或るド自己中の女の一生
春の温かい兆しを雨が冷たく包み込んだ。雨は遊びを忘れ、仕事熱心に降り続けている。
雨音がいつもよりも甲高く聞こえる。ぶっきらぼうな傘が今にも壊れそうで、私は早足で美容院へと足を運んだ。
開始時間より5分早かったのか、外で待つようにとスタッフに言われ、私はスーパーで集合写真のように陳列している果物を見ては、小さいものはなぜ前列に来るのだろうとふと思った。
開始時間を少々過ぎ、美容院へ行ったら、先客が3名待っていた。四番目かと思っていたら、三十路後半の女性のスタッフが
「あちらの男性の方が先に来られていたので、すいません……」と
身長170センチくらいの現代風なママに話していた。
「いや、私の方が少し早かったわよ。先に待っていたんだから。ねぇ、そうですよね?」
私は急な応答を責められ、少したじろいた。右手に持っていた傘の雨滴が床へと落ちている。
「いや、どうですかね……」
「どうもこうも先に私いたじゃない。この後娘を迎えに行ったり、買い物したりと忙しいんだから」
忙しいのは皆同じだと全員が視線を寄せても、ド自己中女は態度を変えなかった。見かねた店員は「そうなんですね、では先に……」と私に会釈をしながら、女を席へと導いた。
「次私たちですよね?」
そう躍り出たのは親子連れのお母さん。娘を美容院へと連れてきたこのお母さんは、自分が一番最初にこの店に来店し、その時は誰もいなかったと正義感あふれる口調で話し出した。
「でも、男性の方が先に来られていたので、そこはすいません」
女性スタッフは申し訳なさそうな顔をしながらも、早く仕事に取り掛かりたいと思っているのか、私を受付カウンターへと招き、申し込み用紙を素早く出した。お母さんはその勢いに圧されてか、口を開けることが出来ず、ドスンとソファーへと座りなおした。
かの私の友人は
「人は自分が正しいと思った事をまず優先に考える。それが自虐的になっても、押し通してしまう所が人間の本能なのだ。その領域にもし自分が入ってしまう時があったら、その時は迷わず、無関心になる。それが一番なのだ」
「馬の耳にも念仏」というわけではないが、川の流れのように軽く受け流すことが、自分の心にゆとりを持つ、人生が豊かになると友人はいう。
「頭だけが天国に行っているみたいです」
シャンプーをしてもらっている私は、心にゆとりを持つ大切さを知った。