プロローグ 死して後、契約からの転生
少々、長めのプロローグ。
これが無いと始まらないので、最後まで読んで頂けると幸いです。
よろしくお願いします。
プロローグ
その日。この俺、西京纏の人生は十九年という歳月で幕を閉じた。・・・らしい。
らしいというのは、本音を言えばあまり実感が無いからだ。なぜなら、気が付けば死んだはずの俺の意識はまだあるし、考える力も残っているからだ。
死んだんだ。ということの認識。理解も出来ている。
これまでがどんな人生だったのかもハッキリと鮮明に思い出せる。
俺はこれまで禄でもない人生を歩いて来たと自覚している。
ただ、そんな一生であったことを、後悔していない俺がいる。むしろ、スッキリとした感さえある。
それは、誰に何を言われようが、俺という存在。自分自身を貫いて生きてきたからだ。
常に起こる出来事を受け止めて、前を向くことを忘れなかった。
そうしなければ生き残れなかった。という現実も俺の人格を形成する上で重要なファクターだったのだと。
今に至ればそう思える。
正しいと信じたことを正しいと言って何が悪い?白を白。黒を黒と言って何が悪い?
君には協調性が無いだの、世間を知らなさ過ぎるだの、お前は間違っているだのと、余計なお世話だっ!テメーの価値観で俺を図って押し付けるなっ!って考えてた。
そいつらの中には、『自分を変えれば世界が変わる』だのと体の良い台詞を向けてくるやつもいた訳で・・・。
己が自分を体現した上で己自身の言葉で語ってくれるならいざ知らず。何も考えずに表面をなでるだけで理解した気になり。誰かが語ったその言葉を、さも己の考えであるかのように語るそいつらに、俺はキレたのだ。
『ふざけんなッ!っんなもん!テメェーの言葉を曲げずに貫いて、テメェー自身を認めさせる努力して、テメェーの周りの世界を変えてゆく!そんな人間の言葉だっ!・・・テメェーの出来ない理由を肯定する為に使ってんじゃねぇー!』って吠えたっけか・・・。
まぁ、そん時は感情に任せた若気の至りってのもあったとは思う。
けれども。少なくとも、考えて考えて考え抜いて。それでも自分は間違っていないと思うなら、その道を進んで行けばいい。それを笑う誰かがいるのなら、笑い返せばいい。
幾度も足蹴にされて、幾度も『無理だ。お前には出来ない』何度そう言われても。
彼ら彼女らの言うとおりに、諦めてやる義理はないんだよ。
だってな。諦めちまったらそこで終わりだろ?『それみたことか』そう言われ、笑われるだけじゃねーか。
『自分が変われば世界が変わる』
その言葉の本当の意味は、自分を変えることで世界に合わすことじゃない。
それは世界に向かって喧嘩を売る勇気を持つこと。
それは自分の気持ちに正直に、自分で自分を偽らないこと。
『仕方がないから…。しょうがないから…』
そんな言葉で誤魔化さないこと。
そして、誰かの所為にしないこと。
だからあの時。俺は本気の怒りを覚えた。
言葉の重み。本当の意味を理解せずに軽々しくも放ったやつらに・・・。
やるなら真正面から胸を張って行動しやがれ!
これが俺だっ!文句あるかっ!って。
だから何だ・・・。そんな俺だったからか、理解されたことよりも、理解されないことが多かった。でも、まだまだ変えられる。時間はあるのだから。そう思っていた。
だから正直。悔いがある。後悔はしていないが・・・。
今、俺の中で燻ぶっている一番の悔いは、理解してくれた者達へ何一つ返せずに終わってしまったことだったりする。
俺自身のことは自分で決断して行動した結果だから。人任せでなかったぶん。良かったと思う。もっとも、その結果とやらが自分の死に直結することになろうとは思いもよらなかったが・・・。
そう思い。考えながら苦笑する。
―――これは『しょ~がない』で済ましても良いものなのだろうか?と・・・。
『あの~~。随分と込み入った内容を思考中のところ、大変、申し訳ないのですが・・・・・・。そろそろ宜しいでしょうか?』
思考の海に埋没していた俺に語りかけてくる者がいる。その声は何故か、もの凄く恐縮しているように、遠慮がちであった。
「宜しい。って何が?」
特に考えることもなく返答してから、自分の声が出たことにまず驚く。そして、声の主の姿を捉えようと瞼が自然と持ち上がり、視界が開けたことにも驚く。
そこに己の身があったのだから。生きていた時の感覚。死ぬ前と変わらぬ五体の感触があった。両の手を握ったり開放したりを数回、繰り返し。顔を上げる。
視界に映るもの。そこはただ、何もない真っ白な空間だった。
自分が今、立っていると認識しているこの場所。そこが地面なのかそれすらも怪しい。上も下もわからない。三六〇度。見渡す限り何も無い。
ただ、己が在るのみ。そのことに焦りや不快感もない。寧ろ居心地の良ささえ感じる。
これが死後の世界というものなのか?
