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112話目 熊のみぞ知る? みんなで知ろう!

 私は作業員の熊さんに、さらに聞いてみた。


「工程表の紙などはありますか?」

「ココでさぁ」


 熊さんは、トントンと頭を叩いた。


「イスマイルの旦那は、時間があればあるだけ使っちまうんで、本当のリミットは書面に残せないんでさぁ」


 なるほど。何だか漫画家と編集者のシメキリ攻防みたいだな。

 一応、聞いておくか。


「ちなみに、当初の予定通りに建築が終わったことは?」

「あー、ねえでさぁ」


 こりゃダメだ。


 ちょうど作業員たちの休憩時間となったので、みんなを集めてもらった。


「ボク、やっぱ外壁は野面積のづらづみがいいなあ」


 コタツに入ったままのトカゲがなんか言ったぞ。行け、熊。


「イスマイルの旦那? じゃあ、このレンガは無しでさぁ」

「あー、待って。ピザ窯ってものを、遠くの人にもダイレクトに伝えるには、やっぱり外もレンガがいいよね~。だけど、ん~、うーん、パス~」


 7並べじゃない。


 うんうん唸る先生をよそに、工程を聞いてみた。土台は終わるので、そのあとからだ。



 床組

 1、2階の軸組

 窓、外回り

 外部

 内部

 検査

 完成



 おや。

 スケッチブック片手に尋ねた。


「レンガの外壁でも、床や梁は木なんですね」

「へぇ。むしろ、お城や教会以外は木造でさぁ」


 ああ、そうなんだ。地震大国の日本でレンガの家といったら、3匹の子ブタが精々だからな。そこに魔法まで加わったら、サッパリ分からん。

 なので、分かる人同士で話し合ってもらおう。私はあくまで質問役だ。


「完成側から見ていきましょう。検査と言いますが、これは何ですか?」

「へぇ、お役所のチェックでさぁ。それと、気密測定とかもやりまさぁ」

「何日かかります?」

「1日でさぁ」


 そんな感じで聞いていった結果。



 床組 6日

 1、2階の軸組 6日

 窓、外回り 4日

 外部 18日

 内部 6日

 検査 1日

 完成 合計41日



 今日は11月25日である。


「予定の時点で年を越しましたね」

「へぇ」


 他の作業員たちは苦笑いしている。うーむ、遅れは日常茶飯事のようだ。


「骨の旦那。ここに、予期せぬ出来事が起きて、結局1ヶ月以上延びちまったことなんかはザラでさぁ」


 ザラにあるなら、その対策は考慮に入れてくれ。


「ではみなさん。次に、『出来るか出来ないか、ギリギリだな』という日程を教えてください」



 床組 3日

 1、2階の軸組 3日

 窓、外回り 2日

 外部 9日

 内部 3日

 検査 1日

 完成 合計21日



「おお、20日も減りましたね」

「へぇ。そりゃまあ、一切トラブルがなきゃあ、こんぐらいには出来るでさぁ」


 他の作業員たちは、やっぱり笑っている。夢物語だというのだろう。


 ――違うんだな。本気だよ、私は。


「熊さん。あなたに、浮いた20日のうちの半分、10日を余裕として渡します。あなたは、この日程と余裕を握って、時間を管理してください」

「え、えぇ?」


 戸惑っているようなので、ここはもう1つの大切なものを例に出すか。


「みなさん、金貨は持っておられますか? あれって、いったん物を買って銀貨や銅貨になったら、あっというまに無くなってしまいませんか?」


 お金の話題はみんな大好きらしい。「あるある」と、よく頷いてくれた。


「あるいは、お給料でもいいですね。もらったお金をそのまま使っていくのと、先に別枠でお金を積み立てて、残りのお金で暮らすのでは、どちらが余裕があるでしょう?」


 竜人の1人が手を挙げた。


「俺はよぉ、その日もらった金は、そのままパッと使うぜ」


 なんという江戸っ子。


「私も結構憧れるスタイルですが、いざというときに余裕があるのは後者ですね」


 細分化していくと、溶けて消えてしまう。

 だから、さきに別枠で、まとまった余裕を番人に渡してしまうのだ。


 虎人が手を挙げた。


「だがよお、少しでも何かあったらアウトな日程だぜ? それぞれに余裕を持たせた方がいいんじゃねえかい?」


 ――出たか。責任感の強い人間ほど陥る、ワナのような症候群が。


 シメキリの期限を「絶対に」守ろうとするあまり、「過剰に」余裕を見てしまう。

 そいつはなあ、納期の遅れを気にするがゆえに、かえって遅くなるという、とんでもない悪魔なんだ。


 ――自慢じゃないが、私も重度の患者だったよ。

 「サバ読み症候群」のな。

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