12話目 本当に食べてしまったのか?
「しかしお嬢様、よくさっきの人間を食おうって気になりましたね」
あの爺のマッドさは、短期間でよーく分かった。
さっき落とされた人間にも、どんな薬物が注入されていたことやら。
「え? だって、そこに食事があれば食べるのは義務でしょ?」
お嬢様はケロリとしている。ムダな格好良さは止めてほしい。
「お体の具合は大丈夫ですか?」
「平気よ~。多少の毒ならシビれるぐらいだもの」
あーあ、そんなこと言っちまったら。
「あぁ……あぁぁぁああああ……」
ほーらな。
言わんこっちゃない。
お嬢様は、青いゼリーをマグニチュード8で揺らしたみたいにブルブル震えていた。
「あぁあああ、あんんたあああ……」
「なんでしょう?」
「あぁぁあああたしのぉおお、ポケットにぃいい……げどくぅぅう、ざあああいぃいがああぁ……」
素っ裸である。
「バカには見えない服ですかね? 申し訳ございません、あいにく脳ミソがないもので」
「あぁぁぁあああ……。へぇんしぃん、すりゅぅぅう……」
お嬢様が青い光に包まれる。
しばらくすると、サファイア色のワンピースを身に着けた、青い髪の女性になっていた。横たわっていて、やっぱり痙攣している。
「はぁあやぁああくぅううう……」
「はいはい。では、失礼しますよ」
ポケットの中から、白い液体の入った小瓶を見つける。
「これですか?」
ガクガクとうなずいたので、フタを開けて飲ませてやる。
「おげぇえええ……にぃいがぁあいいい……」
良薬は口に苦しっていうからな。
あと、うまかった場合、お嬢様が勝手に飲んじまうってのを危惧したのかもしれん。
薬が効いたのか、お嬢様はすぅすぅと寝息を立てて眠りだした。
――まあ、そういうことにしておこう。
大いびきをかいてるお嬢様とか、絵にならんだろう。
しばらくして、お嬢様は目が覚めた。
「んぅ……あたし、どのくらい寝てた?」
「ほんの2時間程度です」
寝る子は育つ。食って寝て、そしてまた食べて。
おかげでこんなに大きくなりました。
「なにか、変わったことって、あった?」
「1回、はぐれゴブリンが襲ってきましたが、指弾で退治しましたよ」
「そう。――ありがと」
お嬢様は青い光に包まれた。光が収まると、スライムに戻っている。
「あなた……い、いいこと? 忘れなさい」
「おや、何をですか」
「えぇっと。あたしの、人間体を」
「なぜです? 健康だったじゃないですか。ぷくぷくと愛らしいお顔立ちに、たいそう丸みを帯びたお体で……」
「イヤミか!!」
お嬢様はどすんどすん跳ねた。おお、ほこりが舞う。気管支に悪いだろ。
「あたしの正体をバラしたら、あんたを生かしておかないんだからね!」
「もう死んでます」
「息の根止めてやる!」
「呼吸もしてません」
「――ひぐっ。うぅ……だ、黙っててよぉ、お願いだからぁ!」
おっと、泣き声になっている。
女を泣かせるのはイケナイと思うね。――本当だぞ?
「分かりましたよ、お嬢様。善処します」
「えぇ。ありがとう」
「そして、謝罪します。300kg……80貫は言い過ぎました」
横たわるお嬢様を、とっくりと観察していたからな。
誇大広告を一番忌み嫌っていた私が、レディに何という暴言を吐いてしまったのか。
「つつしんで訂正します。――50貫でした」
「ウギャーッ!!」




