5:最弱の姿
5:最弱の姿
「やっぱりホントなのか……」
思わず声に出してしまう。
壮大なドッキリの可能性を考えないわけではなかった。期待すらしていたかもしれない。
深帰人は家に帰ると、すぐさま自室にこもる。制服も着替えずに鏡の前に立ち、盧子たちに言われたことを思い返してイメージしながら、「翼身」と唱えた。
鏡に映る自分は、確かに翼の生えた姿になっている。
ナスティの言葉によれば、翼身化した状態では現実世界に影響を与えないという。ならば、今鏡に見えている姿は、半霊体化した自分の目だから捉えられるものなのだろう。怖さゆえに検証するつもりもないが、今の状態なら母親が部屋に入って来ても、自分のことを認識されないのかもしれない。
「それにしてたって……」
自分の背にある貧弱な翼を見て溜め息をつく。
系統的に見れば、盧子たちと同類の姿をしていると言っても差し支えないだろう。
彼らはそれぞれに、特徴的な翼を持っていた。
盧子は漆黒。ナスティは赤紫。
それに対し、深帰人の翼は、白と呼べるものだった。ただいかんせん、その存在の薄さを象徴するように半透明で、存在の矮小さを示すかのように小さかった。
比較の基準となる相手が悪いのかもしれない。深帰人は思う。
盧子の翼は片翼だが、それだけで大人の体を五人分はまるまる包み込めるほどの大きさがあった。ナスティだってその半分弱はあったように思う。深帰人の翼は大きめに見積もっても、自分の背丈ほどだ。頼りなさげな白い半透明の翼が、両方の肩甲骨あたりから生えている。
ただ深帰人は、割り切ることに慣れていた。
自分に与えられたものが貧相だったり、恵まれなかったりしていることは、これまでの人生でも十分すぎるほど味わっている。勉強やスポーツ、芸術やゲーム的なセンス、どれを取っても、周囲に対して後れを取るものばかりだった。
堕天の身だったという事実が突き付けられても、その中で自分が優れている、ということはやはりないのだろう。堕天の者同士の戦いとなれば、自分が最弱かもしれない。そんな不安と恐怖が襲ってくる。今日だって盧子がいなければ、終わっていたに違いない。
だとしたら、やることは決まっている。
深帰人は左手に力を込め、イメージを始めた。
手から数十センチ離れたところに、光の円盤が出現する。光の周囲に、十一枚の白い羽根が飾りのように着いていた。深帰人が動かす左手に追随して、光の盾も動く。
深帰人はナスティとの戦いを思い返した。
きっとこの光の盾は、自分の意思で自在に動かすことができるのだろう。手で動かせば、イメージと直結しやすいだけで、その気になれば目で動かすことも、細分化できることも実証済みだ。大きくすることや光の厚みを増すことだってできるかもしれない。
今の自分ができることを知る。最弱だろう自分がすることは、いつだってまず身の丈を把握し、どの方向に努力の可能性があるかを考えることだ。形は違えど、これまでだって同じことをしてきたのだから。
同じ授業を聞いても、自分の理解は常にクラス平均をはるかに下回っていた。自分は頭が悪い、という自覚をしたとき、学年で最下位を取ったらどうしよう、という不安が襲ってきた。留年するかもしれない、と想像すると、言い知れぬ恐怖で身がすくんだ。
それらの不安や恐怖は、どんなに努力をしてもなくなることはなく、日々押し潰されそうになりながら、現実と向き合ってきたのだ。友達が一時間で終わる課題に三時間をかける。レポート提出や宿題などは、絶対に怠らない。テスト直前になると、不安で眠れなくなるのは毎回のことだし、成績で目立てたことは一度もない。
だが、追試レベルの点数を取ったこともない。
「フィア……不安……恐怖か……」
光の盾を見ながら、深帰人は自分の堕天名を呟く。
自分に与えられた能力は「守る」力なのだろう。臆病な自分にふさわしい力だ、と深帰人は苦笑する。
夕飯の支度が出来た、と母親に呼ばれるまで、深帰人は翼と光の盾について、現状でどれくらいのことができるかを試し、検証を重ね、書き留めた。
深帰人は操作性を考慮し、光の盾を端的に「シールド」と呼ぶことにする。
徐々にナスティたちが語っていたような戦いのルールらしきものが認識できるようになってきた。きっと自分の魂が翼身に馴染んできたからかもしれない、と推測をつける。
不思議だったのは、己を捨てたように戦う盧子の姿が何度も思い出されたことだ。その理由は、深帰人にはよくわからない。
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