれも9人か。同じ人数だったな。





 翌日、セレーナと私は評議会場に呼ばれた。町の中心にあるガラス張りのドームで、「開かれた議会」を表しているらしい。


「さすがは先進国。開放的ですね」


 抜けるような青空を見上げていると、セレーナは満足げだ。はいはい。


 導かれた先は、丸い部屋になっていた。私たちを囲むように9つの椅子が配置され、9人が腰掛けている。


 向かって右前方にいる大柄の亀人が、私を指差した。


「グハハ……骨が危険だと言う話で、骨が来るとはな」


 だよな。まあ、話が伝わっていることはよく分かったよ。


 私は軽く頭を下げておいた。


 それぞれの議席には、横倒しの黒い三角錐があり、亀の席には「ガブリエーレ」と書かれていた。ああ、噛み付きガメっぽいし、ガブリ議員だな。


 真正面のヒゲ男が、木槌を叩いた。


「セレーナ王女よ、よくぞいらしてくれた」


 どうやら議長らしい。赤い帽子に赤いマントを羽織っている。名前は「マリーノ」。


「70年前に世界を襲った脅威。その前兆として、予知夢が発生したという。――今回イェーディルで起きたことも、決してひとごとではない。骸骨王の復活は由々しき事態だ。セレーナ王女には、参考人として意見を述べてもらいたい」

「分かりましたわ、マリーノ評議長」


 セレーナは恭しく礼をすると、イーディアスの復活について述べた。全世界を相手に回して、なおも強大だった敵。予知夢の中で、ゴブリンや骸骨が大量に襲撃してきたさま……。その窮状について切々と訴えた。


 ――ん?


 私はまた、病院で嗅いだ匂いを感じた。どうにも鼻がムズムズするが、ここで妙な動きをして採決に影響したら一大事なので、必死に耐える。


「以上です。皆様のご判断を仰ぎます」


 おー、名スピーチだったよ。途中までしかロクに聞いてなかったが。


「ありがとうございます、セレーナ王女」


 評議長は目礼した。


「では早速、議案の可否を諮ろう。イェーディルへの協力法案に賛成の者は、挙手を」


 ノヴェッラ婆さんが手を挙げた。続いて、全身真っ白で銀のバイザーをした女性も手を挙げる。「テレーザ」と言うらしい。

 その後、船を頭に乗せたフェリーチャも手を挙げた。


 ――おや。


「なっ……3人だけ?」


 セレーナが動揺する。

 婆さんは、反対議員たちを睨みつけた。


「へっへ……、お前ェら、どういう了見だい?」


 議長は4対4の同数になったときだけ意思表示をするとのことだが、それでも5人が反対だ。


「おぅ、骸骨王の復活はヤバいって納得したよなァ? チンケな駆け引きのつもりかい?」

「い~え~、違うわ~ん」


 桃色のドレスを着崩した扇情的な女が、ふわふわの扇子をあおいだ。


「駆け引きじゃないの~。この国のパワーバランスってヤツ? それが変わったのよ~」

「キキッ、ロッセッラの言う通りだぜ」


 横に座る猿男も笑った。


「イェーディルが滅亡するから力を貸せ? そのために血を流せ? それで納得するのはお人好しだけだな」


 おいおい。9人中5人が反対したら否決だ。

 すでに狼は……予想以上にはびこっている。


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