116話目 勝者の呪いをふっ飛ばす、びっくりオークション!
「あ~らら、オジさんってば、足洗ったよ~? 右のお手々はもう洗えないけど」
そういうブラックなネタはいいんで。
私は今度のオークションに出品されるカタログを見せた。
「盗みたい品が、いっぱいあるんじゃないですか?」
「やめて~。オジさん真っ当に生きてんのよ、これでも~」
まあ、シロだよな。
オークションと言えば、国王に呼ばれている。いかなる用事だろうね。
「お久しぶりです、ダーヴィド国王陛下」
「ははは。よく来てくれたね、ガイ君」
ゴブリン対策も忙しいだろうに、その前にオークションを開催するらしい。
「大事なんだよ、フツーのことを行うってのはね」
たしかに。
「それで、私を呼んだ用件ですが……」
「ああ。ガイ君は、我が国のオークション方式って知ってるかな」
「一応は」
目玉商品については、通常のオークションだ。買い手側が値段をつり上げていき、最終的に1番高い価格を言った人の物になる。
「陛下の指輪や、お嬢様の首飾りなどは、いわく付きのため高値で落札されると存じます」
「だよね~」
うわあ、スゴく嬉しそう。
しかし国王は、にわかに表情を曇らせた。
「実は……、目玉商品以外について、ちょっと問題があるんだよ」
はて。
「オークションの品は多いからさ、全部に時間をかけてはいられない。それで、他の品については封印入札を採用しているんだ」
「なるほど」
裁判所の不動産競売などの方式だな。買い手側は、他の買い手の値段が分からない。
「しかし陛下、1番値段の高かった人が落札するのは変わらないハズでは?」
「う~ん、それがね……。あまり落札率が芳しくないんだ」
「なぜでしょう?」
「例えば、宝石を金貨10枚で落札したとしようか。そのとき、『自分はこの値段で落札したけど、本当に良かったんだろうか。もっと安くオトせたんじゃないか』って声を、結構聞いてね」
「ああ~」
――勝者の呪いだ。
「ボクはさあ、それで悩んだりするのも醍醐味だと思うんだけど、問題は、警戒する人が増えちゃってね。ウソみたいな安値になったりして、最低落札額よりも下回っちゃうことが増えたんだよ」
そういう事か。
「目玉商品のオークションは大丈夫ですか?」
「うん、そっちは最後まで競り合うから、相手も見えるじゃない。ついつい張り合って高値になっても、盛り上がるし、見栄も満たされるからね」
ふむふむ。
「ボクは、いっそ、どの商品の最低入札価格もオープンにしようよって言ったんだけど、それは事務方に止められちゃってねえ。『今の状況では、その近辺の値段だらけになるのが目に見えてます』だってさ」
たしかに。
「それで、何かいいアイデアはないかな~って、ガイ君に聞いたワケさ。――最近、スゴい活躍してるみたいだしね」
「陛下のお耳にまで届いていたとは、光栄です」
私は深々と礼をした。
「そうですね……。では、勝者の呪いを解く、とっておきの方法がございます」
私は説明した。
「へえ……だけどガイ君。それって、値段が安くならないかい?」
「買い手を呪いから解放してあげれば、適正価格に戻りますよ」
このあと、事務方の前でも同じ説明をし、晴れて採用された。
オークション当日。
『では、本日の目玉商品1つめ! 宝石のようにお美しいスラヴェナ王女様が、社交界デビューされた日にお外しになられた、サファイアの首飾りです!』
どよめきと、一部の笑いのなか、首なしのマネキンに付けられたそれが登場する。エンタメもこなしつつ価格も温めるとは、やはりダーヴィド国王はやり手だな。
ちなみに、1番高かったのは、終盤に出た陛下のルビーの指輪だった。逸話込みで大いにウケていた。
一方、目玉商品以外については、品目の下に箱が据え付けてあり、価格を書いて入れる方式だった。
今回は、そこに注意書きが張ってある。
「なになに……? 1番高い値段の人が落札。しかし、金額は2番目の人の分で良い……?」
「1人しか入札希望者がいなかった場合は、最低入札価格となります……?」
「フム。つまりこれは、突出して高い値段をつけても、次点の価格になる。そういうワケですな」
「おおー。2人目の値段も分かりますし、損したという思いがなくなりますぞ」
そう。どれだけ落札者と2番手の価格が近かろうと、オープンにしない限り呪いは発生する。
とはいえ、価格差が大きかった場合、今度はオープンにしたことで呪いが強くなってしまう。
セカンドプライスオークションであれば、その呪いを駆逐できるのだ。
「いやはや、この方式を考えた者は素晴らしいですな」
「まこと、ビックリです。びっくりオークションと呼びましょう」
おっと、まさかの呼び方に、私がビックリだよ。
真の考案者の名前と酷似しているからね。
国王も上機嫌だった。
「いや~、ガイ君。入札も増えて、額も増えたよ。ありがとう」
この方式は、「びっくりオークション」という名で定着することとなった。