『いいえ。厳密には違いますよ』
再び聞こえる。何者かの声、心静かに言葉を紡ぐ。
声を発するというより、直に意思を伝える。その為に俺に合わせて話すという工程を挟んでいる。そんな感じだ。
『そうです。遇えて言葉を発する必要はありません。ただ、こうした方がより意思が伝わり易いと判断いたしましたので』
確かにその通りだ。
『さて、それでは簡単にご説明させていただきますと。―――まず。私はこの世界
そのものであり。そして、あなたの身体と精神を再構築したのも私です。そのことをご理解ください』
その言葉に。・・・これが夢ではなく現実の現象であるのだと、唐突に理解する。
とどのつまり・・・。
あんたは所謂ところの神。ってことでいいんだよな。
『ええ。かまいません。私は物語の神。語り部のジョウリと申します。以後、宜しく』
そう答える神。ジョウリ。
確かに言葉にせずとも考えたことが筒抜けになるようだ。つまりは、この場に嘘は全く含まれず。心の本音が伝わる。駆け引きなど無意味。そういうことだな。
俺がそう理解すると。神とやらはホンの少し微笑んだ。そんな雰囲気を感じた。
それで・・・。
『――単刀直入に申し上げます。西京纏さん。既にお気づきかと思いますが、あなた人生は先ごろ終わりを迎えました。天に召されたわけですね』
ただありのままの事実。逃れられない現実を突き付けてくるジョウリ。
ジョウリのその言葉は、俺に納得と受け入れの感情を芽生えさせた。と同時に思考が冷静に冴えわたり、俺の心に余裕が生まれる。
『ありがとうございます。ですが、今現在、あなたには二つの選択肢があります』
選択肢?
『そう。選択肢です。・・・このままの死を受け入れ、輪廻転生の輪の中に加わり、次なる生を待つという選択。そしてもう一つは再生です。人生を一からやり直す機会があなたにはあるのです。ですがそれは、これまであなたが歩んで来た世界ではありません。別の空間、別の次元。こことは異なる時間軸でのお話です。あなたは、幾千万の外史を歩んでゆく覚悟はありますか?』
そう言われてもな。正直、具体的なイメージがわかないのだが・・・。
質問。外史ってのはなんだ?
『外史とは物語の中にある無限に広がる可能性。人などの思考を有する存在が思い描く幾多の物語。それにはもともとの根幹として存在する世界がありますが、その選択肢には限りが無く。無限大の可能性の世界。それが外史です』
無限の世界ね・・・。っんで。それはあれか?・・・他の人間も同じなのか?・・・。
『いいえ。本来ならば、通常どおりお亡くなりになられた方々に、そのような選択肢を選ぶ権利は用意されてはおりません。他の方々は生きている間に何を為したかにも因りますが。基本、輪廻の輪の中へと入って頂いております。又、稀に輪廻の輪より己の意思で外れる方々もいらっしゃいますが、その者達は所謂、神話や伝説に語られる方々のみですね』
生まれ変わった場合、記憶した経験や知識はどうなる?
