103話目 11月の7、8、9はマルちゃんのお店へ!
マケールさんにレクチャーを受けた一同は、さっそく魔力込めの作業に入った。
私は色違いなので、台車を使ってキューブ配りに回る。エルフ、ハーピー、犬人、ドワーフ、爬虫人……なんともバラエティ豊かだ。
8時、9時と、エルフの作業員たちが次々入ってくる。
「おはようございます!」
中央が50人ほどに膨れ上がり、「あなあけ君」と「やきやき君」が動き出した。工場内が、一段と活気を帯びてくる。
「赤が使えないけど青の使える人は、それもお願いします! C-3の冷却用です!」
「俺がやる! 何個だ?」
「1時間で5個ずつ!」
「分かった!」
キューブ回収作業を代わってもらい、席に着くエルフ。みながイキイキと動いている。
――眠っているパフォーマンスが目を覚ましたな。
自分たちでアイデア出しをやったというのが大きいのだ。たとえ、その場では1つも出なくても、改善案が交わされる場にキチンと参加していたことにより、「言われたことをただやる」のではなく、「自分たちで考えたことをやる」ようになった。
――前段階として、職場の風通しの問題があったが、この工場は円滑だったからな。良き感情の上に理論の風が吹けば、そりゃあ勢いよく回るさ。
みなに負けていられない。私も、さらに精力的にキューブ配りを行った。
昼になり、お嬢様とオジさんがバイトチームをねぎらった。
「午前チームのみんな、お疲れ様でした!」
「はいは~い、今日のお給金ね~。はい、明日もよろしく~」
私は彼らの作った個数をカウントしていた。エルフ&お嬢様チームのキューブとは分けてもらっていたのだ。
「1245個。おおよそ平均値ですね」
「これなら大丈夫ね」
バイト組を見送ったお嬢様は、満足げにうなずいたあと、出し抜けに「あーっ!」と大声を上げた。
「ダ……ダメよ、ガイ!」
「おや、いかがなさいました?」
「き、昨日調べた個数って、紫だったじゃない! 赤い魔力の使える人って少ないわよ!?」
なんだ、そのことか。
「ご心配なく。赤が使える人は、C班の5人と特別職の3人、他に3人おります。お嬢様を含めれば、計12人ですね」
「思ったより多いけど、やっぱり減ったじゃない!」
「午前中、25人が1245個作ってくれました。エルフの10人が50個ずつで、およそ500個。テオ君とお嬢様で250個。1995個です」
「足りないわよ!?」
「ええ。なので昨日、事前に400個作っていただきましたが、何か?」
「あ……さすが」
ちゃんと時間繰り上げの許可証も確保したし、万全である。だから落ち着け。
なお、特別職は8色全てが使える人のことだそうな。エルフの場合、だいたい適性は4、5色だというから、万能というのはたしかに価値があるだろう。とりわけテオ君の場合、【魔力譲渡】なしでずっと魔力込めを出来たため、時間にもお財布にも優しいという、スバらしい逸材である。
ゴールが見えてきた15時のおやつタイムで、ドロテーが顔を見せた。
「よぉっ! やってるな、スラヴェナ!」
「お姉ちゃん!?」
「今朝も早くから行ってたし、気合い入ってんじゃん」
私も応対した。
「ドロテー様。何かご用件でも?」
「おいおい、お前らが頼んだんだろ? アタイらで運んできてやったぜ。機械をよ」
え?
ゾロゾロと工場から出てみると、お城の鍛錬場で見かけるゆかいな仲間たちが、青いシートに包まれた大きな機械の周りで展開していた。
我々の姿を認めるや、サッと整列する。
「やきやき君、一丁! ヘイお待ち!」
――驚いた。この荷物が今日届くとは。
「しかしドロテー様? オジさんは、チーム『消耗品』に頼んだと思ったのですが」
「そうだぜ? イェーディル王国の『消耗品』だろ?」
最高の護衛すぎる。
オジさんを見ると、片眉を上げてしたり顔だった。道理で、吟味すると言ってたクセに、頼めると分かった途端に決めたハズである。
レオンがC-3の状態をチェックした。
「OKだ」
それを受けて、マケール工場長がジルに依頼完了のサインを行った。
「あざーッス!」
ビシッと敬礼したジル一同は、速やかに撤収していった。
ドロテーが頭を掻く。
「ったく、誰も襲って来ねーのな。たまには来てほしかったぜ」
ムチャ言うな。むしろ私なら、釣り出しといて、そこ以外を襲うよ。王国の精鋭チームにガチバトルとか、どんな罰ゲームだ。
「ドロテー様。それにしても、片道6時間の道を、この荷物ありで往復6時間はスゴいですね」
「へへっ、要所要所で【敏速】や【軽量化】を使ってたからな」
「ただ運ぶだけかと思っておりました」
「なー。アイツらも、使い所があるんだってよ」
ふむ。仕事は違えど、要というものはあるらしい。
そして16時。
「終わったー!」
やきやき君初号機に残りのキューブを放り込み、台車4台でマルちゃん指定のカレー店に行く。
『あれ! 王女様だわ』
『すごいキレイ……』
ざわめきの中、颯爽と店の裏手に回る。
「赤キューブ2000個、お届けにあがりました!」