102話目 仲間を求めて
「赤を、2000ずつで、3日間……!?」
ケタ違いのキューブ数に、マケール工場長は目を白黒させた。
「で、出来るんですか……ガイさん?」
「するんです。――大丈夫、出来ますよ」
中央の魔力込め班の前では、オジさんが手を叩いていた。
「はいは~い! ということで、シフトは赤だよ~!」
「いい、みんな!? 赤の使えない人は、使える人のサポートに回って!」
「はい!」
現場指揮官のお嬢様は、すぐさまスライムに戻り、赤キューブを作っていった。
外を回っていた間にシフトの内容を決めていたのか、灰色キューブを机に配っていく人、出来た赤キューブを回収する人、粘土でフタをしていく人と、実にスムースに流れている。
おっと、ハーピー2人組も粘土でフタをやってるな。
「ピルヨさん」
「ん? なんや?」
「お嬢様に【魔力譲渡】はされましたか?」
「せや。もうワテ、カラッケツやで。出来ることないわ」
あるんだな、これが。
「なンや、ピルヨ? ちゅーことは、色が合ぅとるモンは、朝に来いちゅーワケか」
「せや! 明日から3日間、赤やで! おっちゃんの酒焼けした顔とおんなじや!」
「そぉんな赤ぅないわ~」
「赤い赤い! ほんで、このあとも、そこのカルいオッサンと、フツーに軽い骨のアンちゃんが、よーけ注文出すさかいにな!」
「軽いンはお前の口やろがぃ~」
「なんや、アホトマト!」
「ざ~んね~ん、おっちゃん赤ピーマンや~!」
「スカスカやんけ!」
「あほぅ、栄養満点や!」
しばし罵倒だか漫才だかのやりとりが繰り広げられたのち、ピルヨは「行くで!」と、私たちをハーピーのたまり場から連れ出した。――うーむ、反応はイマイチだったな。
「へ? アレ、めっちゃ食いついたで」
本当に? ――ピルヨに頼んで良かった。
「まっ、すこ~し言葉の荒いおっちゃんが多いけどな? ハートのアツさが出とるせいやで」
「そうなんですか」
「ウソや」
ケロッと答えたよ、この鳥。――こら、バシバシ肩甲骨を叩くな。
「昼間っから酒カッ食らってクダ巻いとるせいやで。――ハーピーは、よーけ偵察に飛ばされるやろ? そらまー、バキューンって撃たれるわ。そんで墜落して、羽ヤラれるんまでがオヤクソクやからなー」
種族の職業病みたいなものか。
ピルヨは手をプイプイと振った。
「あっ! でも治るから大丈夫やで! あと、ここのおっちゃんたちは、オンオフしっかりしとるから! 仕事のある日は、朝からシャキーンや」
ない日は朝から飲んでるんだな。
ピルヨには、他のマイナー種族のたまり場を回ってもらうことにして、私とオジさんは犬人派の道場へ向かった。
バイト募集の張り紙をお願いすると、みんなちょっと不服そうだ。
「せっかく猫人派から独立したのに、そこの仕事を請け負うんですか?」
ああ、それを言われるとたしかに。茶番劇から1週間も経ってないしな。
「ですが、皆様の支持されたスラヴェナ王女様は、すでに1ヶ月も働いてますよ?」
「――あっ、本当だ!」
真面目なんだが、どっか抜けてるよな。
ドワーフ工房にも足を向けた。
「ガイだわさ~!」
残念なロリが、アバラ骨にほおずりしてくる。
「あう~、最近は武具の直しが多くて、ツマンナイだわさ~。ストライキしたいだわさ~」
いや、直せよ。
オジさんがアゴに手を当てる。
「おんや~? ガイ君ってば、ムチャクチャ好かれてるじゃ~ん」
「ヘンなものをよく注文するからですよ」
オジさんは、マルちゃんという交渉の山場を越えて、すっかりリラックスモードに入っている。
私はドワーフの匠たちに、求人募集の件を仲間に伝えてほしいと告げた。
「ほほぉ……ニィちゃん、エルフの下に、ワシらドワーフがつくと思ってんのかい?」
――あれ、種族の仲は悪かったのか?
「あちょ、だわさ」
パンフレットを丸めたロザンネが、匠の頭をポフッと叩いた。
「そうやって、与太話が広まるだわさ」
グハハと大笑いする匠たち。
オジさんが、私に苦笑してみせた。
「昔はケンカしてたよ~? でも、今じゃスッカリ仲良しだから」
「何があったんです?」
「『あいつら仲が悪いから』って、他の種族がみ~んな言ったのよ。お互いに、そっちの方が怒ったのね~。で、手を組んで殴りに行ったと」
やー、なんて言うか、面倒くさい人たちだな。
最後に冒険者ギルドに戻り、雇用の仮予約を行った。
「袖の下ですか、オジさん?」
「あら、バレちゃった?」
オジさんは左手を開閉して、コインを出してみせた。
「最終的にはここで調整でしょ~? 募集人数が0から25まであり得るなら、受付さんに色を付けとこうよ」
たしかに。他もゼロでここもゼロだと、詰むからな。
翌朝7時。
「……30人います」
マケールさんが数えた。うち、バイトは25。ベストだ。
オジさんは苦笑いする。
「仮予約、キャンセルだね~」
傘をもって出たときほど、雨は降らないものだよ。
お嬢様が混成部隊の前に立った。
「みなさん。今日から、よろしくお願いします」
工場の扉が開き、いよいよ戦いが始まった。