本日のギルド長室も平和です
「……で? 今月に入ってカウンターの天板を粉砕するのはこれで何回目だ?」
ギルドの最奥にあるギルド長室。 執務机越しに、ギルド長がこめかみを押さえながら私を睨みつけていた。
「えっと……3回目、でしょうか」
「5回目だ。しかも今回は、完全に真っ二つになっているらしいな」
「本当に申し訳ございません……っ!」
私は身を縮こまらせた。
私みたいな取り柄のない受付嬢が、このギルドで働かせてもらえているだけでも奇跡みたいなものなのに。
また大切な備品を壊してご迷惑をおかけしてしまうなんて。
「お前なぁ……いくら冒険者相手の仕事で気苦労が絶えないとはいえ、物に当たるのはよくないぞ。ストレスが溜まっているなら休暇を……」
ギルド長は呆れつつも、気遣うような優しい声をかけてくれる。
そんな風に心配までさせてしまうなんて、私はなんてダメな受付嬢なんだろう。
ただでさえ不器用なのに、力加減もまともにできずまた失敗してしまった。
口で謝るだけじゃダメだ。せめて全身で、最大限の誠意を示さなければ。
「ギルド長……私なんて、本当にダメな受付嬢です。心の底から、反省しております……っ!」
私は一歩前に踏み出し、勢いよく両膝を床に折りたたんだ。 そのまま額を床へと叩きつける『土下座』の姿勢へと移行する。
「本当に、すみませんでしたっ!!」
ドゴォォォォンッ!!!
「……えっ?」
「なっ……!?」
凄まじい轟音と地響きがギルド長室に鳴り響いた。
顔を上げると、周囲にはモウモウと土煙が舞い上がっている。
そして私が額を擦り付けていた場所を中心に、分厚い石造りの床が蜘蛛の巣状にひび割れ、すり鉢状の巨大なクレーターができあがっていた。
「あ、あの……ギルド長?」
パラパラと天井から瓦礫が落ちてくる中、私は恐る恐る声をかけた。
執務机の向こう側で、ギルド長は椅子ごと後ろにひっくり返っていた。 そして、崩れた床の惨状と私を交互に見比べながら、頭を抱えて震え出した。
「あ、ああ……またか…… いや、俺が悪かった! 説教は終わりだ! だから頼む、それ以上頭を床にめり込ませるな! ギルドが倒壊する!!」
「ひっ、ご、ごめんなさいっ! 私の頭が少し硬かったばかりに、床にまでヒビを……!」
どうしよう。謝るつもりだったのに、もっと大きな損害を出してしまった。
「今月のお給料、全部修理代に当ててください! それでも足りない分は、お掃除でも雑用でも何でもしますから……っ!」
「いい! 修理代はいいから! 頼むからお前はもう帰って休んでくれ! いいか、扉を開ける時も絶対に『優しく』触るんだぞ……!」
ギルド長は涙目になりながら、必死の形相で私に懇願してきた。
「は、はい……! お言葉に甘えて、今日は早退させていただきます……!」
私は崩れかけた床の瓦礫を慌てて両手で退かしながら、そっとギルド長室を後にした。
ギルド長は本当に心が広い。
あんなに大きな音を立ててしまったのに、修理代も免除してくれるなんて。
私は明日からもっと、真面目に受付のお仕事を頑張ろうと心に誓ったのだった。




