131話目 くり返す悪夢
シンクロニシティ、なのだろうか。
1月1日は、悪夢を見た人たちでごった返していた。
それも、同じ未来の悪夢を。
「おい……ミーケ王女が……」
「ああ、俺も見た……ミーケ王女がな……」
ずいぶん暗い顔で言う衛兵たち。ミーケが死んだ夢でも見たのか……と思ったら、どうも「逆」らしい。
王族は、ミーケ以外全滅。ごく少数が、ミーケと共に城からなんとか落ち延びたものの、骸骨兵に城を燃やされた所で目覚めたとのことだ。
それらを率いていたのが……骸骨王だと言う。
ちっ……あらゆる意味でロクでもない。それも……骸骨王だと?
まったく、風評被害はやめてほしいね。
「いや~、ははは、死んだ死んだ」
国王は、緊急の会議の席でも朗らかだったが、誰もノッてこなくてちょっと寂しそうだった。
丸テーブルの上座でオホンと咳払いし、襟を正す。
「さて……『イヤな夢だったね』で片付けるには、重い内容だった」
王族を始め、軍事や内政の長が勢ぞろいしている。副長やお付きは立ち見だ。
「70年前にも、予知夢が世界規模で起きたと聞く。そのときは、骸骨王が全世界に覇を唱え、人間が蛮族の奴隷と化す悪夢だったと。――ブノワ師、そうだったね?」
「はい、陛下」
招聘に応じたブノワ老師が、ゆっくりとうなずいた。
「骸骨王イーディアス……当時10才だったワシも、大人たちが慌てていたのを昨日のことのように覚えております。かの王は、死体を操る術に長けており、どれほどの軍勢を送ろうとも、死んだが最後、残らずゾンビや骸骨兵にされてしまったと」
「そこで人間側は、同盟を結び、英雄の少数精鋭チームを作ってこれに応戦。見事にイーディアスを退治した……と、信じていた。昨日までは」
ダーヴィド国王は、みなを見渡した。
「放っておくと、ヤツが復活する」
ピンと空気が張り詰める。
「まずは、情報だ。1人1人、自身の見た夢が少しずつ異なっていただろう。先ほど、城の全員に書いてもらった夢の中身を、事務が大急ぎでチェックしている。それらをつなぎ合わせて、今のところ判明したストーリーをドナトに話させよう」
国王から目線を送られ、控えていた牛人が一礼した。
「今よりそう遠くない未来に、ゴブリンと骸骨の大軍が襲ってきます。魚人、竜人、獣人、ドワーフなどの各国兵士がイェーディルに送られてきて、奴らと応戦するものの、魚人が裏切り、部隊は半壊。残った兵士たちも、骸骨と戦って死亡します」
魚人の裏切りという所で、ブリジッタとセレーナ母娘に視線が集まるが、何かを言う者はいない。みな冷静だ。
「その後、死んだ兵士たちがゾンビや骸骨となって、生きている者に襲いかかってきます。多勢に無勢で、ミーケ王女はドワーフに助けを求めて亡命。そのさい、敵部隊を率いていたのが、骸骨王と思われます」
「と、いうことだ。引き続き精査しているが、特異な夢だった者や、何か気付いた点のある者は、どんなに些細であろうとドンドン言ってくれ」
みなと同様に私も手を挙げると、真っ先に指名してくれた。おそらく、「みんなが見た悪夢を見てません」と書いたのが効いたのだろう。
――ふむ。では、1つだけ。
「どなたか、スラヴェナお嬢様を夢で見た方はおられますか?」