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第1話

 「おはよう。」


 白く、無機質な病室に響く一つの男性の声。父親なのだろうか。だがその背中は妙に暗く、冷たい。

 どうやら病室は相部屋ではないらしい。入院しているのではないのだろうか。点滴に繋げられていない少女が、一人。まるで機械がやったのではないかというくらいベッドメイクされているそれに横たわっていた。

 散り際を迎えている桜を窓から見つめる男性。一応、父親としておこう。背格好は大人そのもの、少女に兄がいるなら別かもしれないが。


 「気分はどう?気持ち悪くないかな。朝からずっと検査だけだったからね。」


 「見舞いは横砂と母にきつく、言っておきました。看護師が入れたんですか?」


 父親と仮定していた男性は、ただの見舞いだったらしい。少女を見ずに体調を気遣う言葉を紡ぐ。

 だが少女の言い方を聞く限り、その後ろ姿は見知ったものではないのだろう。それにしたって、あまりに冷たい。


 「兄だと言ったら簡単に通してくれた。君のお母さんは帰宅してるらしい。」


 少女は見た目、十七、八の学生。凛とした、はっきりとものを言うその声は随分大びている。


 アルビノだろうか。


 色素の薄い肌、白に近い色の髪、赤みを帯びた瞳。まるで人形のように整った顔が男性の言葉でみるみるうちに歪んでいく。

 綺麗な顔は、表情が歪んでようと端整で綺麗なままだった。

 少女の顔が歪んだ理由はおそらく、病室に看護師と医者しか入れないように見張らせる為にいさせた母親が帰ったことだけではない。

 桜を見ている男性の窓に映った姿が視界に入ったことも、きっとそれの一因だろう。


 「知り合いに、貴方のような仮面を被った方はいません。」


 瞳だけが見える不気味な面と、黒いフードを被った姿はまるでこの世のものと感じる事ができないくらいに奇妙。勿論少女も、そんなことを言ったらその類だ。


 「そりゃあそうだ、俺みたいな人が知り合いにいたら君の世間的評価はさらに下が

ってしまう。」


 けらけらと笑う。

 少女の纏う雰囲気と、男性の纏う雰囲気はまるで相成るもの。この場に第三者が居たとしたら余程のものでない限り脱兎の如く逃げ出してしまうだろう。

 少女からの冷たい視線を物ともせずにのんびりと窓を開ける。


 「綺麗だよねえ、日本の桜は。」


 窓越しだったせいでよくわからなかったが、少女に正面を向いて明らかになったその面は見れば見るほど奇妙だった。

 右口角が上がり、目元が空いているのは窓越しにでも見えたが、涙袋のあたりだろうか。何を表しているのかわからないマークが真紅で彫ってある。

 白がベースの面から覗くどす黒い緑の瞳ははっきりと映えて見えてしまう。

 奇妙という感想が、恐怖に変わる。

 通常の幼子であれば泣いて喚いてしまうだろう。

 まるで人間の雰囲気を纏っていない。


 「不審者ですね。」


 のんびりとしているがどこか異様な雰囲気の男性は、先程から嫌という程病室に馴染み過ぎていた。

 おそらく、白く冷たい病院に、人間味の無く冷たいモノトーンの男性は受け入れられたのだろう。

 儚げな少女は、病院には受け入れられていなかった。


 「なんとでも言えばいいよ。」


 ───それで、君の気が済むなら。


 最後にそう、繋げたくなってしまう余韻を残す暖かな口調は、目の前にいる気持ちの悪い男性から発せられたものとは到底思えない。


 「面会拒否をしておくべきでした。」


 「検査入院でかい?馬鹿らしい。」


 ───よくもまあ、その格好で病院に入ってこれたものです。


 知り合いに同じことを思える人物が頭をよぎると少女は小さくため息をつく。感情がわかる行為としては男性の前で初めてしたものだ。


 「さて、本題に行こうか、人間。俺は何しに来たと思う?」


 「不審者らしく、不審な行為をしに来たのでは?」


 少女は考える事が嫌いだった。人と会話することも、同様。


 ───久々にこんなに声を口にしました。


 少女は三日間、検査のために病院に縛り付けられていたのである。両親は殆ど見舞いにこないし、姉はいるが仲が悪い。

 少女の答えが余程面白かったのだろう。声に出して笑い出す男性。

 窓を開けていたせいで外にまでその笑い声は聞こえ、花壇を散歩していたお爺さんが微笑ましそうに部屋を見た。

 そういえば、面をつけているのになぜ男性の声はくぐもらないのだろうか。


 「嗚呼、久々にここまで笑わせてもらったもんだよ。」


 男性はどこか満足そうだった。


 「俺は死神。残り一週間で──、明日から、一週間ね。明日から一週間で君は死ぬ。その間の監視、及び君の死後の魂の回収をしに来た。」


 久々に笑った男性の、その楽しげな笑い声の余韻はあまりに莫迦莫迦しい言葉でど

こかに飛んで行ってしまったらしい。

パッと思いついてパッと書いてしまったものなので誤字脱字があるかもしれません。まだ一話なのでどこまで展開をしようか少し迷ったのですが…。

死神の最後の言葉通り、この小説は一週間の小説内時間の中でのお話です。ただし、7話できっかり終わるわけではありません。1章1日、というようにしたいと思います。


まだ一話、それでも興味を持ってくださって読んで下さって感謝します。いつになったら完結できるか全く予想はできませんが、これから宜しくお願いします。

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