124話目 スキスキ推理モノ
「おそらく、あの社長は先程のやりとりで決める気でした。お嬢様がいなければ、ギブアップだったでしょう」
正攻法ではな。――その点、サバ社長は運が良い。お嬢様が資格を持っていたことで、私がルールに則って相手をすると決めたのだから。
ここで外道な手段に出ては、お嬢様の努力が無駄になってしまう。それは避けねばなるまい。
「今度は、私たちのターンです。奴らは、運命に小細工をしたと言いましたよね? そのさい、細工の跡が何か残っているハズなんです」
「んー、そう言われてもねえ……」
「シンプルにお考え下さい。向こうは封殺する気でしたから、かなりベタな方法を使っているハズです。例えば、【幻覚】でゴブリンに成りすます、とか」
「え? そんなのでいいの?」
誰もアリバイのトリックを考えろとは言ってない。世の中の犯罪は、大多数がベタだ。
「それならねぇ……えーっと、全部【幻覚】だったってのがシンプルよ」
うむ、今もオジさんに食らったからな。【幻覚】を使えるなら、何でもありだ。
「でね、この対策として、【魔力視覚】と【過去視覚】のコンボがあるの」
おや。
「【過去視覚】ダケだと、数分前の状況までしか見られないんだけど、【魔力視覚】と合わせることで、3日前までの使用魔法が見られるのよ」
ほほお。
「詳しいですね」
「そりゃあ鑑定士だもの……って言いたいトコだけど、夢王子シリーズで毎回のように言われてるトリックなのよ」
え、あれって推理モノなのか。
「2巻目で、ちょっと探偵っぽい動きをしたら、それが人気になってね。以来、その路線で突っ走ってるわ」
なん……だと……?
バリバリのファンタジーものだと思ってた。推理小説って成立するんだな。
ミシェルさんも話に加わった。
「難事件を解決するアベル王子ですけど、そろそろ【過去視覚】を覚えるべきですね」
「ねー。魔王だってザクザク切れるキレ者の王子なのに、何故かそれだけはダメなんですよねー」
聞くだけで、推理が崩壊しそうな呪文だしな。おそらく、雪の山荘でケータイやスマホが圏外だと説明するぐらいのオヤクソクだろう。
しかし、これは現実なので、遠慮なく使わせてもらうがね。
「お嬢様は【過去視覚】を使えますか?」
「ムリよ。アレって、構築する魔法が高度なの。使える刑事さんは引っ張りだこね」
「はいはーい、実はオジさんも使えるよー」
薄々そんな気はしていた。
有用なのは、警官と犯罪者だからな。
「オジさん。あなたは、この呪文が使えることを警官に知られてましたか?」
「ま、知られてただろうね~」
なるほど。だから拘束されたのか。全てをひっくり返す魔法が唱えられるから。
トッつぁんが解放したのは、サバにしてみれば誤算だったろうな。
「さて、今度はゴールから考えてみましょうか。マケールさんを襲ったのはゴブリンでしたが、私たちに大打撃を与えられるんです。本来なら、自分の手下に襲わせたかったハズです」
「ガイの言う通りね」
「また、マケールさんは『末っ子』が見えたため、外に出て行きましたが、これも重大な疑問点がございます」
「なんで? 呪文を覚えてる人なら、誰でも彼の【幻覚】を出せるわよ?」
「そうでしょうか。仮に、マケールさんの自宅にいる人の【幻覚】をした場合、一瞬で魔法だとバレます。さっき、バルバラさんのフリをしたオジさんみたいにね」
「あっ……」
「つまり犯人は、末っ子さんが城で保護されていることを知ってた人間です」
おっと。「犯人」と、口をついて出たよ。
トッつぁん警部の話も照らし合わせると……工場長を襲ったのはゴブリンじゃない。
人間だ。




