Chapter1〜その黄泉帰りは波乱の幕開け
「……ん…ぐゥ………」
瞼が…焼ける…
まるで真夏の日差しが顔に全照射されているが如く、閉じた瞼を通して眩く陽の光が眼球を焼いていく。じりじりと照り返すアスファルトの感触を下に感じる。
ここは…事故現場か…?…生きてる…?
不思議と痛みのない体に違和感を覚えながらも、起きろ起きろと急かす輝きに負けて瞼を開けて目をさます。
「……ぅ……ん…?」
どうやら夢ではないらしい。
何がというと、この俺が自殺したと言う事実自体。昨夜の事は噓いつわりなかった。
血まみれ焦げまみれの軽車両、それに腕だけを出して事切れた肉塊。ついでのようにはみ出て、目玉を飛び出させた顔は、クソみたいな人生から最後まで抜け出られなかった男の顔で間違いなかった。
「いったい…なにが……」
じゃあ、俺は…”この俯瞰している人物はだれだ?”
幾分か声も高い。少し女性にしては低めに感じるが、紛い無く女性のそれだ。視点ももとより少し低い。
思わずバッと自分の手を、体を見る。
細く嫋やかな指先
手に収まるほどの形のいい胸
ちらりちらりと見える黒い長髪の先端
女性らしい曲線を描く足腰
「女性に…なってる…!?」
衣服こそ全く同じ、ジーンズにタンクトップ。腕時計はないが、財布はあり中身は無事。免許も保険証もネカフェのカードまで全て元のまま。
時刻にして朝の5時。ギリギリ早朝にあたるこの時間には、住民の跋扈は未だ始まってはいないようだった。
「意味がわからない…わからないけど…」
とにもかくにもこの吐き気を催すスプラッタな光景からいち早く逃げ出すため、軽で走ってきたあの道を走って行こうとした。
足に力を込めて走ろうとしたその時分から意識がまた定かでは無くなった。
確かに覚えているのは、意識を剥奪される前。数多の剣に体を刺し貫かれる光景と、血と絶叫を撒き散らす自分の声だった