魔神の半身
半ば引きずり込まれるように入った穴の中は、生温い水の中みたいだった。
と言っても水の中より少し動きづらい、なのに普通に呼吸できるから不思議だ。
暗くて何も見えないのでクーナに手を引いてもらってる。
いや?別に?
暗いのが苦手だからじゃないぞ?
クーナに手を引かれてるのも自分じゃ進めないからじゃないぞ?
……………本当だよ?
クーナに手を引かれ、穴の中を歩く。
クーナも何も見えないらしいが、道を暗記しているらしく、暗闇をスイスイ進んで行く。
──ドクン──
「…………ん?」
───今なんか変な感じかしたぞ?
体が熱くなるような、ウズウズ?するような…………
───ドクン!───
「うっ……」
気のせいじゃない!
明らかに空気が変わった。
それになんだ?
この突き刺すような視線は………
…………気味が悪い。
「共鳴してるね」
「…………共鳴?」
クーナがよく分からないことを言う。
「そう、共鳴。ハルは半魔神、でしょ?」
クーナがピタリと立ち止まる。
「『半』が付く原因は血統ではなく、魔神の力を半分に分けたから」
ポウッと周囲に淡い光が灯った。
光は等間隔に現れ、街灯のように道を照らす。
クーナの前は真っ暗だったが、その光に照らされ────奥にある"それ"が見えた。
「残り半分が、あれ」
そしてクーナは"それ"を指でさした。
そこには───
───一振りの長剣と、それに心臓を突かれた魔人の遺体があった。
「あれと…………共鳴してるのか……」
「そう。1つになろうとしてるの」
その魔人の肌は青白く、虚空を眺める目からは生気がまるで感じられない。
剣は後ろの壁に魔人の体を縫い付けるように、下から突き刺さっている。
魔人はピクリとも動かないのに剣で破壊されたはずの心臓は脈動し続けているのか、刀身をつたい持ち手から血が滴っていた。
───ピチョン──ピチョン───
血が滴る音に合わせるように、心臓が拍動する。
体を殴りつけるような心音のせいで呼吸が止まりそうだ。
「あの剣を取って」
クーナが俺をここに連れてきた目的?を告げる。
「一人でか?」
「そう。あの血が気化してて、私はこれ以上前に行けないから」
そう言ってクーナはハンカチのような物を投げた。するとハンカチはある一線を超えた途端、一瞬で消えた。兆候は一切無く、一瞬目の錯覚かと思ったくらいだ。
「………ね?」
「ね?……じゃないわ!俺に死ねと?」
「半魔神なら大丈夫」
「………スゲーな半魔神、半分でも流石魔神な」
……………あれ?でも、服は?
「……服は?……ダメじゃね?服は、吹き飛ぶよね」
「大丈夫、後ろ向いててあげるから」
服は大丈夫じゃないのね。
「どのみち行かなきゃダメだから、どうぞ」
…………え?
これ行くの?
行かなきゃダメなの?
行く感じになってるの?
「マジかよ…………」
と言いつつ一歩づつ向かってる俺は偉いと思う。
決して否定する根拠がなかったとか、ここまで来て帰るのが情けなかったからじゃない。
……………違うよ?
そして何歩目かの一歩を踏み出した刹那──
───ドクン!!───
「 ─ ─ ─ ─ 」
──唐突に一瞬心臓が止まったような錯覚を覚えた。
思考にも感覚にも空白が空く。
「──ぁ──あ──」
少しすると感覚が戻り、つられるように思考も動き出す。
「………ふーっ」
軽く息を吐き、気を引き締める。
どうやら思っていたよりずっとキツそうだ。
▽▽▽
「──は──ぁ──は─」
どのくらい進めた?
一歩を足を踏み出すごとに心臓が悲鳴をあげる。
グッと視界が暗くなり、手足から力が抜ける。
「……くっ……そ……………」
それでも倒れるわけにはいかない。
キツいし、しんどいし、帰りたくてしかたないけど…………
一歩、一歩と踏みしめて進む。
こんなことで音を上げてたらこの先、魔族の救済なんかやってられないからな。
▽▽▽
「……はーっ……はーっ……つっ……着い…た…………」
やっと、着いた。
長かった、マジで……
「……やりゃあ出来るもんだな…」
しかし、膝が笑ってしかたないし心臓が止まりそうだ………
元気なうちにさっさと終わらせよう。
そう思って魔人の体に刺さった剣の柄を持ち、引き抜こうと力を入れた。
だが…………抜けない。
血が染み付いてるのか、剣を持つだけで辛いから早く終えたいのに………
苛立って剣が刺さってる魔人を見たら──
──目が、あった。