表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/188

117話目 隠れたサバは時間泥棒

 価格を決める入札といえば、ゴブリン大侵攻が分かってスグに、臨時の公共入札が行われていた。

 イェーディル国が、黒と白のキューブの大量発注をしたのである。


「お嬢様。たしか黒キューブは、全色の魔力がそのまま出せるんでしたね」

「そうよ、ガイ。だけど、白キューブで後処理をしないと、徐々にその地域が汚染されちゃうの」


 だからこそ、キューブ生産は管理されてるのだとか。


 エルフの工場では、本社と話し合って入札額を決めた。その結果。


「うちが取りました~」


 マケール工場長のほんわかガッツポーズに、モブエルフも一斉に拳を突き上げた。――ノリいいよな、この工場。

 しかし、貴族のジェラールは浮かない顔をしていた。


「取れたのは喜ばしいが、たしか年始の祝賀パーティー用キューブも我らの所で押さえただろう? マルヨレイン王妃の店関連といい、工場で回せるのかね、マケール氏よ?」

「バイトを雇いますよ」


 ――おお、マケールさんの口から雇う話が出るとは。人間、変われば変わるものだ。


「あとは、どうしようもなければ、別のキューブ会社に発注しましょうね」


 下請け、孫請け……。この世界、公正取引委員会ってないんだよな。いや、フェアーな依頼をするんだが。


「ねえねえ、ガイ。そういえば、魚人の会社が休戦するって言ってきたのは意外だったわね」

「たしかにそうですね」


 お嬢様の疑問はもっともだった。大侵攻にかこつけて、談合を持ちかけたり様々な妨害工作をしてくるかと思ったら、突如メガネのサバがやって来て、「ピンチの時にいがみ合うのはダメですわね。協力しましょう」と、一時休戦を持ちかけてきたのだ。


「拒否する理由もないので受けましたが……、あからさまに怪しいです」

「ね~」


 順調にいきすぎると、かえって不安になる……か。

 ふとミシェルさんの方を見ると、机ですやすや眠っていた。





 イスマイル師匠は、今日もコタツに入りながらレンガを作っていた。

 お店は、床と骨組みが出来ている。レンガの外壁をコツコツ積んでいる所だ。


「師匠、本日も精が出ますね」

「いやあ、そんな偉い者じゃないですよ」

「またまた、ご謙遜を。魔法も教わりましたし、私にとっては間違いなく師匠です」

「はは……なんかコソばゆいですね」


 頭を掻きつつもレンガ作りは淀みない。コタツの脇に、次々とレンガが出来ていく。


「師匠。今日は作業されている人数が少ないですね」

「ええ、実は予定より、レンガの量が揃っていなくて」

「国に依頼された分ですね」

「はい」


 イスマイルさんはサクサク作っていた。おそらく、1人が作れる最高速度だろう。


「師匠。これは素人考えなのですが、他の方は作れないのですか?」

「夜にみんなで話し合ったんです。そしたら、もう1件の現場に手伝いに行って、そっちを早く終わらせようとなりまして。1つになれば集中出来ますし、みんな総出でレンガが積めますので」

「なるほど」

「今は、ボクがレンガを作って、溜めてる状態です」

「素晴らしいですね」

「ガイさんのおかげですよ。何せ、窓と外は1日半で終わりましたし、みんなで手伝えば驚くほど早く仕上がるんだねえって、ワイワイ言ってましたから」


 ――なに?


「師匠、詳しく聞かせてください」





 私はもう1つの現場に行った。目当ての熊は、ちょうど休んでいる。


「熊さん、いま大丈夫ですか」

「へぇ」

「イスマイル師匠から話は聞きましたよ? なんでも、正確には半日作業の所を、1日扱いしていたとか」

「ギクッ」


 熊はメチャクチャ焦っていた。


「い、いや、でも旦那ぁ」

「熊さん。管理者がサバを読んではいけませんね。きちんとギリギリの日程にしないと、溶けますよ?」

「あ、あうぅ……」

「大丈夫。不測の事態に対する余裕は後ろにまとめてありますから」


 だから吐け、吐くんだ。


 そして、真の日程が出た。



 床組 3日

 1、2階の軸組 3日

 窓、外回り 2日→1日半

 外部 9日→8日

 内部 3日

 検査 1日→半日

 完成 合計21日→19日



「熊さん……実は床組や軸組も、2日半ぐらいで出来たんじゃないですか?」

「い、いいや! そいつぁ無理でさぁ」


 大慌てで手を振る熊さん。よーし、一応信じよう。


「でも旦那? 今年はゴブリン大侵攻もありまさぁ。雪も来そうでさぁ。ちょいとばかり、まかりませんかねぇ」


 ほほぉ。


「熊さん。2日短縮出来たので、余裕を1日増やします」

「え?」

「11日分ですね。さて、ゴブリン大侵攻で何日遅れますか?」

「と、当日と、前後1日ずつでさぁ。あるいは、戦いが長引いたらもっと……」

「今までの大侵攻は、何日掛かっていましたか」

「い……1日でさぁ」

「では、前後1日ずつを含めて、3日ですね。不測の事態用の余裕は、あと8日です」

「――へぇ」


 勝負あり、だな。


「で、ですが旦那。大侵攻にはあっしらも志願するんでさぁ。今までは戦闘の死者が出てねえですが、万一ってのはありまさぁ」


 ――熊さんや、建てるのは家だけにしてくれ。フラグを立てるんじゃない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