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第二話 出会いました。・・・(人外だと!?)  (下)

 予定通りに上げれなくて申し訳ありません。

 懲りずに読んで頂けるとありがたいです。

 第二話 出会いました。・・・(人外だと!?) (下)


 階下へと降りゆく二人の背中を見守りながら、俺も少し気を引き締める。

 既にこちらへの意識は無く、彼女達の中ではいつもの様にスイッチが切り替わったみたいだった。

 階段を下りた場所には広々とした石畳の広場があり、等間隔で並び立つ門弟たちが騒ぐことなく静かに彼ら二人を待っていた。その数は六〇人に上る。

 横六列、縦一〇列に並んだ彼らの姿はいつみても壮観だ。

 両腕と両足に黒色の皮を巻きつけており、皆が皆、底の薄い平べったい靴を履いている。又、 男女比はおよそ半分づつ、全員がほぼ同年代成人前の子供達で占められている。

 他にも成人後の門弟たちがいるのだが、基本、別の場所で訓練をしているらしく、俺はまだ見たことがない。

 俺は石段を降りて行く二人の姿をしっかりと両目で焼き付けるべく、車の中で身じろぎをし、一度態勢を整えた。

 それから、両手を縁に乗せて立ち上がり、少し見えやすい様に身を乗り出した。

 その時だ。


 ―――ぐらりっ。と動くはずの無い車が揺れ動く。

 俺はびっくりして縁に着いた手を離してしまい、そのままストンと座ってしまった。

 反動で、再び揺れる押し車。

 

 えぇ~とぉ~・・・・・・。


 背中に一筋、冷たい嫌~な汗がとろりと流れ落ちる。

 うん。ものすっごく嫌な予感しかしない・・・・。

 ドキドキしながら、今度はゆっくりとした動きで立ち上がります。

 そして、恐る恐る車の側面から下を覗き込む。

 ははは・・・・・。

 ないね。どこにも・・・・・。

 ――――ブレーキ代わりの角材が。

 いつもならちゃんとこの位置から見えるんですよ!!

 なのに、今は影も形もありません。


 ・・・・・おいッ!?姉よッ!?


 階下の広場で右向きに整列し、身体を順序立てて解し始めた集団の両端に移動した姉と志漣に、首だけを何とか伸ばしながら、抗議の視線を送ってみる俺。

 しかしながら、俺の視線に気づくわけがないのである。

 さて、ど~するよ・・・・。

 後ろを振り返り秀麗さんの姿を探すも、あいにく席を外しているらしい。おまけに人っ子一人いやしない。


 ありえねぇ~。幼児一人残していくかー!?普通―!?


 はぁ~。

 仕方がないので、そろ~と腰を床に降ろし、両手を離す。

 その際、振動で動き出さないように神経を張り巡らせる。

 緊張して固くなった身体をなんとか座布団の上へと置いた後、俺はもう一度、深く息を吐き出した。


 ふぅ~~~~~~~~・・・・・・・・・。


 落ち着け~落ち着け~・・・・。大丈夫。大丈夫だぞ~、俺。


 自分で自分に言い聞かせながら頭の中で状況を整理する。

 説明しよう。現在、俺の置かれた位置は非常に危険であり不味い。


 メイディ、メイディ!!


 ロックアラートが鳴りっ放しで、画面が全てが真っ赤であった。。

 イメージ的に・・・・。


 一つ。車の位置は階段の端から二メートル前後の場所にある。

 二つ。二メートル先は二十数段の急な石段。高低差約5メートル。

 三つ。ここは石畳。雨が降っても水溜りが出来ないように、微妙になだらかな傾斜がついている。又、石畳の間には水はけを考慮した窪みがある。

 四つ。但し、一度動き出した車を止められる程ではない。


 下まで落ちたら、マジでシャレにならんなぁ~。っていうか・・・・。怪我で済むか?

 普通に死ねるね、俺。転生後、一年で事故死?