『それらは次に生まれ行く際には全て、削除されます。それは転生するための糧。代償とでも申しましょうか。それに関しては時に残滓という形で残る場合もありますが。それも何億何千万人に一人か二人。こちらでは許容範囲内とされております。ただ、あなたの場合、そこへ選択肢がある。そういうことですよ。ですから残すも残さないもご自由に』
俺に選択肢が与えられた理由は何故?特別視される覚えは無いのだが・・・。
『―――選ばれたからですよ。あなたが・・・。それでは簡単にご説明いたしましょう』
そう言うとジョウリは言葉に間を持たせる。
『まず、何千億、何千兆、何千京ともいえる魂の中から不幸体質の魂を選別し抜き出し、それをツリーダイヤグラム。――そうですね~。世界に流れる運命の系譜を司る量子コンピュータ。・・・のようなものに載せる。そう考えてください。そして、それはあなたが生きた世界や私が管轄している物語の世界において。魂の質、格。量、位。これら四種の規格に照らします、それらを参考に調査のち精査し、外史を歩くことができる魂を探し出し、その中から更にランダムにて選ぶのです』
それで俺が選ばれた。と・・・。んで、不幸体質な魂から選ぶ理由は?
『強いからです。――魂が・・・。不幸体質であるということは、即ち不幸に強い耐性を持つということ。不幸とは即ち、不条理です。不条理に打ち勝ち、未来を切り開く魂。そのような魂でなければ外史を歩むことなど到底できません。耐えられませんから』
じゃあ、俺ってば。かなり不幸体質だったってことか?
これまでの人生。短かったけど確かにいろいろあったな~と思い返す。
『そうですね~。かなり。どころではなく、極めつけです。どこぞの全ての異能を打ち消す右手の持ち主や局地的人間災害に指定された方ともいい勝負。もとい、ある種、ぶっちぎりで断トツの一位でしたよ♪・・・ご愁傷様です』
ニコヤカ口調・・・。この場合は意思か・・・。で返されても困るのだが・・・。
神にお悔やみされる俺っていったい・・・。どんだけの不幸体質?
そもそも。俺は自分があまり理解されていなかったからと。自分を不幸だと思うこともないのだが・・・・・・。
これまでの人生を改めて振り返ってみるも。
正直。『運が悪かった』その言葉で済ませて良いものなど、何一つ無い。
『あのような人生を送りながら・・・ですか?』
声に交じる驚きと戸惑い。
そんなに驚くようなことか?とおれは思う。
確かに、俺の人生十九年。波乱万丈だったことは認めよう。
普通の子供とはつくづく違っていたのだとも認めよう。
生まれてから五年。両親と二人の姉が事故死した。俺だけが一人。奇跡的に生き残ったとはいえ、孤独と絶望。生と死。一度に訪れたそれを唐突に理解していた。
『これから先。どんなことでも耐えきれるな』と・・・。
五歳の子供の思考じゃねぇーと今更ながら思うのだが・・・。ともかく必死に頭を使ったのを覚えている。
それからしばらくして、親戚に引き取られたのだが。
結論。
両親や姉達の死亡保険金。親の遺産の家などを含め。全部持って行かれた。
あげく、彼らは俺の存在が邪魔になったらしく、施設へと放り込んだ。
施設に入ったら入ったで、落ち着けるかと思いきや。今度は一部のスタッフより虐待という名の手荒い歓迎を受けた。それ以外のスタッフの連中はそんな俺に気づきながらも無関心を装った。なぜなら俺を虐待していた者達が、彼らの世界での強者であったからだ。
そして、そのことに気付くのは大人だけじゃない。
同じ境遇の仲間であるはずの子供達。
純粋である。素直である。だからこそ深く抉る。気づかない。考えない。それが普通だから。当たり前だから。彼らには・・・。ゆえに。
俺を異質だと感じ、排除し、俺への苛めを開始した。
そんな状況下。俺は戦うことより逃げることを選んだ。
自分がここで一番弱く。一番弱者であることを早々に気付いたから・・・。戦う?無理!
そんな力はない。勝ち目など無い。敵前逃亡?だからなんだ。生きたいんだ俺はっ!
自ら脱走を決意する。
絶対に生きる。絶対に強くなる。そして、こいつら全員を超えよう。
そして・・・。絶対にこいつらのようにはならんっ!
