127話目 カレイなる逆転
――全部、自分でやらないと気がすまなかったんだな、サバ女は。
引き抜き工作から、一時休戦の申し出、そして資格の確認まで。
弱った相手を見るのが楽しいのもあったろうが……結局は、信頼できる相手がいなかったのだ。
「そ、そそ、それは、スパルタコという男が勝手に言ってるだけよ! 犯罪者の言葉だけでわたくしを逮捕するつもり!?」
もちろんムリだ。
だが、そんなあがきは逆効果だぞ?
黒服の魚人が、出目ピンの社長室にドタドタと入ってきた。
「すみません、サーバ社長!」
「何ですか、騒々しい!」
「はい。で、ですが……マルヨレイン王妃が、『お宅との取引は見合わせたい』と」
「えーっ!?」
何を驚いてる。むしろ当然だろ。
推定無罪にもハバがある。限りなく無罪に近いグレーもあれば、なんで捕まえないのかといった真っ黒クロスケなものまで。
今回のサーバ社長は、後者だ。だから、警察としては証拠不十分だが、動機も状況も、全てが「サーバ黒幕説」を示している。
ライバル会社のトップを物理的に排除しようとした行為なぞ、ゲスの極みでドン引きだ。
マルちゃんは、そんな相手と関わっていたら、信用がなくなると思ったので、いち早く手を引いた。それだけの話である。
間を置かず、他の中小企業からも、続々と取引を見合わせるという話が舞い込んできた。社長本人に直接連絡が来ないあたり、人望というものがうかがい知れるな。
私は、机につっぷすサバを見下ろした。
「サーバ社長。――信用は命よりも重い。まこと、その通りでございますね」
キューブをいくら作ろうが、取引相手がいなければ無意味だ。
自分だけ良ければ、後は野となれ山となれなどとうそぶく者の末路は、たいがい悲惨である。
「う、うぅぅ~……! あぁぁああ……!!」
泣いて許されると思うなよ。マケール工場長を襲撃したタコも、お前が追い詰めたそうじゃないか。弟のノルマが未達成というのをネチネチ責めて、タコの側から「マケールさんを襲う」と言わせるよう仕向けたとかな。黒服が、洗いざらいブチまけてくれたよ。
ほどなく、サバは会社を辞めた。理由は、一身上の都合とのことだった。
「以上です、お嬢様」
「よくやったわ、ガイ」
「だニャ」
冬休みに働きに来ていたミーケまでうなずいた。
「この骨は、ミーにネコジャラシを送ってくれた、スゴーい骨だニャ」
ホメてるんだよな、これ。比較対象がショボくて不安になるんだが。
マケール工場長はすでに退院しており、今日からはSP付きで出社だ。
「いやあ、みなさん、ご心配をお掛けしました」
工場長の帰還に、みんなは温かい拍手で出迎えた。
「ありがとうございます、みなさん。それと……えぇと、さっきから漂ってるこの匂いは、もしや……」
正解だよ、工場長。
復帰のお祝いはカレーである。
サプライズを狙って、みんな内緒にしていたのだ。
お昼になり、おカミさんが次々とカレーを盛り付けていく。
「はいよ! みんなお代わりあるからね!」
おめでたい事があったときは、みんなでカレー。これがルールなのだ。