 ――――笑えねぇ~・・・・。

 

 身体がもう少し成長していれば、飛び降りるなんて真似も出来るのだろうが。

 今の俺じゃ、絶対に無理だしな~。

 は~・・・・・。と二度目の息を盛大に吐き出し、溜息を付く。

 このままジッとして待つってのも考えるのだが。

 今はまだ始まったばかりだから、終わるのは約二時間後。

 泣いて助けを呼んでみる?・・・それしかない?

 自問自答は最小限に。

 正直、なさけないけど、背に腹は代えられない。

 仕方ないか。と考え、思わず天を仰ぐ――――それがいけなった・・・・。

 反り返った背筋に頭が振れる。

 幼児の身体は大抵、頭の方が重いのだ。そのことを俺は今更ながらに思い出す。

後方へ倒れ行く身体。支えようと両手をバタつかせるも、縁にはあと一歩届かず。

 

 ぼすんっ。

 鈍い音と共に背中らか倒れる俺。

 ううぅ・・・。やってしまった・・・・。


 鈍い痛みに涙目になる。と、同時に全身に鳥肌が総毛立ち、危険信号が波となって押し寄せる。

 衝撃が一際、大き車を揺らす。

 じわりじわり。と車輪が回る。奈落の底へゆっくりと・・・。

 それはまるで、ジェットコースターに乗った時の巻き上げられる感覚。落下までの間に感じる焦燥感と似て非なるモノ。

 なぜなら、この場にレールは敷かれていないのだから・・・・。


 ガタンッ!


 と、窪みに落ちる車輪の音がやけに大きく耳に響く。

 窪みをすぐに乗り上げて、徐々に、じわりじわりと動き出す。

 一つ、二つ、三つ目の石畳を乗り越える。


 確か、石畳五つ分だったよな~。階段まで・・・・・。

 思い出さなくてもいい余計な記憶が浮かび上がる。

 先程まで泣いて助けを求めようと考えていたものの、いざ動き出すとその恐怖からか、出なくなる声。そんな自分に焦る俺。


 誰かっ!!助けてくださいっ!?


 恥も外聞もなく、ひたすらにタダ、願い。俺は声なき声を上げた。


「うううううっ!」


 ようやく絞り出せたのは言葉にならぬうめき声。

 前輪が五つ目の石畳を乗り上げた。足先から一瞬で頭の髪の毛の先まで駆け抜ける浮遊感。睾丸が締まりチビリそうになる。前輪が宙に浮いた。流れ落ちる滝をスローモーションで体感するような感覚。後輪が滑り、角度が変わる。ずり落ちる身体。突っ張るも届かぬ手足。


 もうダメぇ―――――――――――――!!!


 目頭に涙が溜まる。俺は唇をギュっと噛み締めて力いっぱい瞳を閉じた。


ガッ。


ピタリッ。―――静止する時間。


 襲い掛かる浮遊感と落下への恐怖。その先の衝撃を想像し、身を固く弓なりに引き絞っていた俺。やってくるはずのものが来ないことに気付く。

 あれ!?

 恐々と片目からそ~っと瞼を開いてみる。

 空が見えた。と同時に目頭に溜まっていた涙が流れ落ち、視界が霞む。


「ううぅ」


 両手で身体を支え、クルリと回転。四つん這いになった。

 動かぬ車にほっと一息。

 あれぇ~~??ビクビクしながら両目を瞬く。

 未だ状況を掴めない俺を乗せた車が、ゆっくりと後方へと下がって行く。後ろで誰かが捕まえてくれたのか。その人は極力、車を揺らさないように注意して引いてくれているようだ。そのことに気付き、感謝しつつも、戸惑いと混乱が先を行く。

 心臓がバクバクいってるし・・・・。

 ようやく車が止まり動かなくなった。

 ついで、首筋にかかる力と生暖かい湿った風。助けてくれた誰かが俺の襟を持ち上げて行く。緊張から力尽き、放心していた俺はされるがままに身を任す。

 安定した石畳の上へと降ろされる俺。


 助かった?・・・ホントに?・・・はぁ~~~~~~。

 安堵と共に、腰から力が抜け落ちる。


『やれやれじゃったな』


 ほんとだよ。


『怪我は無いかや?』


 んっ。大丈夫。問題ない。―――でもな~・・・・。


『なんじゃ?』


 ちょっとチビッた・・・。


『くくく・・・。それはすまぬの』


 笑うなよ・・・。怖かったんだぞ、すっごく。―――っていうか・・・・誰?


