1月 純白を染める黒
雪国への憧れとともに書いた恋愛もの。
産まれた時から真っ白い世界で私は生きてきた。
雪が降ってわくわくすることもなかった。ここでは日常にしか過ぎないのだから。
白以外の冬を私は知らない。
「どっか遊びいこーぜ」
幼なじみの洸太が言った。
大学が終わり、まだ日も高い。こんな田舎の雪国じゃ出来ることも行ける場所も限られている。
「スキー?スノボ?」
「かまくら」
「えー!小学生かっ」
「童心に帰ろうぜ?」
「まーいーけど」
この町はとても小さい。コウタは幼なじみだけど、同世代の子たちは皆だいたい幼なじみだ。町に比例して、人間関係も狭い。近所のおじちゃんおばちゃんもみーんな顔見知り。隠し事も噂もすぐに知れ渡る。プライバシーはない。
そんなこの町が私は嫌いじゃない。
白い固まりが放物線を描いて私の頭に飛んできた。
バシッ
「いたっ! なにすんのよー冷たいじゃないー」
「わりーわりーなんか考え事してっからさ?もっと俺に構えよ~」
コウタはニヤニヤ笑っているはずなのに、顔が整っているせいか爽やかな笑顔にしか見えない。
なんかムカつく。
「意味わかんない」
だから冷たくあしらっておく。
「冷たいねーくいなちゃんは。この雪みたいだ」
そう言ってかまくらから少し雪を掴む。
「ちょ、壊さないでよね」
「これくらいじゃ壊れないっての」
ドサドサドサ
何て言った瞬間に崩れて壊れた。
「あーだから言ったのに!」
「やっちまったな」
「あんたがね」
流行りを過ぎた芸人の似てない物真似でごまかすコウタに若干の苛立ちを覚えつつも諦めてかまくらだったものの上に寝転ぶ。
「あーあーもうぐしゃぐしゃだな」
爽やかに笑いながら私の横に並ぶ。
「まっしろ、だぁ」
「ほんと、だな」
わざと間のあいた喋り方をすればその真似をするコウタ。ほのかに笑ってる顔を横目に見た。
好きだな、なんて。
視線を外して上体を起こす。
当たりは何もかも、木も山も家も、全部まっしろで。それはとても見慣れたもので。
ただぼーっと見ていた。
「え、?」
見ていたはず、なのに
急に世界が黒くなった。
「キスの時くらい、目、つぶれよな」
「は、」
そういって悪戯が成功した子供みたいに笑って、何が起きたかわからない私に言った。
え?ちょ、今、何!?ええわかんないえ?え?
雪を、見てたら、視界が暗くなって、唇がなんかふにってして暖かくて、気がついたらコウタの顔がすごく近くて、キスの時は目をつぶれって……
「キス!? したの!?なんで?えっ今、した!?」
「うん、した」
「なんで!!」
「好きだから。
ずっと、好きだった」
純白を染めた黒は、あなただった。
「お前は?」
「……………………私も、好きだよ」
END