135話目 魚介系に鶏ガラ
私は魚の群れに混じってヴェスパーへの道を南下していた。
師匠からもらった小瓶のフタを開け、スーハーやる。――んむ、乾いた砂の匂いだ。意外とこの体、鼻が利くんだな。
「セレーナ様、あの骨、アヤしいクスリをやってるのでは……?」
「大丈夫よ、シビッラ。彼はナチュラルでアレなの」
コイ女と大女が言いたい放題だね。他のメンバーも魚ばっかりだし、魚介系に骨がうっすら入ったラーメンか?
これぐらいなら、もうちょい骨が欲しいな。具体的には、スケさんあたり。新作マジックのアイデア出しとか、楽しそうだ。
「おーっ!? アンちゃん、どないしたんやー!?」
突然、上空から声を掛けられた。
見上げると、1匹のハーピーが冬空を飛んでいる。
「なー、ワテ呼んだやろー!? アンちゃん、魚ン中で1体だけポツンやったもんなー!」
いや、まったく呼んでない。帰れ。
「せやでー。今からワテ、里帰りやー!」
なに?
ピルヨは、「うおー、サブッ! やっぱこの時期は空飛ぶのアカンなー」とぼやきつつ、華麗に滑空して着地を決めた。
「なー、アンちゃん、スライムの王女様からクビ宣告されたンか? まっ、人生山あり谷ありや! そのうちいーコトあるで? いつかは知らんけど」
肩甲骨をバシバシ叩く。やめろコラ。
シビッラがひときわ冷たい視線を送ってきた。
「変なヤツを呼び寄せるな、骨」
「言われとンで、骨」
うるさいよ、鳥。
ああ……トリと骨で鶏ガラか。ラーメンなら好きなんだが、養鶏場は独特の匂いがしてダメだった。
そうそう、匂い匂い。土の気を嗅ぐ訓練だ。くんくん。
「アンちゃん……それ、めっちゃヤバいクスリやろ? あ、それでクビになったんやな?」
勘違いするな。くんくん。
ちなみに、道中の宿などは、ピルヨがちゃっかり交渉役に収まっていた。お前、どこでも生きていけるよ。
「あんなー、アンちゃん? でもワテ、ほんまはガッポガッポ稼ぐつもりやったんやで?」
宿近くの酒場で晩飯を摂っている。ピルヨは昆虫系のつまみをポリポリ囓ったあとにジョッキで流し込んで、「んあー! たまらんわー!」とご満悦だ。――お前、本当はオッサンだろ。
「えーっと、ほんでどこまで言ぅたっけ? あ、せやせや! イーッカの奴な、羽根治った思ぅたら、討伐隊のほうに、しれ~っと参加しとんねん! 言うてけや、あほんだら! 仲間、仲間!」
こんな偵察がいたら、300m先でもバレるな。
「ピルヨさんも参加すれば良かったのでは?」
「なーんか、今年はゴブリンが……って今年ちゃうわ、去年な、去年はゴブリン早かったやろ? その根元叩く言ぅんで、ゴッツい編成の討伐隊が、ちょろ~っと早かったンよ。ほんま、ワテの羽根が治るちょい前やで」
「あー」
不慮の事故を避けるため、参加するには完治が条件だからな。
「ですが、キューブのバイトはありましたよ?」
「流石に飽きたわー。――おっちゃーん、もいっぱーい」
空ジョッキを振ってアピールする鳥。
「ほんで、最近帰ってへんし、ヴェスパー帰ろかなー思たンよ。そしたらアンちゃんに会ぅたっちゅーワケやな。いやー、ラッキーやで、アンちゃん? こんな美人と旅できるとか」
うわーい、アンちゃんラッキーだなー。略してアンラッキーだなー。
「酒はロんでもロまれるら~!」
「はいはい、宿はこっちな」
やっぱりハーピーは千鳥足だった。