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堕天の翼 〜僕は堕ちた天使の最弱転生体でした〜  作者: みし


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8:怠惰が仲間になり、美少女に待ち伏せされる。

8:怠惰が仲間になり、美少女に待ち伏せされる。


 その日は、深帰人にとって朝から気忙しいものとなる。

 

 昨日見た堕天使の感覚があった女子生徒を求め、ひたすら校内を探し回ったからだ。

 

 盧子は基本、待ちの姿勢で積極的に動こうとはしない。仮に見つけたとしてもすぐには戦うな、と深帰人に釘を刺すだけだった。さすがに向こうも学内では仕掛けてこないだろう、という目算があったのかもしれない。

 

 だが、堕天名の「フィア」が表すように深帰人は臆病だ。

 

 自分たちをいつ襲ってくるかもわからない堕天使が、同じ翆玲高校の中にいる。即時決戦という可能性はないとしても、その女子生徒の所在を明らかにしておきたかった。でないと、不安でたまらない。

 

 翆玲高校は一学年が、A組からD組までの四クラスで編成されている。一クラスはだいたい四十人程度で、全校生徒で五百名弱になる。だが、その一人一人をつぶさに見る必要はない。重要なのは堕天の感覚を受ける者を見つけることだ。小柄でショートボブの髪型をし、眼鏡をかけている、という外見的特徴もわかっている。何も手がかりがない状態で闇雲に探し出す行動よりは、はるかに簡単なはずだ、と深帰人は高をくくっていた。


 朝は自分の教室から正門を見張り、登校してくる生徒たちを観察した。だが、該当する生徒を見つけることはできない。自分が見逃したことや裏門から入って来た可能性を考慮し、授業の合間には、各学年の各クラスを回り、それらしい女子生徒を探す。


「……見つからない」


 深帰人はがっくりと項垂れた。


 傍らでは盧子がなんの表情もなく、パックの牛乳を啜っている。


 昼休み、初めて盧子と出会った校舎裏で昼食を摂るのが、もはや深帰人たちにとって習慣となっていた。


 そこで深帰人は懸命に探したが、例の女子生徒が見つからないことを嘆いた。


「全員を見たわけじゃないでしょ」


 盧子の言いたことはわかる。確かに授業の合間の休み時間に、クラスでじっとしてくれているとは限らない。トイレに行ったり、移動教室の準備をしていたり……あるいは、クラス委員や日直で職員室に行っているというケースも考えられた。不安気質ゆえに、深帰人はその可能性も考慮に入れて動いている。廊下を歩く者も目を皿のようにして観察し、職員室や女子トイレの前でも数分は張り込んだ。


