133話目 スライムさんが骸骨を倒した話
そこからの国王は迅速だった。
「コルネリア。討伐隊を率いて、我が国の使用済み黒キューブの根絶にあたれ」
「御意じゃ」
「マルヨレインは、サイロンで獣王に話を」
「分かったザマス」
「ドロテー、竜王に会いにいけ」
「おう!」
「セレーナは、魚人の評議会で議案にかけてもらえ」
「仰せのままに」
「私は、ドワーフの女王に話をしにいく」
――おや。まだ数名、指示がないぞ。
「ミーはどうするのかニャ、お父様?」
「ああ、ミーちゃんはお勉強だね。学ぶのが仕事だよ」
「分かったニャ」
ミーケは強くうなずいた。
これで、お嬢様以外はあと1人。
国王は、傍らに座る魚人を一瞥した。
「ブリジッタには、留守を任せる」
そこかしこで息をのむ気配がする。魚人が裏切ると夢見た上で、この采配だ。
「心得ました」
ブリジッタは楚々とうなずいた。
なおもくすぶる「声なき声」に、国王は告げる。
「ただの夢に振り回されるな」
正直ズルいが、言わんとすることは分かった。
過度に恐れていたら、相互に不信が芽生え、やがて真実になってしまう。
だからこそ、ガラ空きの城を魚人に任せるのだ。
――と、理屈は分かるが、それを実行できる肝っ玉はスゴいね。私には、肝どころか五臓六腑もないよ。
一言で疑念を払拭した国王は、「さて」とお嬢様を見た。
「スラヴェナをどう扱うか、悩んでいる。僕の思惑はあるが、それでスラヴェナを最大限に生かせるのか分からない。悪夢の想定を出し抜けているのか、それとも、大して変えられていないのか。――そこでだ」
国王は、お嬢様に手を差し出した。
「スラヴェナ。意見を聞きたい」
なるほど。悪夢から大きく逸脱した存在であるお嬢様。このワイルドカードを1番うまく生かせる先を、当のお嬢様に聞くか。
視線を一身に集めたお嬢様は、少し戸惑っていたが、ゆっくりと呼吸することで気持ちを鎮めていた。
「お父様。わたくしは……ジャスティアに向かいたいです」
ざわめきが聞こえるも、もはやお嬢様は平然としていた。
「かつて、骸骨王に最後の一撃を与えたのは、ジャスティアの白騎士でしたわ。夢では、彼らスライム族の参戦がなかったようですので、是非とも協力を取り付けたいと思います」
――驚いた、と言っては失礼か。
お嬢様は、格段の進化を遂げられている。
ふむ……、しかしジャスティアか。私が埋められる国だったか? なるほどな、スライムと骨にそういう因縁があったのなら納得だ。あまり行きたくはないが、お供しよう。
国王も、私の処遇が気になったらしい。
「スラヴェナよ、ガイはどうする気だい?」
「はい。セレーナお姉様さえよろしければ、ヴェスパーへの旅に同行させます」
――え?
思わずセレーナを見やると、軽くうなずいている。
「構わないわよ、スラヴェナ」
「ありがとうございます、お姉様」
おいおい、お嬢様。魚群に私を放り込むなど、やめてくれ。
「ガイ、お願いね」
「かしこまりました」
埋められる国VS魚人の国、ふぁいっ!
――クソッ、詰んでいる。
国王は、少し考える素振りを見せた。
「分かった。では、僕もジャスティアに行こう」
会議の場に、今までで一番動揺が走る。
「陛下」
牛人のドナトが、たまらずといった様子で声をかけた。
「ドワーフには、いかがされるおつもりで?」
「ああ、職人の話を進めよう。我が国で、武具以外に、宝石についても認める」
「それをしたら、国内の宝石商が打撃を……あ」
ジェレミー貴金属。それは、サファイアの首飾りとルビーの指輪を売られる程度の宝石店。
「大丈夫、切磋琢磨してくれるさ」
国王はステキな笑顔だった。
「これで、貸し借りなしだ」
うわあ、見事な調整。
「では、スラヴェナ。行くからには、必ず協力を取り付けるよ」
「はい!」
「よし。それじゃあみんな、準備に取り掛かってくれ」
事務方も、兵士一同も、速やかに会議場をあとにする。
――やれやれ。確定してしまったよ。お嬢様からの見事な一撃が。
スライムが骸骨を倒した……、だったか?
歴史とは、繰り返すものだな。