そう決意し、行動に移す。
当然、そこから飛び出したところで行く当てがあるはずはなく。公僕から逃げる途中。建設途中で廃棄された地下街を見つけ、そこでの生活を始めた。
ストリートチルドレンとして・・・。
幸いにも、捨てるものがいれば拾うものもいる。路上生活の人達や街中のお店の人達。表では生きていけない人達。無関心ではない。傍観でもない。施しでもなく。同情でもない。必要な時に、己のできる範囲で手を差し伸べてくれた人達。
社会的には底辺と呼ばれる人たち。
中には非合法な職で生活している者も確かにいたし、迷惑を被ったことも確かにある。
だがしかし、彼ら彼女らのおかげで生き残れたことも又、事実だ。
人生の酸いも甘いも経験してきた者達。彼らから学ぶことが多く。俺はただ。文字通り必死になってひたすら生き抜く術を身に着けたものだ。
思い返せば親戚や施設の連中が俺にしてきた仕打ちは腹立たしくあるが、その経験が俺の生きようとする糧となっていたことも、ひどく滑稽に思えてくるから不思議なものだ。
連中がいなければ俺は彼ら彼女に出会うことも無く。
両親や姉達があそこで死ななければ、連中に会うことも無く。
優しいと思っていたはずの親戚連中の本性を見る機会も、無かっただろう。
俺が普通の家庭に生まれ、何不自由なく育っていたら。そこまで必死になっていたか?
否ッ!それはない。―――絶対に、ありえない・・・。
今の俺はここにはいない。
だからこそ断言しよう。
俺は断じて不幸ではなかった。
『―――まったく・・・。あなたという人は・・・』
呆れ。ではなく。半ば諦めながら納得した。といった感じのジョウリ。
だって、そうだし。さらっと答える俺。
『聞かせてください』
ん?
『あなたは。あなた自身がどのような死に様だったのか覚えていますよね』
肯定。もちろん。あの時のことは鮮明に思い出せる。なんせ一番新しい記憶だ。
地震があった。途轍もなく大きな地震が・・・。
そして俺の乗っていた電車が地下鉄のトンネル内で生き埋めになった。
『そうです。その時、あなたは自身の体に大きな傷を負いました。痛みを感じぬ程の・・・。しかし、その時点では助かる希望。生き残る可能性はまだ確かにあった』
『それをあなたは分かっていましたよね?』
まぁ~・・・。なんとなく勘でだったけどね・・・。
『その勘は正しいです。何もしなければ、あなたの命は助かっていましたよ』
マジで?
『マジです。しかし、現実。あなたはその勘を無視した。―――生き残った者達を励まし。怪我人を手当てし。食料や水を集め。トラブルの仲裁を行い。皆が飢えや疲労。病気や怪我に苦しみ、誰もが己のことで精いっぱいのなか。自分の水や食料を減らしてまで他者へ分け与えた。何故ですか?英雄にでもなりたかったとでも?』
『―――そして・・・。気づいていましたか?その中に以前。あなたを傷つけた者。あなたの大切なものを奪っていった者達がいたことを・・・』
淡々と語るその言葉に、俺は苦笑を浮かべ頷き返し。そして答える。
ああ、気づいていたよ。
勿論、気づかないはずが無い・・・。
もっとも、連中は最後まで気づかなかったようだけどな・・・。
まっ。あん時は、気付かれたら気付かれたで、気まずかっただろうし・・・。いいんでないかい。
忙しいのに面倒臭いっしょ。
『何故ですか?復讐を果たす絶好の機会でもあったでしょうに。・・・』
別に、大したことじゃない。ああ、そうだとも。連中を恨んだこともある。それも事実。でも、だからと言って連中に復讐しようなんてことは考えたことも無かった。なぜなら、大嫌いな奴らと同じ者になるのは絶対に嫌だった。ただ、それだけだ。
俺は与えられた環境を嘆き、悲観し、それを言い訳にしたくなかった。
英雄になりたかった?冗談も大概にしろ。寝言は寝て言えと言いたい。
そんなもん。どうでもいい。目の前に困っている人がいた。俺には出来ることがあった。だからした。できることがあるのに何もせず、放置しろと?俺に屑と一緒になれと?