「ここの制服を着ていたからって、ここの生徒だとは限らない」


 深帰人はその可能性も考えていた。


「だけどさ、だとしたら、あそこでうちの制服を着ている意味がわからないよ。こじつけようと思えばいくらでも理由は考えられるけど、妥当なものだとは思えない」


「でも、この学内では見つからない」


 それを言われるとつらい。深帰人は再びがっくりと項垂れる。


「昨日見たあの子は、いったい誰なんだ……?」


 深帰人が悲嘆の声を上げたときだった。


「何? ワシの話をしてんの?」


 盧子とも違う、妙に気怠い感じの女子の声が聞こえた。


 声のほうを見ると、そこには今日一日、探しに求めていた女子生徒の姿があった。


 深帰人は突然のことに「え? え?」と混乱してしまう。


「ちょっとちょっと。別にワシは戦うつもりはないから」


 女子生徒は両手を上げて、降参のポーズを取っている。彼女の目線を追うと、左手に牛乳パックを持った盧子の右手に、黒い長剣が握られている。


 盧子は黒い片翼を展開させなくても、羽根を剣として出すことができるらしい。


「昨日、あそこを通りかかったのは偶然。激しくバトってるから見入っちゃってさ」


「戦うつもりはないって、どういうこと?」


 眼鏡の女子生徒の言葉に、深帰人が質問を投げる。


「だって、ワシ、戦闘力ほぼゼロだもの」


 そう言った女子は、「翼身」と声に出し、翼のある姿を見せる。


 彼女の翼は、端的に表現するのであれば、蝙蝠のような翼をしていた。


 大きさも深帰人のものとそれほど変わらない。


「比べたことがあるわけじゃないけど、ワシの翼はたぶん、十二人の堕天使の中で、最高速で飛ぶことができる」


「それはすごい」


 素の感想が深帰人から漏れた。


「でも、それだけ」と女子生徒は肩を竦める。


「どんなに早く飛べようが、そっちの人には瞬殺されちゃう」


 女子生徒は盧子を示した。


「瞬殺だと楽」と盧子が剣を構える。


「ちょっとちょっと、文脈読んでっ。国語の偏差値いくつよ?」


「25。じゃあ、一瞬で」


「うわぁ、ワシよりちょい上レベル! ねえ、そっちの君はわかるでしょ。早くその危険女子を止めて!」


 女子生徒に言われてハッとした深帰人は、盧子に「とりあえず、話を聞いてみようよ」と剣を収めさせる。


 国語の偏差値、25なのか。さすがはホープレス、と逆に感心する。さらに下を行くと高らかに言う女子生徒もすごい。深帰人なら精神的に耐えきれない数値だった。


「え……っと、僕らと敵対関係じゃないってことだよね?」


 深帰人の問いに、「そうそう」と女子生徒は頷き、会話が始まる。


「ワシは、lazyレイジー。『勤勉』を失って、『怠惰』に堕ちた」


 なるほど。それなら国語の偏差値25を下回るのも仕方ない、と深帰人は納得する。


「名前は、小松香菜。二年B組に所属してる」


「二年B組? おかしいな、三限の休み時間に行ったけど見かけなかった」


「チ、チ、チ。ワシは『レイジー』。『怠惰』よ」


「あー」深帰人は思い当たる。「遅刻してきたのか」


「そ、今来たとこ」


 今来たのかーい! 納得も感心も超え、深帰人は心の中で突っ込んでいた。


「さ、ワシは自己紹介したよ。君たちは?」


 香菜に問われ、深帰人は自分の名前と堕天名を教える。盧子もぼそりと単語で答えた。


「二人とも学校では後輩か。じゃあ、ワシのことは『香菜さん』でいいや」


「……で、香菜さんは」と深帰人は本題に入る。


「どうして、僕らに接触しに来たの?」


「面倒なのが嫌いだから単直に言うと、ワシも仲間に入れてほしくて」


「仲間?」


「うん。君たち、共同戦線張ってるでしょ、そこにワシもちょいちょいっと混ぜて」


 香菜に言われて改めて深帰人は気づく。明言したわけではないが、自分と盧子は「共同戦線」を張っているようなものだ。


「さっきも言った通りワシ、戦闘力ほぼゼロだから、やられキャラ的なポジションなのは否めない。けどさ、あの夢見ちゃうと、どうしても帰りたいって思っちゃう」


 覚醒前に見る懐郷の夢のことだろう。


 確かにあの夢には、そこはかとなく満たされた充足感と抗いようのない郷愁の思いに駆られるものがある。


「覚醒したときから、誰にも気取られないように隠してた。いつかバレて終了なんだろうなって思ってたけど、昨日の君たちを見て、考えが変わった」


「変わったって?」


「まあ、しょせんワシは『怠惰』だから、難しい理屈はわかんない。ただ、このまま隠れてるより君たちの仲間になったほうが、ワンチャンあるかもって思ったんだ」


 多少の差異はあるかもしれないが、深帰人は香菜の気持ちに共感できる。深帰人だって一人なら、きっとすでに終わっていた。盧子がいるからこそ、今があるのだ。


「ところで、香菜さんは堕天の感覚が消せるの?」


「え? 誰にでもできるんじゃないの?」


 一瞬言葉に詰まるが、「じゃあ、なんであのときは?」と深帰人は返す。


「君たちが戦ってるのを見て気が抜けちゃったのかな……ワシのキャラじゃないけど、あのときは興奮しちゃったんだと思う。さすがにあのときは、『ヤバい。バレた』と思って、即行逃げちゃったけどね」


「それで一日考えた上で、僕らのところに来たってこと?」


「そんな感じ。戦力としてはカウントできないかもしれないけど、最速で飛べるのは、それなりに重宝すると思うよ。見張りとか偵察とかさ。どうかな?」


 香菜の問いかけを受け、深帰人は「盧子さんは?」と見る。


 会話の輪から完全に外れていた盧子は、「深帰人がいいならいい」と呟く。


「僕はいいと思うんだけど……」


「なら……」香菜が笑顔を作りかけた。


「一つだけ」と、盧子の声が聞こえる。


 瞬間。


 香菜の顔面すれすれに、黒く鋭い剣の切っ先が突き付けられた。


「岸見を倒したのはお前?」


「え? は?」と困惑したまま、香菜は救いを求める視線を深帰人に送ってくる。


 完全に対象外だと思って訊くことすらしなかった。深帰人は慌てて、盧子の言葉にフォローを加える。


「僕らと同じ学年にいる、岸見さんっていう人も堕天使だったんだ。でも、それがわかったときには、彼女はすでに堕天の輪を誰かに砕かれていて……盧子さんはそれが、香菜さんの仕業じゃないかって訊いてるんだけど……」


