125話目 かじかむ時間に可視化の一撃
私は続けた。
「さらに、大侵攻の日は、普通の人も家かお城へと避難しておりました。仮に出歩いていたとしても、警備兵の巡回に保護されたことでしょう」
「え? ま、待ってよ、ガイ。じゃあ、それってまさか……」
「はい。――警備兵が犯人だと考えられます」
私はこの町の地図を広げた。
「兵士たちと同様、我々もローラーしましょう」
「はいはーい、ガイ君に一応言っとくけど、【過去視覚】で見られる範囲は3mだからね~?」
おっと。それはかなり範囲が小さい。
「だからオジさんじゃ~、お城の兵隊さんみたいな人海戦術はムリよ~?」
「分かりました。巡回ルートと物見櫓の視界を照らし合わせて、【幻覚】を用いた場所を割り出します。可能性の高い所だけをローラーしましょう」
みんなで地図をにらめっこして、候補をいくつか聞いた。隠れやすかったり見通しが良かったりする場所などは、町に住んでる彼らの方が詳しい。
――あ。
私はふと、空き地を指差した。
「ここを最優先で調べたいのですが」
「え? ダメよ、ガイ。そこは物見櫓から素通しだもの。犯人にしたって、見通しがいい場所では使わないと思うわ」
「いや~、王女様……オジさんはいい場所だと思ったよ~」
「え?」
オジさんを始め、エルフの皆さんは口々に空き地をOKしてくれる。
お嬢様は帰り道がお城だから、通らないんだよな。
私は答えを告げた。
「ああー! そこだわ、ガイ。あたしが犯人ならそこで唱える!」
見事に賛同を得られた。
かくして私は、一般的な婆さんに変装したオジさんを伴って町へと繰り出した……【幻覚】なしで。
シャンと立つと、「お前のようなババアがいるか」状態なのだが、杖をつきつつ、背中を丸めてのったり歩くと、案外バレない。
「ひょひょ……こういうのは、堂々とやるのがセオリーじゃ」
さすが犯罪者だね。
なお、お嬢様はついてきたがったが、メチャクチャ目立つので却下した。代わりに白羽の矢を立てたのが、ハーピーのイーッカである。
「……」
【魔力譲渡】が使えて、さらには『気配断ち』というナチュラルスキルまで持っている。少人数の隠密行動には、もってこいの人材だ。
「ワテのが役立つでー!」
あんたウルサイからダメ。それにお嬢様に【魔力譲渡】したし。大人しく粘土こねてろ。
「ケチー!」
はて、聞こえんな。
【過去視覚】について色々聞くと、魔法が使われたタイミングが分かるだけで、誰が使ったかまでは不明らしい。
しかし、警備兵であったなら、時間が分かれば誰の巡回時かが分かる。
「マケールさんは、巡回ルートから少し外れた場所で倒れていたそうです。発見した人の時点ですでに一巡しており、容疑者は10数名。魔法を使った証拠がなければ逃げられます」
「ひょひょ……。ババに任せておきんしゃい」
オジさんも演技うまいな。しわがれ声が絶妙だ。
歩いて行くと、トカゲ師匠がコタツに入ってぬくぽかモードだった。
「あ、ガイさん」
「どうも、イスマイル師匠」
「大変でしたね、工場長さんがゴブリンに襲われたとかで」
「ええ」
師匠に近づき、小声で話す。
「実はいま、その件を調査中でして。周りで呪文を使って調べてもよろしいですか? すぐ済みますから」
「ええ、いいですよ」
許可も取ったので、オジさんにOKを出す。
「ひょひょ……ガイさんや、レンガブロックの壁、もう随分と高くなっとるのお」
――そう。空き地は、マルちゃんの新店舗建設地だった。
大侵攻の日の前に、レンガは積み上がっていたから、店の入り口側は物見櫓から一切見えない。
「ガイさん、ざっと3回でカバーできるが、どこから撃つかのぉ」
「扉の真ん前からお願いします」
私とお嬢様を意識した犯人だとすれば、マルちゃんの新店舗の入り口などは、絶好のポイントだろう。
何も知らずに完成を喜ぶ私たちを尻目に、犯人はほくそ笑むのだ。そこで子供に化けてマケールさんを外におびき出し、そして今度はゴブリンに化けてマケールさんを襲った。それも知らずに、マヌケな奴らめと。
オジさんは【魔力視覚】と【過去視覚】を重ねがけしてチェックした。
「ひょひょ……空振りじゃ」
1ストライクか。
私は次の指定をしたが、それも空振りで2ストライク。
「ひょひょ……カンが悪いのお」
「ですね」
3度目の正直でヒットした。
「カンでは当たらないので、論理を鍛えました」
「やるのぉ、ガイさんや」
【幻覚】と、さらには【ゴブリン】の反応が出た。――なるほど、幻覚をまとったのかと思ったが、召喚したのか。
しかし……よりハッキリと、町中のゴブリンは偽装説が色濃くなった。
師匠や熊さんに、大侵攻の日のスケジュールを聞いたが、戦闘参加組以外は城に詰めていたとのことだ。もちろん、そんな魔法も使ってないという。
「ひょひょ……んじゃババは、また牢に戻るぞい」
「よろしく言っといて下さい」
オジさん経由でトッつぁんに伝わるだろう。一発撃てば、これは明らかだ。
さてと、犯人。これよりお前を葬らん。




