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勇者は悪魔となって舞い戻る





朝霧 陽が死んだ。



その事実に民は安堵し、狂喜する。

貴族はやっと邪魔者が消えたと、晴れやかな面持ちだ。

勇者も嘲笑が押さえられないと言うように笑い出す。



無能な恥知らずの勇者(まぬけ)の死の喜びを皆が分かち合う。



ふと、誰かが違和感を口にした。



『あれ?……死体がない』


朝霧 陽の死体が消えた。


服や鎖など身につけていた物を残し、跡形もなく。


死体どころか服に染み付いていた血の跡すら無くなっている。





皆が不思議に思っていると、今度は人が倒れた。


糸が切れた人形のようにピクリとも動かない。


何処かに躓いたのかと、そいつの同僚が笑って近づいた。


しかし、倒れた男の顔を見たとき笑みが凍った。


『…………死んでる?』


そう言ったそいつも倒れた。


唐突に。


無機質に。


パタリと。


得体の知れない恐怖が人々を蝕む。


1人、また1人とゆっくり倒れていく。


誰もが逃げようとした。


誰もが叫び声を上げたかった。


なのに、体が動かない。


声も出ない。


視線も動かせない。


耳が痛いくらいの静寂の中、1人1人倒れていく。


何十と言う人が倒れた時、変化が訪れた。


断頭台の上に黒いモヤが集まり始めたのだ。


それと同時に人の倒れるスピードがグンッと上がった。


黒いモヤの量に比例するようにスピードが上がり、ある時ピタリと止まった。


同じくモヤも晴れ、その中から人が現れる。


真っ黒だった髪が少し白みを帯びており、体格も変わっているが面影はしっかりと残っている。


───()() ()()





▽▽▽





ちょっと不安だったが、ちゃんと生き返ったな。

少し身長が伸びたか……190くらいか?

元々180くらいあったからあんまり分かんないな。

だけど、体つきは凄いな。ムッキムキだよ。

手足も一回りはでかくなってる。


まあ、とりあえず服を着よう。

すっぽんぽんだし、恥部を露出する趣味もないし。


ぼろ雑巾のような、何て言うんだこれ?ワンピース?みたいな形の奴隷用の服を着た後、周囲に目を向ける。


俺を中心に半径2~300m程にいる人間が倒れている。

中には立っている奴もいるが、フラフラだ。


これ何が起こったの?


あ、立ってる中でも各々の武器を構えている奴らがいた。勇者だ。


「おいおいおい、どんな手品だよ」

「なに仕留め損なってんだよ」

「いや、あれは間違いなく死んでたぞ?」

「もう1回殺せばいいだけだろ」


4人とも無駄に元気だ。

どうする、ここで殺しとくか?

生かしといても、ろくなことになりそうにないし……。


「……殺しとくか」


元が日本人なんだ、こいつらみたいに血気盛んだと変な知識とか溜め込んでそうだし、百害あって一利無し。


「は?殺すって何だよ、俺達をか?」

「ぶはっ!じょ、冗談きついぜ」

「お前を取っ捕まえたの誰だと思ってんだよ」

「現実が見えてないんだよ、きっと」


……声に出てたみたいだ。

まあ、こう思われても仕方ない。

実際、他の奴からもそう思われてるし。


と言うのも勇者に与えられる聖剣やら聖搶やら、聖なる力を持つ武具を持たなかったからだ。

聖剣の無い勇者など勇者ではない。らしい。

どのくらい重要かと言うと、紅しょうがの無い牛丼のレベルを超えて、もはや麺の無いラーメン。

…………それただのスープじゃん。


聖剣を持たない勇者は固有スキルを持たず、そもそものスペックにも差が出ると言う。


俺の場合、身体能力や魔力量はむしろ普通より高かったのだが、聖剣や固有スキルがなかった。


より正確に言うなら使えなかった。

持ってたのは聖剣じゃなくて魔剣だったし、固有スキルは『転生』と『反転』


『転生』は死んだとき能力を引き継いで、何かに転生することが出来る。ちなみに、使いきりだが転生する種族を選ぶことができ、俺は魔族にした。


『反転』は指定した全てを反転させることができる。

使用には例外的に魔力を必要とするが、効果はもう反則だ。

馬鹿みたいに魔力を使えば生を死に反転させ触れずに殺すことも出来る。


こんな物騒なものを馬鹿正直に伝えても良いことが無さそうなのは俺にも分かったので、持ってないことにした。

そのためか、あだ名が無能になってしまったが。


ちなみにそんな事を言っていたこいつらの能力は、弱くはないか強くもないビミョーな感じだ。一番反応に困るやつ。


俺の介錯をした奴が『帯電』

仕留め損なったのを責めてたのが『怪力』

どこかプライドが高そうなのが『硬化』

もう1回殺そうとか言ってたのが『加速』


名前だけ聞くと強そうかもしれないが、出来ることが少ない上に応用が利かない。


『帯電』は自分しか電気を帯びることができないし『怪力』は筋力に比例して瞬発力を失う。『硬化』は体を固めている時動けないし『加速』は一撃の重みを失う上、消耗がすごくはやい。

何より勇者が派手な使い方を好み、工夫をしない。


学ぶこと無いから時間かけても仕方ないし、サクッと死んでくれたまえ。


勇者達の動ける体を『反転』でひっくり返し、動きを止め魔剣を取り出す。


魔剣はスマートでシンプルなバスターソード?長剣?だ。

形は好みだが、持ち手が真っ黒で刀身が赤黒く、少し気味が悪い。だが、そこがいい!!この病は、不治の病。14から発症し隠してはいるが、年を取っても治らないから困る。


さて、じゃあ殺してやるぞと近づくと、勢い余って心肺機能とかも止めちゃってたのか、勇者は既にただの屍になっていた。





………………弱すぎだろ……





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