魔王様
おーおー、魔王城が見えてきた。
魔王城はザ魔王城と言った感じで、厳かな感じの黒い洋風のお城だ。
ちなみに魔王様は薄紫色の髪を肩口で切り揃えていているクール系美人、胸は微乳や美乳じゃ無くて微乳。目は髪より少し濃い紫色、肌は真っ白で、背は高め。170後半くらいじゃないかな?
近づくにつれ魔王城の周りにある街も見えてきた。
ここに来るのも久しぶりだな、2ヶ月くらいか?
後半は牢屋にぶち込まれてたから時間が分かんなかったんだよね。
ちっさい覗き穴を除いたら密室の暗闇だったからな、退屈で死にそうだったよ、マジで。
ふよふよと浮かぶ魔法の絨毯に乗りながら、魔王城の敷地に入───
──ドコォォォォン!!!──
───っぶねー。
魔王城の敷地内に入った瞬間、物凄い勢いで車くらいの氷塊が飛んできやがった………
氷塊が飛んできた方向を見ると、懐かしの魔王様を発見。氷より冷たそうな眼差しで、睨み殺さんばかり。
前回とは違い鎧じゃなくて普通の服を着ている。
スカートじゃなくてズボンなところに性格が出てるね。服は執事服みたいだな、曲がりなりにも王なのに。
しかし、もう完全に仲間になった気分で油断してたな。
ギリギリで避けれたが、危うく直撃するところだったぞ………………ん?
あ、あっ、あーーっ!!
お、俺の魔法の絨毯が粉々に………
使いきりって分かってても、なんかショックや。
つーか避けた拍子に服も破けちゃったし…………
脆すぎだよこの服……
地平線が見えそうな大地で全裸とか、解放感がやべぇな。
ここで恥ずかしく感じないのは、変態だからではなく目に見える範囲に誰もいないからさ!あ、魔王様がいたわ。
今さら気づいたけど魔法とかで防げばよかった。
自分の失敗を反省しながら、異空間から服を取り出して着る。うっ、さっきよりきつい。
もしかしなくてもこれ190とかじゃないだろ。
もっとおっきくなってんじゃないか、これ?
着替え終えたので、もう一度土ゴーレムで魔法の絨毯を作り、乗る。
──ドコォォォォン──
今度の一撃は、同じ大きさの氷塊を同じ威力でぶつけて防ぐ。
なんかハイタッチみたいで、ちょっと楽しい。
それを何回か繰り返すと、今度は氷塊の数が増えた。
全部で5つ。
きっちり返す。
今度は8つ。
それも返す。
今度は俺を囲うように10?いや12か。
これはワープで避ける。
ちなみに絨毯君は置いてきた。
きっともう原型はとどめていないだろう。
さようなら、君のことは忘れないよ。
さて、ワープで一気に距離を詰めたから、魔王城はもう目と鼻の先だ。
魔剣を取り出し、上からの斬撃を防ぐ。
──ギィィィン!!──
相手は、防がれたのを見ると腕の力を抜き、俺の懐に潜り込むように片足で着地。それと同時に腰をひねり超至近距離で後ろ回し蹴り。
それを軽く体を反らして避け、続け様に放たれた斬撃を魔剣で防ぐ。
つばぜり合いのままいると、魔王様が話しかけてきた。
「……………あなた、あの時の勇者?」
「もう勇者じゃないけどな」
覚えててくれたことに感激や、体格とか凄い変わったのによく分かったな。
「そ。魔剣なんて持ってたのね」
「あの時は、使えなくてな」
「周りの目?」
「そだよ。勇者が聖剣じゃなくて魔剣って、あれだろ?」
「…………勇者が何しに来たの」
「だから、もう勇者じゃねぇよ」
「……信用しろと?」
「出来ない?」
「出来る訳無い」
「そか、敵対する来も無いんだが?」
「…………」
そう言うと魔王様はゆっくりと剣を引いた。
初めて会話をしたが結構無口なのね、魔王様。
「分かってくれたようで何よりだ」
「…………何しに来たの」
でも、もうちょっとコミュニケーション取ってもいいんだよ?
「…………」
「…………」
俺を睨み付ける目を見ると、少し悲しくなる。
睨み付けられているのに、この人が本当は凄く優しいのが痛いくらい伝わって来るから。
そっと魔剣をしまう。
「あー、俺は……異世界から呼ばれた勇者だ」
「…………」
「今まで国に言われるがまま、少なくない魔族を殺してきた」
「…………」
「それを…まず謝りたい。すまなかった………」
「…………謝って何か変わる?」
「何も変わらなくても、謝りたいんだ。じゃないと何も始まらない」
「何かを始めるつもりはない」
「俺にはある」
「……」
「俺はな、魔族を殺す事が嫌だったんだ。でもそう思うのは元の世界の価値観があるからで、それが無ければ………疑問すら感じなかったかもしれないと思うと、だんだん自分の正しいことが分からなくなっていった。国どころか世界が違うんだ、これが正しいことなのかもしれない」
「…………」
「誰もが魔族には価値がないと言っていた。魔族でさえそう言っていた。あぁ俺が間違っていたのかと迷い始めていた時、あの戦争であなたを見た。魔族を必死で守るあなたを見て、俺は不謹慎だが安心してしまった。俺と同じ気持ちの人なんていないと思ってた。あなただけが俺の気持ちを代弁してくれた。ありがとう」
「…………」
「後、ごめん。あなたを見るまで、俺は後一歩が踏み出せなかった」
「………」
「勇者はやめた……人間もやめた……魔族では無いかもしれないが……今の俺は明確な人類の敵。戦う相手は一緒、敵の敵は味方だ」
「……」
「だから、その、情けない男だが、あなたの隣で戦ってもいいですか?」
「……」
長い沈黙が続く。
俺のことを真剣に考えてくれているのだろう。
何回かは門前払いも覚悟してたのに、やっぱり優しい人だ。
「……………クーナ」
「え?」
「だから、クーナ。私の名前」
「それは一緒に戦ってもいいよってこと?」
「別に信用した訳じゃない、やっぱり人材不足だから人手は欲しいの」
「………」
「あなたの名前は?」
「あっ、俺は朝霧 陽。陽で大丈夫だ」
「なら私もクーナでいい。これからよろしくねハル」
「ああ、任せろ。もう迷わない」