105話目 スゴい(待望の)機械
その日の夜、工場のみんなでささやかな祝杯をあげた。
マケール工場長が挨拶する。
「みなさん、お疲れ様でした。えー、明日は休みですが、飲み過ぎないようにね」
軽く笑いが起きる。
「それでは、乾杯!」
「かんぱーい!」
週明けも、オジさんは赤800に茶色1200のオーダーを受けていた。もちろん、今度はそれに対応したシフトになっている。
お嬢様も、今日からはエルフの魔力込めチームと同様、8時から16時のシフトとなっていた。
「ガイ? あなた、魔力込めの作業は初めてでしょう? あたしがたっぷりと教えてあげるわ」
嬉しそうだな、お嬢様。
私は、キューブを持って魔力を流し込むイメージを思い浮かべた。しかし、イマイチ溜まる速度が遅い。
「ふっふっふ……、魔力の核をゴーって燃やすイメージよ。ええ、シュゴーってね」
くそ、本当に嬉しそうだな。
けれども、うまく出来たら、それ以上に喜んでくれた。
このあたり、天然のたらしである。
「なあに、ガイ?」
「お嬢様はスゴいですね」
「ふふん、倍の速度に恐れ入ったか!」
そこではないが、「へへー」と頭を下げておいた。
数日経ち、オラースが焦った様子でやってきた。
「ガイさん、大変だべ! 今のペースでいくと、あっという間に灰色キューブが足りなくなっちまうだよ」
「では、A-3を動かしましょう」
「もうやってるだ! それでも、ドンドン減ってるだよ~!」
ふむ、A-3型からは本来、15×20の300個が出てくる。不良品の場所が常に同じだったので、出ないように潰したから、今は285個だが。
「あと、キューブの再利用が多いだよ。どんどん目詰まりしてる感じだべ」
おっと、B班の歩止まりが低くなったせいか。大量の失敗キューブを再利用していた弊害だな。
「まずいべよ。このままだと、いずれ全部が詰まって使えなくなっちまうだ」
お嬢様も不安そうである。
「ねえ、ガイ? ソネの町からA-3を運んでもらっても、機械の仕組みは同じでしょ? いずれそっちも詰まっちゃうわよ?」
そうだな。
「あぁん、A-3をふたつ並べたら、A-5より断然いいじゃんとか思ってたのに~!」
「オラもそう思ったべ。ただ、A-5型は、キューブもしっかり細かくしてくれただよ。あれなら詰まることもなかったハズだべ」
なるほど。あの大きさは、伊達や酔狂じゃなかったんだな。
話を聞いて、ベルトランもやってきた。
「どうする、ニィちゃん。B班の歩止まりを改善させるかい」
「いえ、このままどんどん作りましょう」
その日のうちに、A-3型は良品が250を割ってしまった。
「ガイさん~! 残り4000個になっちまったべ~!」
「では、そろそろ行きましょうか」
「え? ど、どこへだべ?」
16時になり、私は一同を貸倉庫に連れてきた。
「キューブが少なくなってきたら、これを戻そうと思ってました」
扉を開けると、そこにはA-5の姿が。
「なっ……なんだべ~! ガイさんも、人が悪いべよ~!」
みんなで暫定的に運んでもらった倉庫に、A-5はいい子で待っていたのだ。
「交換も考えたんですが、輸送費が掛かり過ぎますからね。オジさんが、B-3とC-3を単に引き取るだけの交渉でまとめて下さったので、A-5はやっぱりここで使おうかと」
倉庫の利用料は、1ヶ月で紫キューブ400個分だ。
「マケール工場長。私が立て替えておきましたから、後日お支払い下さい」
「分かりました」
工場は、運転資金もカツカツだったからな。
そして、みんなでA-5を戻してきた。
改めて王のエリア9マス分に据えられると、スゴいピカピカだ。あれだけ疎ましいと思っていたデカさが、頼もしく映るんだから不思議なものである。
お嬢様が振り向いた。
「でも、このA-5って、クセのある機械よ? 2時間で1000個だから、キチンと数を管理してないと……」
「だべな。王女様の言う通り、多すぎたり、少なすぎたりしちまうだべ」
そこで、みんなでアイデア出しをした。その結果、手前から緑、黄色、赤で色分けされたテープエリアを用意することとなった。
「んだ。残りのキューブは、全部そこに置いておくだよ」
今は赤、黄色、そして緑のエリアまでキューブが残っている。
「緑のときは、『A-5を動かしてはいけない』だべ。これが、緑エリアのキューブを使い切って、黄色に入ってきたら、『A-5を動かそう』。さらに、黄色エリアも使い切って赤になっちまったら、『A-5を最優先で動かせ』。これで効率よく動かせるべ」
シンプルだが、機械を動かすタイミングが実に分かりやすい。
オジさんが私と握手した。
「ガイ君のおかげで、良い会社になったよ~」
「要を意識して下さい。そこを改善すると、パフォーマンスが格段に良くなります」
「本当だね~」
「そうそう、『良いアイデアは、工場のみんなで考えて出す』。これを、スラヴェナ王女様の案として出させていただきますよ」
「ガイ君……ありがとう」
オジさんは私をハグした。