101話目 ワンチャンス大作戦
C班の1人、シャイなエルフさんの言う通り、ソネの大工場には3つの機械が眠っていた。
「はいは~い、オジさんで~す……えっ、どれも動く!? うっひょ~、オジさん、ウレシイねえ~! ――うんうん、そんじゃま、明日にでも取りに行っちゃうよ~ん」
オジさんが通話を切るや、多数の歓声と、少しの不安の声が上がった。――ふむ、いざ急激に変わると、たとえ良い方向であっても、ミシェルさんのような人は出てくるよな。
その懸念は……結果をもって、安心に代えさせてもらおう。
「ひょっひょっひょ……盛り上がってるトコ悪いが、お待ちよ」
婆さんが魔力込め班の数字をつついた。
「25人追加……大きく出たもんだがね、メシ炊き班は今が限界さ。そりゃ、外食したりメシ作ってくりゃいいってモンかもしれねえが、チョイと不公平じゃねえかい?」
おっと、食事の意見はないがしろに出来ないな。どうするか。
「ねえ、バルバラさん」
時間割を見ていたアンリが口を開いた。
「追加メンバーは、朝7時から12時までにすればどう?」
「ひょひょ……午前で帰すのかい」
「5時間で魔力も使い切るし、始めからそういう契約にすれば、お昼もいらないわ」
イェーディルの朝は早い。7時なら、みんなフツーに起きている。
モブエルフも積極的に発言し始めた。
「たしかに、そんぐらいなら許可も下りるだろうが……」
「紫の使える人間は押さえられてるんだろ?」
「待て待て、色を統一しさえすりゃいいんだ」
「つーことは……」
「前日にオーダーを受ければいい!」
みんながオジさんに注目した。
「あ~らら……。オジさん、期待されちゃってる?」
チラリと私を見てきたので、うなずいてやる。
――昨日、コッソリ言ってくれたよな、オジさん?
1日に2000コ生産できれば、日をまたぐ注文も受けられると。
機械のカタログを調べて、C型のクールタイムを縮める方法があると知った。なら、B班が最終的な要だろうから、なんとか増やす方法はないかと思っていたが……みんな、予想以上だったよ。
次は、オジさんの番だ。
「そんじゃま~、なんとかしましょ。ガイ君、オジさんと付き合って~。――あ、恋愛の意味じゃないよ~?」
「分かってます」
本当に調子を狂わされるな。
私とオジさんは、まず冒険者ギルドへ向かった。そこで、ソネの町の機械を引き取るため、運送の依頼を出す。
「さて、オジさん。次はどこへ向かいますか?」
「そりゃ~もう、いま一番ホットな所さ」
「ガイちゃんザマスか! よく来てくれたザマス!」
おお、マルちゃんも相変わらず元気だな。
上機嫌だったマルちゃんだが、オジさんを見るとたちまち顔をしかめた。
「よくもまあ来たザマスね。キューブが間に合わなかったせいで、危うく大恥かくトコロだったザマスのに」
「誠に申し訳ございません」
神妙な顔のオジさん。マジメな対応も出来るんだな。
「アタクシは、そちらが前にやらかした失態をよーく覚えてるザマス。主催のパーティーでキューブがない恐怖! 分かるザマスか!?」
「申し訳ございません」
「フン……で? 今日は何しに来たザマス?」
「エルフの工場は、スラヴェナ王女様とガイさんの助けを借りて、生まれ変わりました。それをご報告に」
「そうザマスか。分かったザマス。帰るザマス」
「はい。では」
オジさんが深々と頭を下げ、帰ろうとしたとき。
「待つザマス。――今、工場にガイちゃんがいて、生まれ変わったと言ったザマスね?」
「はい」
「ならば、チャンスをやるザマス。赤キューブ、6000。明日の夜6時までにキッチリ用意するザマス」
多すぎる。
しかしオジさんは、穏やかな笑みを浮かべた。
「マルヨレイン様。もちろん我々も、それは可能です。ですが……それを一旦収容されて、また取り出すとなった場合、お手間ではないですか?」
「――続けるザマス」
「6000コ全部がイキナリ必要ないのであれば、数日にわたって分割してお届けも出来るという、無料オプションのご提案です。いかがでしょう、2000コずつなどでは」
「いいザマス。やってみるザマス。――ただし!」
マルヨレイン様はビシッとオジさんを指差した。
「今度穴を開けたら、脳天に穴を開けてやるザマス!」
「肝に銘じます」
店から出たオジさんは、フヒュゥ~っと息を吐いた。
「ガイ君? 取られた仕事ってね~、マルヨレイン様の案件だったのよ~」
うわあ……そりゃデカいな。
「でも、最近マルヨレイン様のお店でキューブの需要が増えてるでしょ? それを狙って、魚人がキューブの値段をちょっと釣り上げようとしたのね。そこに、上手いことワンチャンスの活路を見出だしたってわけよ~」
「――上手かったですか?」
「利用できるものはなんでも利用しますよ~、オジさんは?」
それで私を連れてきたのかい。敵わんね。
ともあれ……今年の冬は、アツくなりそうだ。