ジョウリの言葉に怒りを覚える。と同時に冷静になる。・・・これはただのやつあたり。
聞いていたんだろ。俺の思い。俺の声。思考を切り替え語り伝える。
俺は俺なのよ。どんな時でも誰に何と言われてもさ。環境が変わろうが、世間の目が冷たくなろうが、関係ぇねぇーのよ。
『・・・・・・・・・。』
ジョウリは俺の回答に沈黙を持って応じた。その沈黙からは静かな納得と受け入れの意思らしきものを感じたので、とりあえず良しとする。
・・・んで。話を戻すようだけど。そんだけ知っているってことはさ。なぁ~・・・・。
本当にランダムに選んだのか?・・・俺のこと・・・・。
『・・・・・・もちろん。・・・当たり前ではないですか。私は嘘をつけませんから』
なんか、答えが返ってくるのが微妙に遅かった気がするのだが・・・。
あれか・・・。嘘はつかないけど。真実も少し織り込みつつ。されど事情があるから、全てを伝える訳はいかないので確信に至らないように巧妙にずらしたってところか・・・。
『えぇ~と・・・。なんでそんなに思考が的確なんです?ホントに十九歳ですか?』
ん。生前の経験。生きてゆくのにそれが必要だったからそうした。そしたらこうなった。
『・・・わかりました。それで、どうしますか?』
言葉の前に溜息が聞こえてきた気がしたが、気のせいだと思うことにする。
―――ん。まぁ、いいさ。行くよ外史。
至極あっさりとそう答える。答えなど最初から決まっている。
『そのようにすぐに決めてしまっても宜しいのですか?・・・考える時間ならたっぷりあます。四半世紀ぐらいなら待ちますよ』
そんなにいらんわっ!・・・だいたい分かってるんだろ?
『ええ。貴方の様に諦めが悪く、どのような絶望的な状況からでも這い上がる。そんな気骨のある方で無いと、普通、お話はいきませんから』
なら、それ以上は愚問っしょ。
『ははは。失礼致しました。それではどのような世界から創めますか?』
それも選べるのか?
『はい。剣や魔法の世界。高度に科学の発達した世界。神話の世界。エトセトラ。こと物語に語られる世界ならば何処へでも。選び放題です。一度行ったことのある同じ世界を繰り返すことにより、異なる結末を迎えることも可能です。ただ一つ。生前の世界だけは絶対に不可能です。ご了承ください』
あいよ。了解。
『あと。行く世界に即した特殊能力・技能をお付けします』
魔法の世界なら魔法。超能力や異能の世界ならそれなりのものを。ってな感じか。
『そうです。もちろん。そういったものが全く介在しない世界もありますが。他にも容姿や性別、生まれる環境など。出来る範囲内でご希望にそうことが可能です』
例えば、魔法の世界に仙術なんかの能力を持って飛び込む。ってこともあり?
『ありですね。両方、混在する世界もありますし・・・。ただ、例の通りですと面倒事や与えられる役割も+αされるものと覚悟して下さいね♪』
・・・随分と楽しそうだな、おい・・・。
『ははは。・・・ご心配なく。何せ先ほど申し上げたように選択肢に限りはありませんから』
それはそれで面倒な気もするが・・・。
『それでは如何しますか?ダメなら言います。とりあえず何でもおっしゃって下さい』
何でもね~。それじゃ~とりあえず。って!ちょっと待てっ!
何でそこまでする?
『理由ですか?そうですね~。一言で表現するならば、私の道楽である。っと言ったところでしょうか・・・。ふふふ』
ふふふって・・・。んじゃ、なにか。とどのつまり。道楽に付き合わせるんだから、迷惑料代わりにとっとけー!ってことか?
