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123話目 ああ、友情のアーム錠

 サバ退治のあとはみんなで仕事を始めたものの、今度はおカミさんのスゴさも知ることとなった。


「ひょっひょっひょ……誰か、カミーユの代理で入ってくれんかね」

「アタシがやるわ」


 アンリが炊事場へと消えたものの、すぐに戻ってくる。


「料理に自信のある人、あと2人ほど来て!」


 私も行ってみたが、選抜メンバーから漏れた。ぬう。


「ガイ、料理が全てじゃないわよ」

「そういうお嬢様は?」

「あたしは……食べる人だから」


 だよな。作るのは専門職に任せよう。




 昼食は出来たが、臨時の料理チームは疲労困憊だった。


「おカミさん、力仕事がスゴいわ……」

「しかも、段取りが早いのなんのって……」

「そりゃあ、感想も求めるぜ……」


 いなくなって、初めて分かるありがたみか。

 ウデに覚えのあるメンバーが携わってコレなのだから、おカミさんの仕事は実質3人分以上だろう。――いや、炊事場も決して広くないため、もし3人ほどの腕前も揃ってなければ、みんな外食になるところだった。


 おカミさんのスゴさに思いを馳せつつ食べていると、お嬢様が呟いた。


「オジさんも戻ってこないわね」

「ひょひょひょ……拘束されとるんじゃろ」


 おや、婆さん。この辺の席で食事は珍しいな……ん!?


「バルバラさんが、2人!?」


 思わず立ち上がった。


 まさか婆さん、他のメンバーが消えた分、増殖したのか!? ――そんなわけないか。――ないよな?


 エルフやバイトのメンバーも騒然となる中、いつもの位置にいた方の婆さんは、両手をプラプラさせた。


「ひょっひょっひょ……よく見てみい。そっちのワシは左利きじゃ」


 たしかに。本物の婆さんは右利きで、左手は添えるだけだった。じゃあ、これは……。


「ニュホホ。いや~、そりゃ本人にはバレちゃうよね~」


 【幻覚】が解けるや、もみあげが特徴的な3枚目が現れる。


「オジさん!」

「は~い、王女様。オジさんだよ~?」


 みんなが次々と質問を浴びせるなか、オジさんは「まあまあ」と制した。


「警察署で行われてたことを、臨場感たっぷりに語っちゃうよ~ん」


 それは、こんな話だった。






 オジさんね~、工場長を暴行したって容疑でしょっ引かれてさ~、腕に錠を掛けられたの。トクベツな取調室で、ま~散々、オドかされちゃったワケよ~。

 そしたら、トッつぁんが戻ってきたのね。


「どけぃ! オジロンはワシ1人で、たっぷり叩きのめしてやる!」


 うへぇ~。嬉しそうな顔しちゃって、本当にま~ぁ。


 だけど、取調室のカギを掛けて1対1になったとき、トッつぁんは左手のアーム錠を外してくれたワケ。


「オジロン。お前を拘束するには右手1本で十分だ」


 おんやぁ~?

 アーム錠ってね、肘の先から手首までを覆って固定するもんなの。

 トッつぁんは、椅子に座って目を閉じてるのね。


「こりゃまたトッつぁん、どういう風の吹き回しだい?」

「ワシはな、借りは返す。――戦場で見たのがお前本人ということぐらい、先刻承知だ」

「じゃあ、なんで拘束したのよ?」

「他の奴が、もっと手荒い方法に出るのを防ぐためだ」


 うひょ~、カッチョイイ~。


 オジさんってば、右手を外して、アーム錠をひょいと取っ払ってね。

 それで右手を付け直してると、トッつぁんが「これは寝言だ」と前置きして、またしゃべり出したの。


「サーバ社長に都合が良すぎる。ワシが抜き打ち検査をやるよう上に言われたのは、マケール工場長が襲撃を受けるだった」

「トッつぁん……」

「アヤしい。だが、証拠がない。調べようにも、この件での警察はポンコツだ。お前を犯人に仕立て上げようとするほどだからな。城の兵士らは、ゴブリン侵入の件で一部から叩かれ、しばらく活動は自粛ときている。――もう一度言うぞ。都合が良すぎる」

「なるほど……。恩に着るよ」


 オジさんはねえ、小窓から身をよじらせて外に出たってワケ。もちろん、そのままだと大問題だから、いつも持ってるお化粧セットで、ちょいと変装してね。

 ――え、【幻覚】も使えたあたり、やっぱり犯人だろって? カンベンしてよ~。





 以上が、オジさん脱出の顛末だ。


 ――うーむ、たしかにオジさんの話はスゴかったな。まるでその場にいるかのように状況が分かったよ。


 また、すこぶる重要な話も聞けた。


「確認しますが、襲撃前だったんですね?」

「そうとも、ガイ君」


 ふむ。してみると、工場長が見た末っ子とやらも、おかしく思えてくる。


「私は、2回までなら偶然として認めますが、3回も魚人の会社に好都合なことが起きたなら、それは必然とみなします。たまたま公共入札をたくさん取れて、たまたまマケールさんが子供の幻を見て、そしてたまたま町中に侵入したゴブリンに襲撃された……。この時点で、すでに3回です」

「ええっ? ガイってば、あんなヤツらに運命が味方したって言うの?」

「違いますよ、お嬢様。――奴らが、ねじ曲げたんです。運命に小細工をしかけたんですよ」


 そう。

 一連の流れで、誰がトクをしたのか。

 間違いなく、サバ社長だ。

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