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NiRVaNa  作者: 水初 茶江
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03-It is usual if abnormal

気持ち悪い。

いくら毎日の出来事になったからといって、その感情、感覚は変わらない。

吐きそうな気持ちを抑えながら、逃げるように家を出た。

毎日毎日繰り返している。

何が起きても、もう意外ではないとはいえ、堪えられない。

そういえば、この世界が異常になってから――世界が壊れてから、何も食べていない。何も。

待て。この世界が壊れてからどのくらい時間が経つ?

一週間?一ヶ月?

いや、そんな単位の時間だったか?

それよりもまず、なぜこの世界は壊れた?

どのように壊れた?

皆、何も疑問を持っていない。

自然だと、普通だと思っている。

最初から手があるのを当たり前だと思っているかのように。

・・・・・

最初から、

・・・・・・・・・・・・

そうであったかのように。

「とうっ」

僕の思考を強制的に打ち切るように背中に蹴りを入れてきたやつがいた。

「お前かよ……」

「えへへー」

後ろを見ると、その先にいたのは幼馴染みだった。

幼馴染みは目が細く、常にぼーっとしているような顔をしていて、長い前髪を頭の上の方でひとつに結っている。

カッターシャツは誰からのお下がりなのか、彼女のサイズより少し大きめでぶかぶかだ。

「ノーリアクション芸人つまんなーいっ」

「芸人じゃねーよ」

「えーっ、うそーっ」

このように脳内いかれているようなテンション及び思考回路持ち主であり、見た目と中身が合致しているように思う。あくまで個人的見解だが。

制服のあちこちにお菓子を忍び込ませており、お弁当もどうしてそこまで気合いが入るのかと作っている人に問いたくなるくらいに作り込まれている。

要するに食べることが大好きなのだ。ただ、暢気にしているわりにはノリがよく、表裏ない性格の為か人気はあり、お菓子を美味しそうに食べる姿が愛らしいとかで何故か女子の間でマスコットキャラクターのような扱いを受けている。

そんな僕の幼馴染みは。

女子の間で人気で可愛らしいと評判らしい彼女は。

今、血塗れだ。

ただこれは、姉のように生肉を喰った血でもなく、母のように臓器を喰らった訳でもなく。

この幼馴染みの血だ。

制服のスカートの左側が赤く染まり、長袖カッターシャツの胴の左側一部も綺麗に赤に染まっている。

そして更に左腕部分は殆ど赤くなっている。

引きちぎられたかのように二の腕の途中からなく、生々しく、血をぼたぼた流したまま。

平気で生きている。

「お前……血の量」

「あー、今日多いんだよねー。出血大サービス?」

きゃっきゃっと笑う幼馴染みの白い服からは血が滲み出て、溢れ出て。

道に赤い華を撒き散らす。

その様子を気付かれないように引きながら見ていると、何か、違うものが視界に入る。

背後から凄まじい勢いで此方に迫ってきているようだ。

「ちょ……」

「でもねー、こうしてると」

僕が逃げるように促そうとするのを遮るように話し出した幼馴染みの右手には、いつのまにか、何かが握られていた。

よく見るとそれは犬らしきものだった。

迫ってきていた何かはもういない。

犬らしきもの。

こんな曖昧な表現になってしまったのは、それがあまりにも見るに耐えない姿をしていて、犬とわかるのに時間がかかってしまったからだ。

泡を吹き、犬歯は牙と化し、目は焦点を合わせておらず。

とにかく、説明のしようがない、異形のもの。

辛うじて耳、尾、毛並みから判断できるだけの犬。

恐らく血の臭いに誘われてきたのだろう。

そして襲おうとして、返り討ちにあった。

幼馴染みの右手によって顔面は破壊され、脳も神経も殺られているはずなのにまだ暴れまわっている。

「こういうのがつれるからねー」

幼馴染みは上機嫌で。

犬の足を引きちぎって皮を剥いで頬張る。

「食べる?」

凝視している僕を見て幼馴染みはそう言った。

「いや、いいよ」

「えー、なんでさ。お腹すいてるでしょー?」

「すいてないから大丈夫」

「何も食べてないくせにー、お母さん泣いてたぞー」

「知らねーよ。そして何で知ってんだよ」

「この前あったとき聞いたんだー」

そんな歓談をしながら。

幼馴染みは道に、新しい華を咲かせていった。

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