『はい。そのような感じだと考えて頂いて結構です。これでも私。この星の人類が物語を描き続ける限り、消える事の無い存在でして・・・。観るならやはり楽しい夢が見たいのです。貴方の夢もその一つなのですが・・・。どうします?やっぱりやめますか?』
なんで?・・・やめないってば、付き合うよ。
『ありがとうございます』
いえいえ。決めたことだしね・・・。
―――そんじゃ、とりあえず。
どんな世界に行くにしても容姿は悪くないようにして欲しいかと。不細工ってのは嫌だけど。絶世のとかでなくていいから。親に合わせていいように・・・。
それにできればある程度のお金。生活に困らない程度あるとうれしい。飢えずに生きていける経済と家庭環境ってやつだな。
両親がいるなら、孫の面倒を見てくれるぐらい長生きして欲しいし、一人なのは寂しいから、仲の良い兄弟か姉妹が欲しい。
ああ、あと。これ重要~。
行った世界での言葉や文字。種族や国籍なんか色々あると思うけど、それに関わらず出来るだけ多くの存在と話せるようになりたい。だから、その世界で使用される様々な言葉や文字に関する知識が欲しい。
その世界に必要な知識や経験が早い段階で学べるようにさ。
・・・男か女かはどっちでもいいや。都合よくしといて。
最後に、死ぬまで五体満足で健康でいたい。ってなかんじで・・・。 可能か?
『う~ん・・・。ご希望は全て可能なのですが・・・。容姿端麗、才色兼備。最強無敵、万夫不当。身分家柄その他諸々、本当に何でもアリなんですけど・・・。本当に其れだけで宜しいのですか?』
あん?いいよ別に。
さっきの内容だけでも、結構、十分すぎるぐらいだ。
・・・それに。
金が欲しけりゃ稼げばいい。異性に好かれたけりゃ努力する。強くなるのもまた同じ。身分とか言われてもよくわからん。可能性があるならそれで十分。
最初から最強?ワロス。・・・ワクだけ小奇麗でも中身がなけりゃ、意味はねぇ~。
まっ。程々が一番でないかい?持ちすぎるといろいろと大変そうだし・・・。
あれだ。楽しめれりゃ~OK~ってことだな。
考えながら自分の思考に納得する俺。
『いやはや。何と申せばよいのやら・・・。その歳でそこまで達観しているとは・・・。驚きました。本当に・・・。物好きな方ですね~』
「あんたが言うなっ!」
思わず。声に出して叫んでしまった。
『ふふふ。神を相手にその啖呵。流石です。・・・いいでしょう。ご希望通り手配します。それ以外は適当に見繕っておきます』
あい。宜しく。
『ただし。あくまでその世界における物語の基準。所謂、設定に則したものと考慮されます。・・・・・・全ては総じて貴方次第。なったからにはその世界での責任が生じます』
それってつまり・・・。
強力な存在であればあるほど、行った世界における責任と役割。覚悟と行動が求められ、それに抗って何もしなければ身の破滅を招く。・・・みたいな感じ?
『まぁ~。一概にその通りですとは申しませんが、大抵は・・・。対価を求めるには何事も代償が必要となりますから・・・』
そりゃそうだ。環境は与えられるもの。与えられた環境から何を学びどうするかは本人の自由。代償もなしに得ようなんて思っちゃいねぇーし。
『はい。その通りです。・・・しかし・・・』
なに?まだなんかあんの?