 頭に直接、語りかけてきた声に誘われるように普通に話をしていたが、ふと我に返り身体を起こす。少しふらふらとよろけたものの、身体を縁を掴んだ手で支えると、俺は声の主に振り返った。

 そこにいたのは―――大きくてモフモフな何か・・・・。

 最初に視界に入ってきたのは、陽光を浴び、熱のこもった暖かそうな黄金の毛並。心地よく柔らかそうな壁がそこにはあった。

 これが生き物であるのは明白で、胸の鼓動に合わせて波を打っている。

 日差しを遮るように佇む姿を見上げてみるも視界に入るのは毛並のみ。

 そんな俺を見かねたのか、それが動くと頭が降りてきた。

 そして、真正面から互いの視線が交わる。

 面長な顔に鳶色に赤く光る獣の瞳。確かな知性と威厳を感じる。圧倒的な生命力。

 その瞳に魅入られて、しばし互いに見つめ合う。


『誰?とは、わしに聞いておるのかや?』

 

 黄金の毛並。縦にはしる黒い波のような模様。巨大な体躯、躍動する強靭な生命力を放つ虎がそこにいた。

 地面に蹲って腹ばいになりながら首を傾げる虎ってさ、案外、可愛いく見えるもなんだね。

 そんな感想を抱きながら見つめる俺に、彼?彼女は穏やかな口調で話しかけてきた。


 わし?わし以外に誰かいんの? ・・・・ってか。しゃべってる!?マジで?


『いいや。言葉は発しておらぬよ。現に口は動いてなかろう?』


 確かにその通り。言葉は確かに届くが口元に変化はない。

 つまりは思念。ジョウリとの会話の状況を思い出しながら、頭の中を整理してゆく。

 そして、そういえば・・・・。と、思い出す。

 ゲームの中でもそういうやりとりがあったな~と。


『どうした?まだ落ち着かぬか?』


 心配そうに顔を近づけながら鼻を蠢かせる虎。

 鼻息が直に風となって届く距離で。

 

 近!?違うから放れい!?


 首を振り、否定しながら思念を送る。

 その声に、すまんすまんと、ゆっくりと少しだけ距離をおく虎。

 どうやら、この会話を成立させるには相手への伝える意思が必要なようだ。

 

 虎さん。助けてくれて、どうもありがとうございました。


 両手を着いて頭を下げようかと考えたものの、そうすると再び身体を起こすのは苦労する為、頭だけを虎に向かって下げた。正直それだけでもバランスを崩しそうになるのだから、仕方がない。

 幼児は大変なのだよ・・・・。いや、ホント。


 感謝の気持ちを伝える俺に、大きく一度、瞳を見開いたのち、緩やかに細めて(ほころ)ぶ虎。

 どうやら、俺の態度が予想外だったようだ。


『ふむ。重畳(ちょうじょう)じゃ。―――そなたの叫びが聞こえたものでな。礼を言われるまでもない。無事で何よりじゃったな』


 そう語る瞳がより一層、優しく綻んだ。

 その体躯の後ろでは大きな尻尾が優雅に扇の様に(ひるがえ)り、揺れている。


『しかし・・・・』


 何か言いかけて、辞める虎。

 ん?なんだ?


『―――そなたはわしが怖くはないのかや?・・・・恐れを抱く気配もなく。ごく、自然なにわしと言葉を交わしておるが・・・』


 怖い?―――確かに、そういえば怖くないね~、全然・・・。なんでだろ?

 ん~~。助けてもらったし、ほっとしたし、綺麗だな~とか、モフモフしたいな~とかは思うけどさ。怖がる要素が無いからじゃない?