 香菜は「知らない。ワシじゃない」と首を何度も横に振り、「この学校にワシら以外に堕天使がいたのだって、初めて知った」と口にする。


 その言葉を聞いた盧子は、「そう」と剣をしまい、「もし……」と言葉を継ぐ。


「もし、裏切るときはわたしにして。深帰人になんかあったら真っ先に切るから」


「う、うん……」


 固まった笑顔のまま香菜が頷くと、翼身を解いた盧子は校舎のほうへと歩いていく。


 盧子の姿が完全に見えなくなると、香菜は「危険女子おっかねぇ」と小声で洩らし、深帰人に向かって、「じゃ、じゃあ、そいうことで……」と手を上げて去ろうとする。


「あ、あの……」と深帰人は呼び止めていた。


「何……?」


「本当に、しょうもないことなんだけど……」


 深帰人は香菜が使っている一人称、「ワシ」について訊ねた。実はさっきからずっと気になっていたのだ。


「ああ、そのこと」と香菜は笑いながら説明する。


「わたし」が、まず「わーし」になり、さらに長音が省略され、「ワシ」に落ち着いたという。こうして密かに引っかかっていた一人称への疑問が解消し、小松香菜――レイジー――は、晴れて深帰人たちと共同戦線を張ることになった。



 堕天の覚醒をしたからと言って、生活のすべてが変わるわけではない。


 学校へ行き、午前の授業を受け、昼飯を食べ、午後の授業の睡魔に抗い、ホームルームを経て掃除する。それらが免除されるわけではない。部活に入っていない深帰人はそのまま帰路に就く。堕天した者同士の戦いは、深帰人にとって突然入らなければいけなくなった部活のような位置づけだったのかもしれない。なんとも物騒な部活動だが。


 友達の真理や雅武は部活や委員会にと忙しいことも多いが、今日は二人ともオフらしく、一緒に帰ることになった。

 

 盧子はもちろん、香菜とも共同戦線を張ると約束した。


 とはいえ、ずっと徒党を組んで学校内外を歩き回るというのも不自然だ。あくまで、これまで通りの生活をしながら、振りかかる火の粉のように戦いを望む堕天使たちが現れた場合に応じるだけだ。

 

 堕天の戦いを恐れ、心がひりつきそうになりながら、日常生活を送らなければいけない気持ちなんて、雅武たちにはわからないだろう。だが、それでいい。堕天の戦いに染まってはいけない。深帰人はそう考える。

 

 懐郷の夢の満たされた感覚を思い返す度、心の底から「戻りたい」という原初欲求にも似た衝動を感じることがある。堕天の輪が砕かれて、永遠に故郷に帰れなくなることを想像すると恐怖で体の芯から震えが来る。深帰人は、その衝動と恐怖に押し流されないよう、自分を維持することに努める。流されれば、ナスティやクルエルのようになってしまう。

 

 あくまで人間生活がベースであり、特別な事態が起こらない限り、深帰人は、これまでと同じ人間関係の輪で、友人関係を回していくのだ。

 

 そんなふうに思っていたときだった。


「ねえ、あれ……三葉女子大付属の制服じゃない」


 昇降口を出たところで、真理が校門のほうを示した。


「ホントだ。誰か待ってんのかな」と雅武も同じほうを見る。


 ブルーのチェックスカートに薄茶色のブレザーの制服を着た黒髪の少女が立っている。


「キレイな人。ああいうのクールビューティっていうのかも」


「わからなくもないけど、若干、クールが勝ちすぎてる気がするね」


 真理と雅武が声をひそめながら会話をするのを、横耳で聞きながら校門へと差しかかる。


「良かったー、やっと見つけた」


 少女は微笑を作り、歩み寄って来た。


 真理と雅武が、ギョッとした表情で深帰人を見る。


「もうちょっと待って来なかったら、校内にお邪魔しちゃうところだったよ」


 深帰人は自分の日常にヒビが入る音を聞いた気がする。


 眼前に立つ少女とは面識があった。いや、そんな生易しいものではない。


 戦闘の経験があった。


 クルエルだった。


「ねえ彼のこと、ちょっと借りていい?」


 クルエルの少女は、微笑みを貼り付けたまま深帰人を指差す。


「どうぞどうぞ」と真理が掌を向ける。


「あとでちゃんと話、聞かせろよ」と雅武がはやすように囁いてくる。


 誤解だ。極めて遺憾な誤解だ。


 だが、深帰人が適切な言葉を見つけ出そうとする前に、少女に腕を絡められる。腕に弾力のある感触が伝わってくると、深帰人は言葉を失った。


 どんな場面であれ、ここまで女子に密着されたことはない。


「じゃあ、行こ」


 声色に染まった言葉と同時に、「いいから黙ってついて来い」という冷たい声が、小さく深帰人にだけ聞こえるように響いた。


 深帰人は少女に連れられるまま、歩き出す。


 周囲からの視線には、驚嘆と羨望が入り混じっていた。


 どちらにも「誤解だ!」と叫びたかった。


拙い物語をお読みいただき、ありがとうございました。


もしよろしければ、応援いただけますと幸いです。


少しでも価値を感じていただけたら、


リアクションをいただけると、


続きを書くモチベーションになります。


どうぞよろしくお願いいたします。

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