『いえ。そうではなく。・・・先程からずっと感じていたことなのですが。こう申してはなんなのですが・・・。本当に、たかが十九年で、どうして其処まで割り切ることができるのか?と』
なんで知らないの?神だろ?・・・知ってるだろ?俺の人生、どんなもんか。
『はい。存じてはおります。ですが、それはあくまでもデータのようなもの。何時。何所で。誰が。何を。如何したか。という記録。貴方のその時々の感情や思考まで完璧に考察することは出来ませんし。無理に行おうとも思いませんでしたので』
そう?・・・ならキッチリ伝えとく。
ジョウリは最初に言ったよね。俺には不条理に抗う力があるって。
俺は十九年の生涯で、この世の不条理と理不尽。不都合と災厄。自称正義に自称悪。キレイごとの世界を凝縮して体験し、理解してきたと思ってる。
だから、其れに抗うことを辞めなかった。
止めちゃだめだ。って思ってた。俺自身の感情を・・・。
最後の最後。今、この時まで。
ここにいるのはその結果。
勘違いしないで欲しい。
俺は諦めた訳じゃない。割り切ってる訳じゃない。
ただ、こう思っただけ。
『死んでも自分を曲げるか!』と・・・。
それが俺の。生きる為の原動力。反骨精神。そんな陳腐なモンじゃない。
そう叫んで抗い続けること。絶望から這い上がること。悲しいことを減らすこと。
全てはこれ。自己満足。
俺はね、ジョウリ。
俺自身の心が平穏であり。幸せでありたい。ただ、そう願って行動しているだけなんだ。
それが、俺の心からの言葉。意識を介して行われるこの会話に嘘や虚飾を加える余地など無い。理解しろとは言わない。ただし。否定はしてくれるな。
『なるほど。貴方のお気持ちは良く分かりました。・・・では、生き抜いた十九年。人生の記憶。残しますか?消しますか?』
残してくれ。
俺は即答で返事を返す。
『何故ですか?良い思いでなど、欠片ほどの量。率直に申し上げて、あなたは神の立場である私から見ても、かなり禄でもない人生だったように思われますが・・・』
そこまで言うか・・・・。
ジョウリの言葉に引きつりつつ、思考を立て直す。
遠慮がちながら、ハッキリと伝わる。
残す意味はあるのか?と。問うている。
それでもだ。忘れるわけにはいかない。何度も言うようだが、そういうもの。全部ひっくるめて今の俺。西京纏なのだ。大事にしたい。諦める気はない。絶望もしていない。この思い。この経験。捨てるのは勿体無いだろ。
ジョウリ。あんたの言う。その禄でもない人生が俺だ。でなければ、今、俺はここに居ない。
『そうですか・・・・・・。やはり、貴方を選んで正解だったようです』
まだ早いぞ。その台詞。
『ふふふ。では記憶は残すとして。最初に行く世界なのですが・・・』
どこかお勧めでも?
『このようなのは如何です?・・・・・・時代背景は西暦二〇〇年前後の中華風を華やかにしたもの。妖や妖魔。神獣や賢獣。道士や仙人。その他にも、諸々の種や人がいる。ある意味何でもアリの世界です』
なんかこう。聞いたことがあるような世界観なんだけど・・・。
――――気のせい?
『いいえ。恐らく気のせいではありません』
そう言うと。ジョウリは一つ、言葉を区切って間を持たせる。
『その世界は貴方の良く知る物語。【異世界三国志~百花繚乱恋物語~】という名の世界です』
ちょっ!
止めようとする俺を無視して紡がれる言葉。
『原作は、荒廃し衰退の一途を辿る末期の帝国において別世界から舞い降りた主人公が様々な仲間と出会いや別れを繰り返し、戦いながら成長。天下統一を目指して戦う恋愛戦略しゅみれーしょんあーるぴぃーじー。な世界ですよ』
だから、ちょい待てっての!いきなりなんでそこっ!
『良いじゃないですか。・・・最初に言いましたよね。私は物語の神。語り部のジョウリと』
言った。言ってた。確かに・・・。つまり・・・、そういうこと・・・?
