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堕天の翼 〜僕は堕ちた天使の最弱転生体でした〜  作者: みし


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4:堕天の仕組み

4:堕天の仕組み


「もうやめてくれよ! 俺が悪かったって!」


 手と足を、盧子の黒い羽根――硬軟と長短は盧子の自在になるらしい――で拘束され、地面に転がされたナスティが懇願する。


「もうやめようよ。本人だって、反省してるし、それに……」


 こんなの拷問だ、と深帰人は思う。


 だが、盧子の表情をやはり変わることはない。「無理」と深帰人の言葉を受け流し、ナスティの太腿に黒い長剣を突き刺した。その度にナスティの悲鳴が上がる。


 このままじゃ、心が折れそうだ。見ていられない。


 深帰人は盧子に抗議する。


「何が無理なんだよ。もう勝負はついたじゃないか?」


「まだ終わってない」


「え?」


「最後の処理を終える前に、こいつが握っている情報を訊き出す」


「どういうこと?」


「フィアが狙われた状況がピンポイント過ぎる。こいつはきっと、わたしたちよりはるかに多くの情報を持っている。それに……」


「それに?」


「フィアにこの状況を説明するのは、わたしには不向き。こいつのほうがたぶん、フィアにわかりやすく状況やルールを説明できる」


「あ、あの……」


「何?」


「ちなみに、さっきから言ってる『フィア』ってのは、僕のことでいいんだよね?」


「そう」


 盧子はそこまで言うと、再びナスティに向けて、剣を構えた。


「わかった! もうわかった! 言われた通りにする! あんたの言うことは全部聞くから、これ以上、刺すのは止めてくれ!」


 ナスティの悲嘆に満ちた願いを聞き、盧子は剣を持つ手を下げた。


「……で、まず何から喋ればいい?」


 盧子の様子に、ナスティは疲れ果てつつも安堵した表情を浮かべる。


「彼に、今置かれている状況を説明して」


 盧子が深帰人のほうを示した。


 深帰人のほうを見たナスティは、露骨に不満そうな表情を浮かべる。自分は盧子に負けたのであって、お前に負けたわけじゃない、と言いたげな顔だ。


 盧子が「早く」と剣の握りを改める。


「わ、わかったって!」と慌てたナスティは、「えーっとだな……」と語り出す。


「とりあえず、覚醒してるってことは、夢を見たんだろ?」


「夢……?」


「そうだよ。なんていうか、理想郷っていうか、故郷みたいな場所にいる夢だよ」


 深帰人は昨晩見た夢を思い出し、頷いた。


「俗っぽい言い方をすりゃ、『天界』ってやつだ。あれが、俺たちが帰るべき場所さ」


「天界? 帰るべき場所?」 


 深帰人にも言葉の意味はわかる。だが、それが語られている文脈についていけていない。


「さっぱり……って顔してんな。まあ、この辺は、覚醒時の体の違和感と同じように、個人差があるらしい。徐々にいろんなことがわかっていく奴もいれば、俺みたいに優秀な奴はほぼ一回で、すべてを理解する、みたいにな」


 ナスティは誇らしげだ。捕虜のような身の上には憐みしか感じられないが。


「俺たちは、もともと天界の住人だったのさ……つまりは、天使だな」


「天使? ……僕らが?」


「ああ。だが、どういうわけか、十数年前、産まれる前の、人間の子どもに『受胎』という形で転生させられた。愛憎と欲望が渦巻く、人間の世界で生きるよう、『堕天』させられたんだ。だから、俺もお前も、そこにいる女も、おしなべて『堕天使』というわけさ」


 深帰人は「堕天使……」と呟きながら、盧子のほうを見る。


「今、この人間界には、俺らを含めて十二人の堕天使がいる……はずだ」


「『はず』、というのは?」


「まだ、覚醒してない奴もいるし、確証はないからな。俺は、自分が懐郷の夢を見たときに、そう知らされたんだ。そんで……」


 ナスティは、「ここ重要」とせせら笑いながら、言葉を継ぐ。


「この十二人の堕天使は、最後の一人になるまで、戦わなきゃならない」


「なんで?」


 思わず声を張っていた。いきなり「戦え」と言われば、そんなリアクションが出たって不思議ではないだろう。だが、隣にいる盧子はきわめて無表情だ。


「それが、この『堕天』を仕組んだ奴の取り決めだからさ」


「仕組んだ奴って……?」


「それは知らん。だが、戦いに勝ち残った最後の一人が、もう一度、あの場所へ戻れる。それが俺たちに強いられたルールなんだよ」


「……バトルロワイヤルみたいだ」


 深帰人がこぼした感想に、「まさにそれさ」とナスティは肯定する。


「戦うことは決められているが、戦い方にルールはない。闇討ちだろうが、団体戦だろうが、複数対一だろうが、なんでもアリだ。要は、最後の一人になれればいい。だから、俺は覚醒直後のもっとも弱い、お前を狙ったわけだ。おっと、『汚い』とか言って、俺を責めるなよ。俺のロストエレメントは『矜持』であり、そのエフェクトとして出たのが『卑劣』、つまりは『nasty(ナスティ)』なんだからよ」


