132話目 悲惨な未来など、簡単に変えられる
私の質問に、みんなは怪訝な反応を示した。
臣下の1人が手を挙げる。
「それは、スラヴェナ王女様に聞けば済む話ではないかね。必要な質問なのか?」
「はい、もちろんです。なぜなら、お嬢様が見られた夢は、いささか異なっていたためです」
「お願いします」と耳打ちすると、お嬢様は立ち上がって夢の内容を話した。
トロくて、おデブで、ミーケにも勝てなかった話を。
「――以上が、わたくしの見た夢ですわ」
凜とした佇まいに、みなは今更ながらに気付いたらしい。
そうだった……。むしろ半年前は、夢の方こそありえた未来だった……と。
私は、お嬢様が着席したのち、周りを見回した。
「お分かりいただけましたでしょうか。もし夢でのお嬢様がどんな状態か判明すれば、いかなる未来の延長線上かが把握できます」
すると、お嬢様の隣に座っていたミーケが、そ~っと手を挙げつつ振り向いた。
「ニャ……え、えっと……」
大人ばかりの中、子供1人でビクついていたが、何せ夢での主役だ。今日は強制参加である。
「兵士さんの誰かが、『スライムの援軍がいれば……』とか言ったときに、『あんなザコデブスライムの国に期待するのはよしなさい!』って、ミーは言ったニャ……。あっ、で、でも夢での話ニャ、お姉ちゃん……」
「大丈夫よ、分かってるわ」
お嬢様はミーケの頭をヨシヨシする。
「よく話してくれたわね、ミーケ」
「うにゃ……」
嬉しそうになでられる子猫。
――ホント、初対面のときからは想像できんよな。
ともあれ、状況は確認できた。
「『予知夢』と呼ばれてますが、お嬢様の情報がアップデートされてませんね。変わってないままです」
「ふむ」
国王は口元に手を当てた。
「みんな。この半年でスラヴェナの起こした変化に絞って、夢を重点的に思い出してみてくれ」
具体的に指示されたほうが話は集まりやすいようだ。それによると、魔道大会はセレーナが優勝し、ブノワ師はそれがきっかけで引退、エルフの国へ戻ったそうな。逆に、剣聖バウティスタはまだ犬人派の代表で、マルちゃんとの間が決定的に悪化。落城の時までずっと尾を引いていたという。
衛兵が口々に話し出す。
「獣人同士の連係、悪かったな」
「ああ。言われてみれば、アチコチでケンカしてたぜ」
エネルギー関連は、エルフのキューブ会社が城下町から撤退。魚人のサーバが、ここぞとばかりに値段を吊り上げ、それに怒ったドワーフ達がみんな国へ帰ったらしい。
「なるほどな。だから武具がボロかったのか。てっきり激戦のせいかと思ったぜ」
「俺もだよ。剣が折れて、ゴブリンにやられてた」
うむ、山の神を始めとするドワーフ工房がメンテをやっていたからな。それが消えたら大打撃だ。
どうやら……予想以上にお嬢様の貢献度は高かったらしい。
「いや~、ははは。スラちゃんのおかげで、惨敗はせずに済みそうだね」
国王のセリフに、みなもようやく笑う余裕が出てきたようだ。――さっきまでは、悲愴感がスゴかったからな。
お嬢様関連だけ、なぜか以前のままのようだったから、最初に質問したのだ。これを聞くことで、「悲惨な未来など、簡単に変えられる」という空気を早々に打ち出したかった。
国王が、ちょっぴり真面目に言った。
「みんな、1人1人が変わるんだ。そうしたら、勝利できる。――自分だけでは難しいかなと思ったら、仲間や家族に、『どこを改善したらいいか』って聞いてみてくれ。きっと良いヒントが得られるだろう」
引き続き質問コーナーとなった。
・Xデーはいつか。
→不明だが、ミーケの成長具合からして、2~3年後。
・誰が見せたのか。
→70年前は、時にまつわる精霊が見せた奇跡と推察されている。
・夢を見た人間の範囲は。
→城下町の人は見ていない。城にいた者だけ。
・真実だと思うか。
→真実だと思って行動する。
・今後の方針は。
→イーディアスが復活したら被害は甚大なので、まずはこれを阻止する。
「具体的には、ネクロマンサーの取り締まりだね。大量の使用済み黒キューブを触媒にして、骸骨王の復活を目論むネクロ教団をツブす。様々な場所に潜伏しているから、各国と協力して敵を根絶しよう」