10話目 かくれんぼしましょ
なんとか自分の核を取り戻した私は、手にしたソレをどこに仕舞おうかと悩んでいた。
早々にリセットを使い、体の再構築は行った。スライムのお嬢様のように、体内へも入れてみる。
――そう。骸骨の体に、赤いピンポン球は収まったのだ。ふわ~っと、肋骨の内部で浮かんでくれた。
「だが、これでは、明らかに核をさらしているよな」
お嬢様ですら、赤い球……お嬢様のはボウリング球ぐらいあったな、それを、水色の体でおおって見えなくしていたのだ。うーむ、世の中の骸骨はどこに収めてるんだ?
「――そうか」
腹がガラ空きなら、口から入れて……と。お、うまい具合に収まった。
頭蓋骨の中である。右目の後ろ辺りに核を置いてみた。ハタから私を見れば、ちょうど骸骨の右目が赤く光る感じの演出になっているのではなかろうか。
ともあれ、ようやく球のポジションが定まった私は、カラスを牽制しながらその部屋を改めて確認した。
まず、一見して分かるのは、屋根裏部屋のように天井全体が傾いていることだった。ここは、何か大きな建物の一室なのだろうか。
壁の上部に1本だけ刺さった魔法の燭台が、ぼんやりと部屋全体を照らしている。私には問題ないが、人の目だと薄暗く感じるだろう。
「カァー!」
穴の脇には、カラスが集めた石ころやドクロがごろごろしていた。どうやら、ここがねぐららしい。
10m四方の部屋に、出口は2つ。梁の伸びた穴と、その反対側に、豪華な内開きの扉が1つ。
周囲の壁には、キラキラした宝石群がズラリと並んでいた。おっと、扉の脇には巨大な壺もあるぞ。こんなモノ置いて、カラスが倒したらどうする気だ……と、厚手の黒い布をしいて転倒防止してるのか。
「ねぇー、何かあったー?」
お嬢様の呼びかけに、穴から顔を出す。
「ええ、宝石が並んでました」
「えっ、ウソ!? ちょっと、持てるだけ持ってきちゃいなさいよ!」
悪人じゃないって宣言はドコ行った。
しかし、造形は素晴らしいからな。しばらく見ていって、目の保養にするか。
私が何気なく反対側まで歩いたとき、カラスが鳴いた。その直後、ぞわりと怖気が走る。
――なんだ、この感覚は!?
急いで穴から出ようとしたが、扉近くにいたのがマズかった。
バタン!
「ふぉっふぉふぉ~ん! 元気にしとったか~、カーマイン?」
「カァー!!」
「ほっほほ~! そうかそうか~。ワシも元気じゃ~」
扉が、開いてしまった。
声から察するに、爺のようである。たまたま扉の反対側にいたため、まだバレていない。
だが、このままでは時間の問題だ。
「いや~、そこに穴が開いとると便利じゃろ~? かくいうワシも、色んなゴミを捨てられて便利でのぉ~」
爺は梁まで行くと、ズルズルと引っ張ってきていた「人間」を、無造作に放り投げた。
――チッ。爺が襟首を持っていたせいで、落とされるまでのソイツの顔をバッチリ堪能してしまったよ。
あさっての方向を見たまま、舌を出してひきつり笑いをしていたが、間違いなく「人」だった。
「うん~? はて、妙~じゃのぉ~」
爺が、穴の外周をしげしげと眺めだす。
「この穴に張っておいた【警戒】が、作動しとる」
振り返り始めたので、即座に「持っていた頭」を引っ込める。
――そう。私は壺の中に隠れていた。頭さえ入るなら、簡単に全部入る。
やれやれ。これが本当の「骨壺」か。せっかく生き残ったのに、イヤな予感しかしないぞ?
こういう悪い予想は、えてして当たるものらしい。
「カーマインよ~。お主以外のモンがココに入ったら分かるんじゃが、ドコに行ったか分かるかの~?」
「カァー!」
クソカラスは、バサバサと羽音を立てたのち、私の隠れた壺のフチにガッチリと止まってひと鳴きした。




