1話目 「3」の男
ちょうどの時間に死にたかったが、1分すぎてしまった。
胸が苦しい。私がデブだったせいか。
これは死んだな。
人は私を100貫デブと呼んだが、それは誇大広告というもの。
80貫だ。
つまり、300kgだ。
ああ、もう2分になってしまった。
呼吸もツラい。寿命の砂時計がパッキリ割れて、ドザァーっと流れ落ちている感覚だ。
ふふっ……不思議と、分かるものだな。
トラックに轢かれたり、誰かをかばって刺されたりなどではない。
自分の重さで、死ぬんだ。
ふと、何時かを見た。
15時2分。
……いや、待て。PMか。午後3時なのか。
なら、いい。
3は、ラッキーナンバーなんだ。
3月3日の生まれでね。午前3時1分に生まれたんだ。あと2分頑張れなかったかって母に聞いたら、こっぴどく怒られたよ。そんな風にガマンできるものじゃないってね。
今なら、少し分かるな。1分でも、長いものだ。
ああ、3分になった。上出来、だ……。
午後3時3分3秒。
私、三井桃矢は死んだ。
気が付くと、長い列に並んでいた。
やけに体が軽いと思ったら、やせていた頃に戻っている。75kgぐらいだった頃だ。
「転生組の方はこちらでーす!」
みな、背広姿の赤鬼に従っている。
列の先では、青鬼が受付をしていた。たまに、「転生ボーナスってないんですか!?」などとわめく者がいたが、そういう輩は勝手に紙を押しつけられている。「ひぇあああ」と情けない声を上げているから、次回は楽しいものに転生するのだろう。
私の番が来た。
「アナタの場合は、前世で成したことが少なかったので、選べる人数も少なめですね」
「何人でしょう?」
「こちらの3人です」
私は不敵に笑った。
「充分ですよ」
広げられた3枚の転生リストを見たが、よく分からない。すべて、得体の知れない文字に見える。
「成したことが少ないと、読むことのできる転生の情報も、少なくなってしまいます」
ふむ、やむを得ん。実際、食べては寝ていたダケだしな。
適当にシャッフルして決めるか。そう思っていた矢先、ひとつだけ判別できる項目があった。
※体重※
「ぷっ」
面白い。
生前300kgあった私が、唯一分かる項目がコレか。なるほど、ふさわしいかもな。
1枚目を見てみた。3646g。ふむ、元気なお子さんに転生だ。
2枚目を見てみた。2633g。おや、先ほどより1000gも軽い。新生児でも、かなり幅があるんだな。
うむ、元気そうなのは1番だが、2番は「3」が2つか。ではコチラを……いや待て。それこそ、「3」枚目が残っているではないか。
私は3枚目を見てみた。
「――ほほう」
3000g
真打ちは、最後に登場するらしい。
「これにします」