 あっ、でも。驚いてはいるよ。


『ほう。冷静じゃな。・・・して、どのように?』


 いやさ、こんなに大きな虎を間近で見た経験なんて無かったし。生まれて初めてだな~とか・・・。


『くくく・・・・。生まれて初めての経験か・・・。確かに。それは、そうであろう』


 俺の答えに面白そうに返す虎。

 あぁ~・・・・。しまった。


 って、今更か~・・・・・。


『くくく。ふむ。そのとおり、今更じゃな』


 楽しそうに笑うその声に、俺は隠すことを諦める。

 誤魔化せる状況は既になく。溜息一つ吐きながら・・・・。

 ―――開き直ったと言える。


 気付いてた? 俺は言葉少なに問いかけた。


『無論じゃ。―――初めからの』


 得意げに身体を起こし胸を張る虎。


『それにの。・・・・そなたが真面(まとも)な赤子であれば、わっちの姿を目にしたとしても、それがなんであるのかも理解は出来ぬ。せいぜい呆けるか、盛大に泣き喚くかどちらかじゃ。―――そなたの姉がそうであったようにの・・・』


 くくく。と笑う虎。その時の様子を思い出してでもいるのだろう。ここへきて初めて口元に笑みが浮かぶ。


 そうなの?


『うむ・・・・。それにの。・・・わしとこのように思念での会話が成立している時点で真面であるはずもなく。また、一歳を超えたあたりの幼子の発想ではない。いくらなんでもさすがに気付く。不自然・・・いや。はっきり申すなら異常じゃな』


 だろうね・・・・。俺でも立場が逆ならそう思うよ。


『じゃな。―――本来正当な赤子で在れば未だ言葉を理解せず、返事など返せず、本能と好奇心で動くのみ。にもかかわらず、そなたはわしと躊躇なく会話をし、同時に思考しておる。―――わしを見て、瞬時に虎だと認識した上での』


『わしも。最初は、そなたの中には燐仙の血が色濃く流れておる故、その影響かと思いはしたが。―――聡いだけでこうはならぬ。説明がつかぬからの・・・。して、そなた』


『―――中身は何じゃ?』


 当然の事とはいえ、確信を突かれると言葉に困る。

 どう説明すれば良いのか解らないからだ。

 正直、嘘を付く気はないんだけど。


『何を迷う?ありのまま話せばよかろう』


 言葉を返せず、悩む俺の上から降る言葉。

 気付かぬうちに俯いてしまっていた顔を上げてみれば、そこには優しい空気と穏やかな笑みを浮かべながら、こちらの回答を待つ虎がいる。

 そしてもう一度、同じ言葉を口にする。

『今更じゃぞ』と・・・。


 その通りだと。苦笑する俺。


『燐仙の他に、わしと思念が通じ合える相手は、人の身に置いてはそなた以外にここへはおらぬ。・・・そなたが誰にも言ってくれるなと申せば、燐仙にも伝えようとは思わぬ・・・・それでも、駄目かや?』


 ダメじゃない・・・・。ただ、どう説明すればいいのか・・・・。


『聡いと思うたが・・・。そなたは阿呆なのか?』


 キョトンとして首を傾げる俺に、呆れた様に息を吐き出しながら虎が言う。


『説明に正解など無いのじゃぞ。先程も申したであろう?――ただ、あるがままに語ればよい。・・・それを何故、悩む?なにか言いよどまなくてはならぬ制約でもあるのかや?』


 あぁ~・・・・・。確に・・・。何してんだろ、俺・・・・。 

 言われてみて初めて気付いた。悩む必要なんてないじゃん。何してんの?俺。

 

 んじゃ、とりあえず、最初から話す。・・・・・っと。その前に・・・。燐仙って誰?

 お母さん?


『そうじゃよ。燐仙とは梢燐の俗称。―――緋燕。言わずと知れたそなたの母よ。女仙じゃぞ、あれは。・・・・わしとあれは語るも長い腐れ縁じゃしの』


 へ~。そうなんだ。・・・・確かに、普通の雰囲気じゃなかったし、なんかこっちのこと気付いていたみたいだったし。なんか、納得。

 って・・・。なんで名前知ってんの?