『はい♪そういうことです』
ニコヤカにかつ楽しそうに語る。
『私が提案できる世界は、映画やドラマ、小説や漫画にアニメやゲーム。絵本や童話。逸話や神話の世界。またはそれに似通った世界ですから』
でも。――――あれって〇ロゲーだぞ・・・。
『そうですね。〇ロゲーですよ』
さすがは神。それがどうしたということか・・・。
通称。略して三国百花と呼ばれるこのゲーム。どこぞの〇ロゲーとラノベを一緒くたにしたパクリではないかと噂された物だ。
内容的には予め決められた三つの選択肢の他。キャライベントや好感度UP等の要素。それに加えて戦略性や国造りのシステムを取り入れ、似てるけど違うってものに仕上げた逸品。とは、前世での数少ない友と呼べる(変態&変人)の言。
女尊男卑。主要キャラはほぼ全て女性。男性キャラは主人公と敵対陣営以外、全体的に蚊帳の外。これは十八禁ゲームだから仕方のないことなのだろうが・・・。
『そうですね~。その世界を現実のものとして生きることになると。普通に暮らすのも一苦労・・・どころではなく。簡単に死ねる世界ですので・・・』
俺の思考を先読みし、浮かべた予想を肯定してくれる。
さっきジョウリが上げた条件。才色兼備とか万夫不当とかってのも・・・。
『はい。出来る限り死ににくい様にと・・・。私も簡単に帰ってこられては困りますので』
やっぱり、死んだら帰ってくるんだな。
『ええ。もちろん。・・・最初に行く(・・・・・)。とはそういうことです』
なるほど。だからこその耐えられる魂か・・・。
至極納得する。
『ええ、だからこその。しつこいほどの確認を・・・と』
行くってのを撤回する気はないぞ。
『理解していますよ。・・・それよりも、貴方は考えたことはありませんか?読んでみた小説や漫画やアニメやゲームの世界に己を投影し、自分がこの中に居たらな~とか。自分ならこうするのにとか。こんな能力があったらな~等々。・・・ありますよね』
そりゃ~ある。あるに決まってるっ!
『ですよね~。という訳で。貴方には物語の主人公と同じ時代。同じ時間軸にて、己の存在を示して頂きます。さて、今回は初めての転生ということで、比較的ご存じの世界にしておこうと思いまして・・・。ですが、人も未来もその結末も。それぞれの世界はいまだ終わらず進んで行く。貴方という存在が介入した時点で新たな分岐が生まれ物語が始まりますので、ゲームの進行通りとは、絶対にいきません』
それはそれで、なんか反則じみているような気がするぞ。
『ふふふ。大丈夫ですよ♪もう、貴方の存在そのものが既に反則ですから♪』
そりゃそうだ。もう。為るようにしかならんよな。
妙な納得と共に、俺は頷く。その上で気になることが増えたので聞いてみる。
ところでさ、転生するってことは・・・・・・。その~、なんだ・・・。あれか?
赤ん坊から始めんのか?やっぱり。
『もちろん。転生ですから。そうなりますね。何か問題でも?』
いやさ。なんつうか・・・。嫌とかでなく、赤ん坊として生まれるのが当たり前なんだろうけど。今の十九歳の精神状態で胎児生活をやるってのは苦痛というか、面映ゆいというか・・・。正直、想像すると恥ずかしいやら何やらで・・・。
だって、母乳を飲むんだぞ、授乳だぞ。排泄垂れ流しなんだぞ。その度に捲られるんだぞ。産んでくれる母には悪いが、それ、どう考えたところで拷問だろうが!
『ふふふふ。でしょうね~。まぁ、大丈夫ですよ。その点も考慮して、自我が目覚めるまで意識に曖昧さを残しておきますし。そうですね。生後半年頃、離乳食に切り替わるときに意識の半覚醒を持って行き、ハイハイが可能となる八ヶ月~九ヶ月で徐々に意識の拡張範囲を広げ、一歳から精神や身体を己でコントロールできるようにし、三歳あたりから完全覚醒。という感じで如何でしょう』
如何でしょうって言われてもな・・・。どう答えろと。
『ん~。つまり、あまり子供らしからぬことをすると、いろいろ大変なことになると思いますので、そうならない為の救済措置だとでも思って頂ければ・・・』
あ~確かに。なるべく自然な赤子を装えってことだな。
気味悪がられるのも平気だが、新しい家族にとばっちりが行くのも嫌だしな。
・・・わかった。その辺は、こっちで努力してみるよ。
しぶしぶながら頷いた。
『はい。頑張って下さい』
楽しそうなジョウリの声に少しだけの溜息と苦笑を持って返事とする。
『それでは。・・・逝きますか』
それはすでに問いではなく。肯定の言葉。
あいよっ!
それに対して、迷い無く受け入れの言葉を返す俺。
『では、逝ってらっしゃい』
「逝ってきます!」
ご意見やご感想。
頂ければ嬉しいです。
あと、誤字、脱字がありましたら教えてください。
その都度、修正します。
なお、作者は小心者ですので、理由なき批判はご勘弁を・・・・。