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私はコレでやせました(300kg→3kg) ~悪役令嬢、育成計画~  作者: ラボアジA
6章 VSサバ軍団編

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109話目 シブいや、オジさん

 通りをひとつ曲がると、何食わぬ顔でオジさんが近付いてきた。


「や~、ガイ君。引き抜きで向こうの会社に行っちゃわないか、オジさん気が気じゃなかったよ~」


 当たり前のように盗み聞きしてたんだな。


「そういうオジさんは、なぜ向こうに行かなかったのですか」

「ありゃ、魚さんがナイショ話をしにきたって、分かっちゃう~?」

「ええ、要の1人ですから。結構前に持ちかけられたと考えておりますが、いかがです?」

「ニュホホ、せいか~い」


 軽く言っているが、工場にとっては生き死にを分けたハズだ。オジさんが営業で注文を取ってこれなかったら、とっくにエルフの工場は終わっていただろうから。


「私は、前回の工場改革ではあえて無視しましたが、どれだけ生産力が上がっても、注文がなければお金には結び付きません。工場を回す上で、受注は大事です」

「生きていく上でもね」

「ならばこそ、お聞きしたいですね。オジさんが移らなかった理由を」

「んー」


 オジさんは、もみ上げを掻いた。


「夢を持ったエルフの若人たちが、バイトしながら夢を追える環境を守ろうとだね~……」

「あ、そういうのいいんで」


 手で否定すると、オジさんはほほを膨らませた。うわあ、1周回って可愛くない。


「んじゃま、オジさんにとっては単純な話よ。――ウサンくさい」

「納得しました」


 高額で引き抜かれた技術職の人間も、技術だけ抜かれてあとはポイという話をよく聞く。


「ガイ君も、向こうの職場環境が気になったでしょ~? ウマい話で釣り上げるけど、釣った魚にエサやってるのかな~って」

「あまり楽しそうな話は聞きませんね」


 正確には、いい話も悪い話もとくに聞かない。――だからこそ、怖い・・


 たとえば、エルフの工場は、わりと雑談の多い職場である。キューブに魔力を込める作業は、集中したほうが早くなるため、溜まる時間は遅くなる。一見マイナスだ。

 しかし、中長期のスパンで見れば、やる気の維持には欠かせないことなのだ。

 それですら、不平不満は出る。もちろん、「仕事やだー」とか、「どっかに大金落ちてないかなー」などと言ったぼやき程度だが、これは、どうしても出てくるものだ。


 ひるがえって、魚人の工場だが。

 黙々と魔力を込めては、フタをする作業現場だという。能率は上がるだろうが……1年中、ずっと。

 巷でも、不満の1つや2つ、出回って然るべきだ。――しかし、一切ない。


「あそこは、おさかな地獄でしょう」

「ね~」

「ですが、そちらの会社がたとえ極楽でも、オジさんは断ったでしょうね。今の工場が好きですから」

「え~? オジさんってば、いいお話とかあったら、ホイホイ言っちゃうよん?」


 オジさんはどこまでも軽かった。






 軽いオジさんと別れ、マルちゃんの店にやって来た。


「ガイちゃん、実は2号店のオープンが年明けになってしまいそうなんザマス」

「おや、なぜでしょう」

「人気のデザイン建築家というんで、注文が殺到してるらしいザマス」


 なるほどな。マルちゃんが頼むほどだし、セレブの間で引っ張りだこなんだろう。


「でも、年末年始は稼ぎ時ザマス。ぜひとも年内に完成させてほしいザマス」

「――あの、それなら建築家さんに言うべきでは?」

「アタクシが現場に行くと、『気が散った』とか言うザマス。その点、ガイちゃんなら何とかしてくれるザマス」


 気安く言ってくれるなあ。


「分かりました。何とかしましょう」

「さすがザマス!」


 ま、気安く答えるんだが。

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