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121話目 くさったヤツに苦悩を滲ます

 マケール工場長は、なんとか一命を取り留めたものの、絶対安静だった。


「あんたぁ……、あんた、リュシアンはお城にいたのよ……!」


 大侵攻の日、彼はおカミさんや子供達と自宅待機していた。お城へ避難することも出来たのだが、小さな子供達が騒がしくするため、いつも家にいたらしい。

 しかし、待機中、あろうことか末っ子が見当たらない。長男の勤めるお城で保護されているのだろうとは思いつつ、気ばかりが焦っていた。


 そのとき、呑気に外を歩く末っ子を「見た」んだそうな。

 勢いよく飛び出していき、その結果、今に至る。


「何を見間違えちまったんだろうね、この人は……! でも、良かったよ……。生きててくれて、ホントに良かった……!」


 ご家族一同、おいおい泣いていた。子供7人か、大家族だったんだな。

 なんにせよ……助かって良かった。






 祝勝会のイベントは、全て吹き飛んだ。ゴブリンに特化した探知魔法を町の端っこから地道にローラーして、安全宣言を出したのは翌日の夜である。


「――あたし、頑張るわ」


 お嬢様はやる気に燃えていた。


「工場には、マケールさんもおカミさんもいないけど、だからこそ、頑張らないとね」

「はい、お嬢様」


 誰かのために本気になれるのは、それだけで格好いいよ。






 明くる日の工場は、朝のシフトと正社員がいた。お嬢様が、工場長は回復まで2週間ほどかかると説明をしたのち、仕事に入ろうとすると。


「あら、皆様。お早いのね」


 出目金のサバ社長がやって来た。お供には、ガラの悪そうな輩が2名と、なぜかトッつぁん警部たちがいる。

 警部が咳払いした。


「オジロン。お前をマケール氏暴行の件で、任意同行させてもらう」


 はぁ?


 有無を言わさず、オジさんはトッつぁんの部下に拘束された。

 お嬢様がすかさず噛み付く。


「警部さん! どういう事ですか!?」

「あー、スラヴェナ王女様。実は、ワシら警察のほうに、町で血まみれの棍棒を持ったオジロンの目撃証言が、山ほど来とるんですよ」

「じゃあ、警部さんが助けてもらったアレは、誰よ!?」

「アリバイ作りで、誰かの【幻覚】……でしょうな」


 呆れた。ファンタジーで推理モノなど不可能と言われる所以だよ。


 当のオジさんは、左手をヒラヒラさせている。


「ニュホホ……まあまあ、王女様。このテの対応は慣れっこだから、すぐ誤解だって分かるよ~」


 オジさんは大人しくしょっ引かれて行った。


 ――ん?


 サバ社長の一味とトッつぁん警部は、まだ居座っている。


 私は首を傾げた。


「あの、誤解だと思いますので、早く調べて下さい。それとも、他に何か?」

「え~え、もちろんですわよ?」


 なぜかサバが偉そうだ。サバ、威張る。


「あたくし、確認したいのですが……エルフさんたち? 機械を動かす資格は、持っておられますかしら?」

「当然じゃろが」


 ベルトラン爺さんが、ズイと出てきた。


「それぞれの職人は、機械動かす資格を持っとる。でなきゃ、動かせん」

「まあ、素晴らしいですこと」


 サバは手を叩いた。


「ところで、こちらの工場、大盛況ですわね~。ざっと60人ってトコかしら?」


 当たりだよ。


「では、もちろん、魔道危険物取扱士の資格はお持ちですわよね?」


 ――なに?


 サバは、シャープな眼鏡をクイッと上げた。


「エネルギーキューブの工場は、危険な黒キューブも生産できるため、魔道危険物取扱士が保安監督をする必要がございますの」

「――ああーっ!」


 トゥーサンが出し抜けに大声を上げた。


「ボ、ボクは2級を持ってます……!」

「まあ、ブラボー。2級ですと、30人まで・・・・・の保安監督ができますわね」

「あ、あぁぁああ……」

「でも、残念。あなただけでは、60人もの大所帯はカバーできませんわ。あらあら、1級ですと、人数無制限で保安監督の資格がありましたのにねぇ~」


 トゥーサンは顔面蒼白だ。もしや……。


「お父さん。――ひょっとして、マケールさんが」

「はい……1級を持ってました」


 やはりか。


 サバ女はほくそ笑んでいる。


「どなたか、城下町の他のキューブ会社に掛け合ってはどうでしょう? 助けて下さるかもしれませんよ? 人数の累積ありですから、2級を1人でも見つければいいんですものねぇ」


 ――この女。


 すでに連絡が付きそうな相手は、押さえてるな・・・・・・


「お父さん。ソネの町か、あるいは会社本部から、資格を持った人を呼べませんか」

「無理です……この時期は、どこもギリギリで回してます……」

「あらあら~、大変ですわね~。でもご安心を。あたくしどもが救いの手を差し伸べますわ。協力料はコレぐらいで」


 サバ社長は金額を提示した。


 エルフの工場が保たない額に、エルフ一同の剣呑さが更に膨れあがる。


 このサバ女……マケール工場長が襲われたと聞いた瞬間に動いたな。


 トッつぁんが割れたアゴをなでた。


「2級の有資格者が1人なら、工場内が30人に減るまでキューブは作れん。ルールには従ってもらうぞ」


 くっ……それでは到底間に合わない。どうする。

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