04-It is youth
「おはようございますっ。」
そう呼び止められて振り返ると、そこには"彼女"が立っていた。
「今日もいい日和ですね。」
上品な話し方同様、雰囲気もどこかのお嬢様といった風貌で、方より少し下程まで伸びた髪も丁寧に巻かれている。
彼女は学内でも美人と評判で、なぜ自分が付き合ってるのか、正直よくわからなくなる時がある。
経緯としては彼女が告白してくれた勇気を無下にするわけにもいかず……まぁ、自分としても悪い気はしなかったので付き合ったと言ったところだ。
僕としては、最初は高嶺の花だと思っていた彼女も案外庶民的なところがあり、気も合うことから今ではとても愛しく思っている。
思っていた。
思っていたはずだった。
彼女は学内でも美人と評判だった。
彼女は地元でも評判の美人だった。
彼女は居るだけで愛されるような風貌の持ち主だったはずだった。
そんな彼女の顔は今、左上4分の1が綺麗に欠けているのだ。
刃物で切ったでも、道具で抉ったでもなく、最初からそこに何も無かったかのような綺麗な曲線を描いて。
頭が凹んでいるのではなく、目も頬も脳の半分も綺麗に欠けているのである。
元の綺麗な顔に比例したかのように綺麗な切り取り。
ちなみに幼馴染の腕は幼馴染の読めない性格が反映されたかのようなぐちゃぐちゃと引きちぎられたような傷跡である。
「さっ、学校へ行きましょう。」
そう言うと彼女は僕の腕を引っ張って行こうとした。
しかし反対側からの引っ張りによって僕の体はふたつに引き裂かれそうになった。
「あたしを無視しないで貰えますかね、オジョーサマ???」
「あら、いらしたんですか、えーと…お名前なんでしたっけ、ご近所さん???」
ちなみにこの2人は仲が悪い。
どうしてここまで仲が悪いのかと聞きたくなるんだけど、聞いても2人とも「別に仲悪くない」としか答えない。
「んー、ぽっと出のくせに何言ってるんですかー、あたしの方が理解あるに決まってるじゃないですか嫌ですねー?」
「アナタはせいぜい、いい所でご近所さんじゃないですか。私の方が深い仲に決まってます。」
2人とも理由を教えてくれないし、僕はもう「ナカイイネー」と言いながら見守るしかないのだ。
本当に嫌いなら2人とも話しかけたりせずに、通り過ぎてしまえばいいのに何故かどちらと先に出会ってもこうした言い合いに発展する。
それはこの世界が壊れたとしても変わらなかった。
2人と鉢合わせると、学校に行くという高々10分程度の行動に30分はかかってしまう。
「おぉーーーい!!」
後ろから大声が聞こえてきた。どうも僕達を呼び止めているらしい。
誰だろうかと思っているうちに、引っ張られている僕の視界に自転車に乗った同級生が入ってきた。
「こんな所で何してるんだよ、」
そう言った彼はクラスメイトの中でも、わりと親しく話などをする中の同級生だった。
彼は顔が広く、学校中に知り合いがいると言われている。
その張り巡らされた情報網の広さから「梁」と呼ばれているのだ。
彼も彼で手首から先がない。
ではどうやって自転車に乗っているのかって言うとなんとも器用なことに両手放しで乗っている。
きっと警察官に見つかったら注意されると思うのだけれど、この世界の警察が機能してないのか、この同級生相手には言い様がないのか、そういった話は聞いた記憶が無い。
「梁」は多すぎる知り合いのために、会った人を一々ノートにまとめていると聞いたことがあるが、手のない今、それをどうしているのかは大変興味がある。
「お前今日日直だろ?早く行かなきゃ明日もやり直しになるんじゃないか?」
さすがの情報網。
そんなこと、僕はすっかり忘れていた。
「ありがとう、さすが情報の「梁」。」
「いや、昨日黒板に名前書かれてたじゃん。」
そうだっけ?そうだったかもしれない。
しかしいずれにしろこの引っ張りだこの状態では学校に行くこともママならない。
「おーい、このままだとコイツ、日直やり直しになるんだけど君らの大好きなコイツがそんな憂き目にあっていいの?結構恥ずかしいよ、日直やり直し。」
そう「梁」が2人に向かって告げると、2人は目を見開いて「梁」を問いただし始めた。
日直やり直しはクラス独自の制度で、クラスが違う2人のところにはないのだろう、「梁」をすごい勢いで捲し立てている。
一通り問い詰めが終わると、2人とも見開いた目でこちらを見て「ほら!!早く行きますよ!!」と彼女の言ったのを合図に学校の方に僕の手を引っ張ったまま走り始めた。
何故かこういう時ばかり気の合う2人。
やはり2人とも実は仲がいいのかもしれない。
「梁」はそんな僕達の横をついて走っていて、さながら陸上かダイエットのトレーナーのようだ。
これもひとつの青春の形かなと思ったりして。
いや、手を引っ張ってるのは顔の4分の1が綺麗に欠ける彼女と、左腕の二の腕から先がない幼馴染の女の子で、トレーナーは両手首から先がないけれど。
そしてここは僕から見て壊れた世界のはずなのだけれど。