126話目 たった1つのサめたやり方
「やや? なんだかワシは、この辺を【魔力視覚】と【過去視覚】で調べたくなったぞ?」
ヘタクソか、トッつぁん。
せっかくのレンガ前なんだから、「作業工程を調べたい」ぐらい言えよ。
そして、使ったあとも。
「あー、なんということだ。【幻覚】と【ゴブリン】の魔法を探知してしまったぞ? どうしよう」
笑えばいいと思うよ。
いやぁ……、これはヒドい。ここまで大根役者だったとは。わりと今までの人が演技派ばかりだったから、余計にそう感じるのかもしれないが、それにしたって……ないな。
ともあれ、トッつぁんの「気まぐれ」で明らかになった真相は、たちどころに広まっていった。魔法のエキスパートであるブノワ師が呼ばれ、お墨付きが得られると、晴れて兵士たちも検証にやってくる。
――これでもう、逃げられないな。
私はイスマイル師匠のコタツに入り、レンガ作成のお手伝いをしつつ、一部始終を見物していた。
あとは犯人の逮捕である。
「ちくしょう! フザけんな!」
犯人はスパルタコだった。お嬢様と決勝トーナメントの1回戦で当たり、魔王様のオーラにヘタれた海坊主である。
結構ウデに自信があったらしいが、トッつぁんが見事にひっ捕らえていた。演技はヘッポコだったものの、さすがに捕物では面目躍如といったところか。
しょっ引かれた先は、まずは魔王様の前だった。
「トランクウィッロ警部、ご苦労だった」
「はっ! お声を掛けていただき、幸せであります!」
「スパルタコの身柄はそちらで預かってくれ。こちらで扱うと、やり過ぎてしまうかもしれん」
あー、信用の毀損をしたのが、同じ軍の兵士だったとか、笑えん事態だよな。
「はっ! 締め上げてやります!」
警部は敬礼した。
と、ここまでは良かったのだが、そこでまたイチャモンがつく。
『取り調べに暴力はよくない』
『殴る、蹴るは野蛮です』
今までそんな意見など出てなかったのに、唐突に言われ出した。タイミングからして、サバ社長の差し金だろう。
――いやはや、実にありがたいね。タコ坊主との繋がりがあると認めたようなものだ。
「私にお話しさせて下さい」
穏やかに話すのなら得意である。私は事情聴取役に立候補した。
取り調べは、警察官立ち会いのもとで行われた。
「スパルタコさん。マケールさんの襲撃を指示した方は、どなたでしょう?」
「……」
「お話ししていただけませんか?」
「……」
しっかり拘束はされているが、だんまりを決め込んでいる。これでは会話にならない。
なので、会話をすることにした。
「茶色キューブを100個、運んできてください」
「おっと……、オホン、ガイギャックス君」
署長が咳払いした。
「あー、そのー、【石つぶて】や【粘土のゴーレム】で殴ったりというのは、やめてもらおう」
おいおい、なんだよ署長。お前もサバの一味か。
トッつぁんは離れた場所にいるが、上司がこれでは、やりづらかっただろうな。
「大丈夫です。私は一切スパルタコに触りませんよ」
しばらくしたのち、スパルタコは顔面蒼白になっていた。
「す……すみませんでした……うああ……」
「私に謝っても、しょうがないんですよ」
タコの呼吸は小刻みで荒い。酸素が足りてないご様子だ。
それもそのハズ、私は【力場】で取り調べ室のスパルタコを囲んだのだ。そして【空気】の逆呪文をひたすら使った。
生命エネルギーの抵抗がキビしいという話だったが、抜け道はすでに見つけていた。
私ごと【力場】で囲めば良かったのだ。
むろん、私自身にも影響を及ぼすが、私は空気を読まないし吸わない。前世で富士登山をしたときは、吐き気を催したり頭が痛くなったりと、見事に高山病にかかったが、もはやそんな症状とはオサラバだ。
代わりに、それと同じことが、タコ坊主の身に山と降りかかっていた。
「さてと、スパルタコ容疑者。誰に頼まれましたか」
「サ、サーバ社長です……。あああ……」
はい、ご苦労。
これが私なりの、サめたお話しの仕方だよ。