2. Snake・Red
目を開けると、何日かずっと変わらない暗闇がまた目下に広がるだけで、特に何の変わりはない。
もう一度寝ようか。
そう思った直後、酷かった眠気が一気に吹き飛んだ。
外が、いつもと違う。
誰か知らない人がいる。
木でできた老朽しつつある扉の穴からどうにかして外の様子をうかがおうと努力してみるも、何かが見える気配もない。
私は扉から少し下がると、何の迷いも無く、そこから体をぶつけ、壊れかけていた鍵ごと吹き飛ばした。
「なるほど、これはすごいな」
勢い良く飛び出した、そのままの姿で固まった。
「そうでございましょう、さあさあ、こんな者では無く、もっと優秀な子ばかりが揃っていますのでね、」
「ふむ」
「ゆっくり回りましょう、ね、――様」
ふん、と院長は私に向かって露骨に鼻を鳴らすと、横にいる男の人にひたすら話しかけていた。
「それよりも、……名を何という」
「私でございましょうか!私は……」
「…其方の名を聞いてどうなるというのだ。違う。あの者だ」
「あ……失礼しました」
手がブルブルと震える。
腕が、肘が、がくがくと笑う。
赤い髪の男の人はまるで少年のようで。
でも、17の私より何才も年上のようにも見えて。
口元の緩んだ顏は、まるで探し物を見つけた子供のようで。
近くで見ると、ぐるぐると目が回って、ろくにその人のことが見れなかった。
「どうしたんだい?」
彼の手が私の頭にのせられた。
何の根拠も無いと言うのに、私は確信をした。
「え……?」
彼の表情が、驚き一色に染まっていく。
「私、あなたに会うためにいたんだと思います」
ふわふわした。
世界が暖かくて、柔らかくて、日だまりのようだった。
「僕に協力してくれるかい?」
すべてが上の空だった。
気付いた時には、涙を流す孤児の子達が私の周りでわーんわーんと泣いていた始末で、あまりの意識の無さに自分で驚愕した。
「またあえるよね」
「やだやだ、いっちゃやだ」
皆が口々に言い、私の着ている私の買った物ではない服をつかみ、ひっぱり、くわえ、涙で濡らす。
院長を見ると、その人さえ分けが分からないといった顏で目をまんまるにさせたまま突っ立っていた。
「お世話になりました。楽しかったです」
院長は相変わらず目を丸くして突っ立ったままだったし、子供達もわんわん泣いていた。
それでも、私は何かに突き動かされるように、少しの時間をも急がないと行けない気がして、慌てて部屋の物すべてを捨て、身一つで皆の前で挨拶をした。