114話目 こいよ、ゴブリン! 魔法なんか捨ててかかってこい!
建築チームの尻を叩いてきた旨をマルちゃんに報告した。
その後、エルフ工場に戻ると、ちょうど休み時間だったようで、お嬢様がテオ君とお話ししている。
「テオ君は、お昼休みの間に、キチンと食べ終わりたいのね?」
「そうなのです! テオは、少しでも早く食べきりたいのです!」
「ん~。じゃあ、魚の骨をより分けるのは……」
「あれは楽しみなのです! ヨジヨジ分けるのです!」
「そっか。じゃあ、その食べ方は残そうね」
「はいです!」
テオ君、嬉しそうだな。
「ん~っと、口はひとつで、食べる能力には限界がある、と。なら、テオ君? 最初にサラダを食べるといいわ」
「分かったです!」
「それで、モグモグ食べてる間に、魚の骨をヨジヨジ分けるの。で、口の中がカラっぽになったら、また、ご飯やサラダを食べるといいわ。それで早くなるハズよ」
「はいです!」
あー、小骨を取ってる間、テオ君の口は止まってたからな。
――っと、お嬢様が気付いた。
「ガイ、お帰り~」
「ただいま戻りました、お嬢様」
私は歩み寄った。
「テオ君から、食事時間の改善をお願いされていたようですね」
「えへへ……見よう見マネだけどね」
お嬢様はほほを掻いていた。
「なんかね、呪文とか資格とか、遠回りなことばっかりやってたけど、結局ガイからの指導が一番役立ってる気がするわ」
「評価していだたき、ありがとうございます」
私は深く頭を下げた。
「ですがお嬢様、急がば回れとも言いますよ? 呪文も、《魔力視覚》に【排水】と、大活躍だったではないですか」
「ん~、まあね~」
「頭の中に入れたものは、荷物になりません。持っておけばおトクですよ」
「ガイが言うと重いわね。体は軽いのに」
「ははは」
ナイス、骨ジョーク。
「でもね~、時間がね~。おんなじやるにしても、あたしがやってた事ってチグハグだったし、損したかもな~って」
ああ、費用対効果の話か。
「お嬢様、まっすぐな道はツマラナイですよ?」
「でも、ガイってば、マルヨレイン様の新規店を早く作らせようとしてるでしょ? キューブのときもそうだったけど、効率のいい方が、やっぱりいいんじゃないの?」
おっと、これはなかなか深い質問だ。
「お嬢様。効率の良さを知るのは、いいことだと思います」
「ほらね」
「ですが……たとえ効率が悪かろうと、自分の好きなことは行いますよね?」
「んー……そうね。夢王子シリーズとか、『面白い』以外の役には立たないわ。だけど、新刊が出たらやっぱり読みたいし」
「それは続けられて良いのですよ。――要でない所は、余裕がありますから」
「意外~。てっきりガイってば、効率を追求すると思ってたから」
「全体を見るのが大事です。――なんのために生きるのか。その目標さえキチンとあれば、少々雲が出ても、必ずその星を目指して進むことができます。晴れた日には寄り道して、『やる気』の回復を図って下さい。そして、嵐の日には全力で立ち向かうんです」
「分かったわ。そうよね、何があっても立ち向かう」
お嬢様は力強く頷いた。
仕事が終わって城に戻ると、ダークエルフ女史のピエールがお嬢様の部屋を訪ねてきた。
「スラヴェナ王女様。ゴブリンの大侵攻が確認されました」
「ふぇっ!?」
「アルノルト隊長率いる偵察隊は、急ぎ戻るそうです」
「ええ~っ!? しょんな~!」
お嬢様。自室だからって、妙な声を出すな。
「ちょっと~、ピエールさ~ん。今年中に来るって、かなり早くない? いつもは、あっても年明けぐらいでしょう?」
「はい。ですが、事実です。誘導部隊によると、2週間ほどでここに来るようですね」
ハーピーや竜人などが、つかず離れずの距離を保ったまま、ゴブリンの好きな匂いで誘導するそうな。王都に引き寄せるのは一見怖いが、兵站や医療サポートの充実を考えると、実は一番効率が良い。
頭を抱えるお嬢様の代わりに、私が質問した。
「町の外で撃退するんですね?」
「ああ、もちろんだ」
ピエールは、私相手にはこの口調である。
「今回は北から来るようなので、そちらに軍を展開する」
「戦いの際は、志願兵などもいると聞きましたが」
「うむ。比較的、戦いのユルい場所に配備されるな」
「――お嬢様も?」
「強制ではないが……あの魔道大会の戦績で引きこもっているようでは、大減点だろう」
まあ、そうなるよな。
「あたし、ヤダー! 勝てないんだってば!」
「お嬢様。私が守ります」
「何百匹も来るのよ!? 魔法だってバリバリ使ってくるのよ!? 当たり所が悪かったら、死ぬのよ!?」
まったくもってその通りだが。
「ではお嬢様。誰かが守ってくれるのを見てますか?」
「――ねえ、ガイ」
「はい」
「本当に、守ってくれる?」
「必ずや」
「うん……なら、やる。ガイが守ってくれるのを見て、あたしも戦う」
ふふっ……。まあ、よく言ったよ、お嬢様。
しばらく、戦いとは無縁の生活だったからな。
私も、よりお嬢様を守れる術を身につけよう。