『ん?当たり前であろう。そなたの名を決める時。わしも共に思案したからの~』


 得意げに、ふふん。と鼻を鳴らす虎。吃驚(びっくり)である。

 俺はひとまず身体の向きを変えると、階下へと目を向けた。

 今は志漣の掛け声に合わせて、皆、同時に上段への蹴りを繰り返し行っている。

 まだまだ続くことを確認してから、俺は再び虎へと向き直った。


 話。少し、長くなるけど構わないかな?


 そう前置きをした俺に、『少し待て』と言って押し車を脇へどけると、俺を中 心とし包み込むように丸くなる虎。どうやら、風除けと枕代わりになってくれるらしい。

 ぽふんっ。と日向の様に暖かな体毛に背中を沈め、フワフワの感触に全身の力を抜いて、身を任せる。

 先程まで、頭上の太陽が直接、頭に当たっていたのだが。いつの間にか気付かぬ間に先程の傘が日差しを遮る位置に用意されていた。

 そのことに疑問を感じるも、さしあたり急ぐことでもなく。

俺は一度眼を閉じて、心を落ち着かせてから開き。そして語り出す。

 

 じゃあ、改めて。―――俺の名前は鳳緋燕。鳳陽晃と鳳梢燐の息子。ただ、虎さんが気付いていたように、俺は、普通の子供じゃない。輪廻転生って言えば解るかな?


『無論。輪廻の輪。あの世の摂理じゃな』


 そう。っでね。ここからが本題。・・・俺の中にはこの世界へ生まれる以前の記憶。前世で得た知識や経験、そこで形成された人格や性格、格となるモノが残ったままなんだ。


『転生時に消えることなくか?・・・珍しいこともあるものよの』


 そうだね。前世での俺はこの世界とは別の世界で生まれ。そして死んだ。

 でも、肝心なのはそこじゃない。

 ようはその後。死んでからこの世界へ転生するまでの間にも話がある。


『!?・・・。死後の話じゃと?』


 そう。続きがある。


 興味を抱き、食い入るようにこちらを見詰める虎に対し、俺はジョウリとの契約の話をする。この世界が俺の生きた世界ではある種の物語として語られていたことも、包み隠さずに全て・・・。


 物語の神様はさ、俺に外史を渡る機会をくれた。だから俺は与えられた機会を絶対に無駄にしないように、第二の人生を歩くことにしたんだ。

 それで、一生懸命精一杯生き抜いて、やり切ったら・・・・聞こうと思ってんだ。

『どうだ。楽しめたか?』ってね。

 

 見た目や名前は変わったけれど、俺は俺のまま、この世界を悔いることなく全力で生きるのだと。そう決めたのだと。

 ―――この虎に伝える。


 とまぁ~。そういう訳で・・・・。絶賛、転生人生、邁進中で一年目ってことなんだが・・・・・・。

 信じられる?


 全てを語り終えた俺は静かに虎の返事を待つ。


『確かにの。正直、俄かには信じ難い・・・。信じ難い話ではあるが・・・。わしは人の放つ言葉の(まこと)を見抜く力を持つ故。その力が言うておる。そなたの語りに、嘘偽りなしと』


『くくく。現にそなたはここに居る。それが答えで在ろう』


 面白そう。そう言葉の端々に含ませながら、頷き返す虎。


『して、緋燕。そなたはこれより如何(いかが)する気か?』


 ん~・・・・。如何する?って言われてもな。どうするかなんて考えてないよ。今の自分に何が出来るか、どんな才があるのか解らないし。・・・取り合えず、この世界をより知る為に、学ぶこと。これから始まる動乱と戦乱を生き抜く為に身体を徹底的に鍛えること。

 そして、自分や自分の周りの人達。手の届く範囲の者達を守り、救えるだけの力を手に入れる。もちろん、一人で出来る事なんか知れてるからさ、力を貸してくれて共に生きていける仲間を見つける。今、出来ることは全てやる。そんなところかな。


『そうじゃな。そなたは聡い故、理解しておろうが。如何にこの世を物語として知っていたとしても、それはあくまでこの世界の一面に過ぎぬ。引き出しの一つぐらいに考えておけば良かろう』


