104話目 たのしいさんすう
初日から最終日まで、お嬢様と私とエルフチームでキッチリお届けした。
2日目はハーピーの1人が熱を出して休んだが、その分は冒険者ギルドで雇ってカバーし、見事6000個のキューブを運び終えたのであった。
「ふむ。――やるザマスね」
マルちゃんは、行列客の見ている前で、受け取りのサインを渡した。その後、お嬢様に歩み寄り、手を伸ばす。
「数日前の遺恨はどうあれ、ビジネスは『フェアー』でいくザマス」
お嬢様も、笑みを浮かべつつ、しっかり手を握った。
「ありがとうございます、マルヨレイン様」
「ウワサは聞いたザマスよ? 閉鎖寸前のエルフの工場を、短期間で立て直したとか」
「過分なお言葉ですわ。わたくしは、彼らが本来持っていた力を引き出したにすぎません」
「おまけに、謙虚ときたザマス。――これは、侮れない敵が出来たザマスね」
自然とわき起こった拍手のなか、マルちゃんは、オジさんにも向き直った。
「アタクシは、オタクの以前の失敗を忘れないザマス。――が、挽回のチャンスを与えないほど鬼でもないザマス」
ズンズンと近寄って、左手を差し出す。
「スラヴェナ王女に感謝するザマスね。――そうそう、右手を出すとか、もうその手は食わないザマス。もし次にやったら、手を切るザマスよ?」
「こいつは手厳しい」
オジさんは、苦笑いをしながら左手で握手した。
「マルヨレイン様。寛大なご配慮、誠に恐れ入ります」
「これからは、また注文先に検討するザマス」
オジさんを始めとするエルフ一同は、深々と頭を下げた。
「はいは~い! 無事に届けましたよ~!!」
工場に戻ると、エルフたちが歓声を上げた。
「スゲェ……! 俺たち、普段の1ヶ月分ぐらいの仕事を、3日でやりきっちまったよ……!」
「ああ……やれば出来るもんだな……!」
すでに工場内は、C班のやきやき君だけが動く状態で、実質終業しているようなものだった。それぐらい衝撃的だったらしい。
しかし、喜びの一角には、こんなエルフたちもいた。
「バイトを雇ったカネや冷却費用って、結構バカにならないんじゃないか……?」
「だよな……。なんか、ドーピングで無理してるんじゃ……」
いやはや、コストを削減するという考えは、本当に染みついてるなあ。
「コスト増が不安ですか、みなさん? では、3日間で変化したことに絞って計算してみましょうか。お金に直すと煩雑なんで、紫キューブ換算でいきますよ?」
私は「支出」と書いた。
「午前のチームは25人でした。1人当たり、紫キューブ7つ分のお給金で、3日間雇いましたね」
「ガイ、1人が1日休んだわよ?」
「そうでしたね、お嬢様。代わりに冒険者ギルドで雇った人は、紫8つ分でした」
はい、サラサラ~っと。
「ほいで、ワテらやな! ピルヨ、イーッカのハーピーコンビに、紫8個を3日分やで!」
ピルヨはいつの間にかいい位置を確保してるな。
「ワテなー、稼げるおゼゼの話は大好きなんや。お金ってキラキラしとるしな~」
目はギラギラしてるけどな。
鳥ってやっぱ、光るモノが好きなのか。――あー、クソカラスを思い出した。
以下、あれやこれや指摘されつつ、つらつら書いていくと。
※P=紫キューブ
支出
午前チーム25人×3日×7P-7(1人が1日休み)=518P
冒険者ギルドでやとった1人=8P
ピルヨ、イーッカ×3日×8P=48P
C型を運んだチーム「消耗品」6人×10P=60P
B型を運んだチーム「運び屋」6人×10P=60P
初日の青キューブ5コ×6回=30青←30P分の魔力
2日目、3日目と、工場内に熱がこもったので、1時間青キューブ1コで冷やす
→2日×8時間=16コ←16P分の魔力
粘土の運送料3日×5P=15P
計755P
「おや、755個分でしたか。結構使いましたね」
「結構どころではない! メチャクチャ使っているぞ!?」
うるさい貴族だね。
「あと、本来の生産個数もあるだろう! あれもマイナスせよ!」
「はあ」
本来の生産数
色付きキューブ300×3日=900→儲けは450P
P700×3日=2100→儲けは525P
計975P
「うあー! 何もしなかったときより、1730個も余分にかかったとは! とんでもない額だ! 任せたのは失敗だった!」
待てコラ。
私は、慌てず騒がず続きを書いた。
収入
赤6000販売→儲けは3000P
収支
3000-1730=1270P
チラリと見やると、ジェラールとともに不安を訴えていたグループは、黙りこくっている。
「これでもまだご心配のようでしたら、やきやき君を余分に動かしたさいの通常コストも引きましょうか? 貸倉庫に入れてたキューブ代の分はプラスしますが」
「いや、いい。――完全敗北だ」
はい、お疲れ様でした。