鬼と愛の喜劇 別ver
ちょっぴり童話風。
彼は素晴らしく美しい男だった。
金糸の髪に赤の瞳、透き通る白い肌。
どこをとっても見劣りのしない完璧な
鬼、だった。
今は昔、まだ仏や魑魅魍魎が信じられ奉っていた時代のこと。
彼は人間の家に生まれた。
両親は生まれた我が子を見たとき、息をのんだ。
金の髪に赤の瞳、深い剃り込みにはまだ幼いがしっかりとした突起が二つ。目の開かぬ小さな赤子だったが、確かにそれは、鬼のほかならなかった。
幸か不幸か、彼の家は金持ちで、彼は生まれた日に病弱な母と森の深くにある離れに移された。
…否、捨てられたのだ。
彼はその深い森ですくすくと育ったが、体の弱かった母親は彼が五つのときに亡くなった。彼女もまた美しい人だったという。
この森の先には何があるんだろう。
年頃になった彼にふっと湧いた疑問。
それもそうだ。
彼は生まれてから、この森を出たことはなく、母と離れの世話係のばあやしか喋ったことも見たこともなかった。
また人々も“森には鬼が出る”という噂を恐れ、近づくことはなかった。
だから彼は見たことのない森の先に興味を抱いたのだ。それは子供ゆえの無邪気な好奇心に過ぎなかったのに。
「ばあやにはダメって言われてたけど…」
こっそりと抜け出した部屋。
草履をつっかけて、走り出す。
わくわくした。
初めて破る約束と知らない世界に。
そして彼は出会った。
真っ赤な着物を着た、自分と同じくらいの少女に。
「あなたは、だあれ?」
「…君こそ、誰だ」
「私は綾女」
「僕は清淋」
「「よろしくね」」
赦されざる恋の始まりだった。
二人は、こっそりと逢瀬を重ねた。
そのうちお互いが交じり合えない位置にいることを知る。
それでも、二人は逢うことを止めなかった。
そうして数年が過ぎた。
清淋は立派な青年に、綾女は立派な淑女に、美しく育った。
綾女は名家の子、年頃にもなれば縁談の話も上がる。しかし、清淋は名家の生まれとはいえ異形の鬼。
どんなに想いあっていたとしても結ばれてはならない。結ばれることはないなんてわかりきっていた。
「逃げよう」
そういったのはどちらだったか。
二人は夜も開けぬうちに、森で落ち合い生まれ育った場所を捨てるはず、だった。
「そっちにいたか?!」
「いや見てねぇ!」
「あっちじゃねえか?!」
「悪鬼め、見付けたらただじゃおかねぇぞ!」
「近隣に疫病まくだけじゃなくお嬢さんまで誑かすなんてなぁ!!」
静かな森に、赤い火と悪意の篭った村人が駆け回る。
それは二人を引き裂こうと、追い詰めていく。
「もう逃げられないわ…!」
「あきらめないで。
僕らはいつだってお互いを思ってるじゃないか?」
「……………そう‥よね。
…例えこの身が朽ち果てようとも、」
「君の黒い美しい髪に、」
「あなたの輝く金糸の髪に、」
「「 永遠の愛を 」」
これは
鬼と愛の悲劇ではない
鬼と愛の喜劇だ。
END
鬼というモチーフは当時若干ハマっていました。異種恋愛もなかなかいいですよね。ツノに異様に萌えます。