129話目 狼さんには気をつけて
エルフの工場で、仕事をシッカリとこなしたお嬢様は、最終日も城やマルちゃんのピザ店にキューブをお届けし、みんなと別れの挨拶を済ませた。
「って言っても、お城にいるんだけどね」
お前、そういうこと言うなよ。だが、しんみりしてたエルフのみんなを笑顔に出来たのはグッドだ。
ステップアップして新年を迎えるんだ。1歩1歩な。
深夜のカウントダウンからハッピーニューイヤーをやった。かと思うと、初日からお偉方とのご挨拶。ダーヴィド国王の誕生日でもあるため、そのお祝いメッセージ分もあって長い。
「王族って……大変ね」
部屋に帰ってきたお嬢様は、スライム体型でグデ~っとのびていた。
「去年までは未成年だったから、城下町のみんなに手を振るダケだったんだけど……正直、ツラいわ」
ガマンしろ、と言いたい所だが、私も少々キツかった。ドロテーもアクビしてたしな。
「ワン! だけど王女様、これからは王族で集まってのお遊び時間ですワン!」
「そうよ、モフモフ! う~ん、やる気出てきたわ~!」
ベッドの上で犬の尻尾にじゃれるスライム。
「ガイ、ボードゲームよ。今年はボードゲームで天下を獲るわ!」
エルフの工場で昼休みにやってたヤツか。
実はそれまでも、賭け事の好きな連中が、トランプのようなカード遊びに興じていた。しかし、マンネリと言うので、日本でプレイしていた面白いゲームをロザンネに作成依頼していたのだ。
「3から35までの、33枚のカード? なんで1と2がないだわさ?」
そういうゲームなんでな。ほれ、チップも作れ。
「ナゾだわさ。でも、そこがいいだわさ」
そして出来たのが、「ゲシェンク」だ。
コイツには……2度驚かされた。
1度目は、開封直後。このシンプルさで1500円も取るのかという衝撃。
2度目は、初プレイ後。このルールを、1500円ぽっちで提供するなど、安すぎるという衝撃。
案の定、エルフのみなさんには大ウケした。なおも色々せがまれるので、「ハゲタカのえじき」や「ボーナンザ」なども作成し、工場にプレゼントしている。
「あたし、ニムトがウケると思うわ。多人数だし」
「テレストレーションも鉄板でしょう」
いずれもワイワイ行えて、盛り上がること間違いなしだ。
私は王族8人の前でルール説明をし、結果、大いにゲームを楽しんでもらった。あまりにウケが良かったせいで、国王陛下からもおねだりされる。
「ガイく~ん、今までのも面白かったけど、推理系で『これ』ってのはないかい? ほら、スラちゃんと君とが、見事な推理でタコを捕まえたって言うし」
あー、探偵になりたいんだな。
「親父~ィ、あんまムズいのはダメだぞ? アタイの脳がパンクすっから」
「ホホホ……これぐらいは覚えるが良いぞ」
ふむ、ミーケもいるしな。彼女も楽しめることが条件だ。
「では、人狼などいかがでしょう」
「ジン……ロウ?」
「はい」
私はルール説明を行った。
とある村に、人に化ける狼が混ざった。
村チームは狼の退治、狼チームは村人を自分たちより少なくすれば勝利。
「ガイ君、ボクなら撃退できるよ」
「妾もじゃ」
でしょうね。あんた方こそ人外だよ。
「人狼は、全盛期の剣聖レベルです」
「アー、それは難しい」
「あと、村人チームは非力です」
「分かったよ」
私はゲームの進行役と思っていたが、プレイヤーを勧められたので、事務の牛人に進行を変わってもらった。
そしてゲームが始まった。の、だが。
「占い師ザマス」
「あら。わたくしセレーナこそ占い師ですわ」
占い師が2人出てきた。この役職は、占った翌日に相手が村人か人狼か分かるが、強力なので村には1人しかいない。
つまり、どちらかが騙り――ウソつきだ。
丁々発止のやり合いの末、ここが狼なら分かりづらいとブリジッタが吊られる。
翌朝、私が噛まれた。あー、やっぱり。狼は骨まっしぐらか。
両占いは私を占っていた。両者とも村人判定。うわーい、真っ白。立派な白骨死体でーす。
その後、ドロテーが吊られ、コルネリアが噛まれ、村はマルヨレイン、セレーナ、国王、ミーケ、お嬢様の5人に。
――コレは、やられたな。
突如、国王が笑い出す。
「ふふふ……ミーちゃん、いや、狼ちゃん? もう大丈夫だ」
「ニャ? お父様、カミングアウトしちゃっていいのかニャ?」
「ああ、5人だからね。どちらが村の裏切り者か、だけど……セッちゃん、君だろ」
「流石ですわ、狼陛下」
お嬢様とマルちゃんは口をあんぐり。あ~あ。パワープレイ発動だ。
「ザマス~! ミーケちゃんが狼だったなんて~!」
「パパ、信じてたのに~!」
キレーにダマされてたもんな、君たち。
「はっはっは、ガオガオ~」
「ニャ~、ガオガオだニャ~」
「ふふ、ガオガオ~」
くそっ、私が騎士を引いたとき、イヤな予感はしたんだ。マルちゃんが本物と思って護衛したが……早々に噛まれた。騎士は自分を守れない。ポンコツだ。
「アタイ、納得いかねー! もう1戦だ!」
かくして夜は更けていくのだった。