『・・・・それに、今のそなたは一人では何も出来ぬ幼子よ。吹けば飛び、落ちれば容易く死に至る』


 先程の事を言っているのだろう。その通りだから頷くしかない。


『そこでじゃ。―――さしあたり。・・・・そなた、わしが欲しくはないかや?』


 それは唐突な言葉。


『くくく。そう不思議そうな顔をするでない。先に己で語っておったではないか。そなたは額面では既にこの世の事を捉えておる。が、生憎、この世は害のない書物でもなければ口伝の語りでもない。―――これより先は奪い奪われ、獲り獲られ、世は更なる混沌と動乱の乱世。理不尽と不条理の連鎖となろう。その時。必要であるのだろう?・・・力が』


 それはその通りなのだが・・・。


『構わぬよ。そなたが梢燐の子として生を受けたのも。そこへ偶々(たまたま)、わしが居たのも。この出会いもまた、一つの縁。世に偶然などと言う言葉はない。あるのは全て必然じゃ。己が言動やそこから派生する物事を含め。背負うべき覚悟や決めるべき決断。その全てからなる必然。それが、今生での生。今のそなたをつくり上げておる。・・・わしがそれを認めた。だから、力を貸す。それだけのこと。・・・・それともわしでは不服かの?』


 正直な話。彼女(・・)が俺の力になってくれるのは、悪い話ではない。むしろ、有り難すぎるぐらいの話だった。

 でも、なんなんだろな・・・。

 なんかこう。しっくりこない。素直に喜べない。モヤモヤっとした気持ちが胸中で渦を巻いている。

 そんな気持ちを抱きながら、俺は彼女に問いかける。


 名前・・・。


『ん?』


 虎さんの名前。―――まだ、聞いてない。


『くくく。そなたは既に気付いておろう?・・・・わしが、わしら(・・・)が何であるか、その名も含めて』


 確かに、一つの予想は既にある。でも、聞きたい。

 君が・・・。君達が誰なのか(・・・・・・・)を聞かせて欲しい。


『・・・よかろう。我は天と陽と司る虎族の双王が一柱。故に我と対を為す我が妹は大地と陰を司る者。我ら二対一刀の双剣にして万夫(ばんぷ)不当(ふとう)一騎(いっき)当国(とうごく)の神獣―――我の名を干蒋(かんしょう)と申す・・・・以後、宜しくの主殿(あるじどの)


『同じく。地と陰と虎族の双王。名を(ばく)()と申します。幾久しく宜しくお願いしますね。緋燕様』


 黄金の虎の向こう側から、落ち着いた声と共に姿を現す白銀の虎。


 干蒋に獏夜。中国の古事に出てくる黒と白。双極、二対一刀の双剣の名を冠する二人。

 三国百花に出てくるキャラの中でも最強の双子がそこにいた。


 干蒋。天を穿つ牙。一騎当国。即ち、一騎にして一国の戦力に相当する者。

 獏夜。地を制す地異。万夫不当。即ち、万を超える者に匹敵する力を持つ者。


『―――それともう一つ。人化時の私の名は。・・・春麗(・・)と申します。緋燕様』


 俺の頬を軽く一舐めした白銀の虎から、満面の笑みを込めた意思が送られて来た。


 え~~~~!?

 さすがに驚いた俺は悪くない。


 いきなり手にしたその力。本来ならばこの世界へやってきた主人公の傍らに立ち、追随する者達。彼らを仲間とする。それはいい。

 死ぬ確率が減るだろうから。でもな。やっぱり思うのよ。

 俺でいいのか?って・・・・。

 ジョウリは何て言った。

 手にした力が大きければ大きいほど、その世界で課せられるものも又、大きくなる。

 そう言っていたから・・・。

 だから俺は・・・。


『緋燕様。・・・見合う者になれば良いのですよ』


 獏夜の優しさと諭すような声に顔を上げる。俺はまた、俯き考えて込んでいたようだ。


『主。・・・主は何じゃ?』


『主は赤子であろう?・・・これから如何にする?わしはそう聞いたな?―――主には時間があるのじゃぞ。今ではなく。これからの・・・・。ならばただ、主の好きな様に進めばよい。主の背中は我らで守ろう。それを重荷と感ずるなら、それに見合う者で()れ。―――我らの主で在ることを卑下する必要すらない程にの・・・』


『主がそうあろうとする限り、我らは常に主の傍らにいよう』


 優しくも暖かく厳しくも優雅に、紡がれる言葉。意思を込めて。

今、ここで腹を括れと。


『緋燕様。我らは剣にして盾。守るべき者達にとっては安らぎを与える盾であり、闘うべき相手にとっては恐れるべき剣となりましょう。この世に置いてはそれらの力、双方の力を持つことこそが肝心。その力。どの様に(ふる)うかは緋燕様次第にございます』


 与えられたその力、どう揮うかは己次第。

 この世界における可能性は無限大。

 なら、選ぶべきはただ一つ。


 宜しくお願いします。


 心の底から思いを込めて。二人に託し頭を下げる。

 逃げないように。・・・自分からは絶対に。

 この世界で生き抜くのだと。そう決めたはず。

 なら、差し出されたその手を取らないわけにはいかない。

 迷うと思う。悩むと思う。背負うことが辛くなることもあると思う。

 それでも俺は、前に進むことを止めることはないのだから。


『決まりじゃな』

『決まりですね』


 二人の言葉に力が抜ける。

 身体が自然と傾き、干蒋のふわふわの身体により一層、背中が沈む。

 緊張の糸がぷつりと切れたような、そんな感じ。

 緩やかな眠気と倦怠感が昇ってくる。


 ふぁ~~~。と一つ大あくび。


『あらあら』

『ふふ。ちと、長すぎたか』

『興が過ぎましたね姉上』

『ふむ。致し方あるまい。・・・まっ、これからじゃろう』

『・・・・・・』


 彼女たちの声も遠くなり、再び、微睡む。



 夢を見ていた。夢の中で、会話が響く。


『梢燐・・・・・。聞いておったの』


 干蒋の声が聞こえる。


「うむ。しっかりと聞かせてもらったよ。すまなかった。干蒋。許すがよい」


 そこへ重なる母の声。


『な~に、構わぬよ。わしもこの子には興味を持って負ったからの・・・。―――しかし、の』


「―――そうよな。・・・全く。予想の上を行く。―――ほんに、とんでもないものを背負うておったのだな。うちの子は」


『全くです。ジョウリと申しましたか・・・。緋燕様をあなたの元へ送り込んだ神は・・・。―――輪廻の枠の外側からこの世に放り込むとは、彼の天帝でさえ力及ばぬことを・・・』


 獏夜の声。静かで冷静な怒りを含む氷の刃。


「しかも。無限に広がる幾千万の外史とはの。・・・それでは未来永劫、この子が諦めぬ限り、永遠に続く責め苦ではないかえ。――――干蒋、それに獏夜よ」


「妾は、そのジョウリとか申す神に本気で喧嘩を売りとうなったぞ。―――それは契約ではない。・・・・永劫と忌むべき呪縛ではないか!?」


『わしもじゃ。届くなら、彼の者の喉笛を食い破ってやりたい気分じゃ』

 

『ですが・・・。緋燕様はそれを望んではおられません。むしろ感謝の念さえ抱いておられます。その』


「妾の子として生まれて来たのも。流石に、ジョウリとやらの力ではあるまい。これは天の采配か・・・・。ふふふ、よかろう。ならば干蒋、獏夜。妾は決めたぞ。この子には妾の持つ全ての力を授けようと思う。この世での生を全うした後にも続く礎となるべきものをの。―――二人とも協力いたせ」


『くくく。構わぬ、もとよりそのつもりじゃ、わしも主の為に最善を尽くそう』


『くすくすくす。・・・喜んで』


 これは夢の中の会話の筈。

 なのに何故か。


 背筋に一つ、震えを感じた俺がいた。


 これからもがんばります。

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