 一つの言い回しに、いくつもの意味不明な言葉が出てきた。深帰人が説明を求めると、「ったく、世話がかかるな」と溜め息をつきながら、ナスティは語る。


「いいか。俺たちはもともと天使だったんだ。だが、堕天――天界から堕ちるに当たって、天使であるべき重要な何かを失っている。それが『ロストエレメント』だ。重要な何かを失えば、その影響でなんらかの欠陥が生じるだろ。それを『エフェクト』と呼んでいる」


 ナスティは、「たとえば、そこの女は……」と、盧子をアゴで示す。


「自分で『hopelessホープレス』と言っていた以上、ロストエレメントは、そのまんま『希望』だろうな。そして希望を失ったエフェクトとして、『ホープレス』という堕天使になった。あ、ちなみに、俺は堕天した自分を表す名前として、勝手に『堕天名』って言葉を使ってるが、それは結果的に『エフェクト』と同じだからよ」


 ここで初めて、深帰人は盧子とナスティのあいだで交わされた言葉の意味を理解した。


 盧子の光の宿らない黒い瞳を見る。


 希望を失った者というのには、妙な納得感があった。

 

 しかし、そこで深帰人は一つの疑問を持つ。それはナスティに対してではない。ホープレスと呼ばれる盧子に対してだ。


「どうして君は、僕のことをフィアと呼ぶの? 僕自身、堕天のことも、エフェクトのことも知らなかったっていうのに……」


 盧子への疑問だったが、「そんなの俺にだってわかるさ」と答えたのはナスティだった。


「だって、お前、臆病だろうよ」


 ナスティがからかうように笑う。あまりにも図星過ぎて、深帰人は二の句が継げない。


「覚醒の瞬間は、力が一番定まんねえし、最弱の状態だから、もちろん狙いどきだ。だが、それでも覚醒時からちゃんと能力が発揮できる奴だっている。お前ときたら尾行している最中、ずっとオドオドビクビクしてやがる……そこで思ったね。お前のロストエレメントは『信頼』、特に自己に対する自信だ、ってな。その結果、お前のエフェクトは『恐怖』や、そこから派生する『不安』となった。そうすりゃ、誰だって『fearフィア』だと結論付けられるさ」


 深帰人には耳の痛い話だった。今日会ったばかりの者にすら見抜かれる、自分の臆病さとはいったいどれほどのものなのだろう、と自問自答する。


「確認」


 唐突に盧子が口を挟んだ。


「覚醒した者同士が面と向き合えば、互いに堕天使だって認識できる?」


 盧子の問いに対するナスティの答えは、「そうでもないぜ」だった。


「覚醒したことを隠さない奴もいれば、隠せない奴もいる。こいつみたいにな」


 ナスティは深帰人をアゴで示し、続ける。


「だが、もちろん覚醒したことが相手にわかれば、的になるかもしれないからな。たいていの奴は隠す術を心得ているだろう」


「どうやるの」と深帰人は咄嗟に訊いていた。自分だって的にされたくはない。


「その辺はどうなんだろうな、センスなんじゃねえか? ハハハ、俺の場合、エフェクトが『ナスティ』で『卑劣』だから、それくらいの才能があって当たり前ってことだろ」


 才能、と言われてしまうとどうにもならない。今のところ、自分にはできそうな気がしないと思った深帰人は途方に暮れる。


 そこでふと、深帰人はふと湧いた疑問を口にする。


「どうして僕が、覚醒したのがわかったの?」


「それはあれだ、人間のネットワークを使って網を張っていたのさ」


「人間の?」


「俺は人脈を大事にしてるからよ。堕天使のことは教えなくても、覚醒時に現れる体の症状を伝えておいて、それっぽい様子の奴が見つかったら、片っ端から俺に連絡するように手筈を整えていたのさ。お前、今日学校で会う奴らから、『体調悪そうだ』って心配されてただろ。その連絡を受けたから、俺は学校でお前を待ち伏せ、ここまで尾行してたんだよ。たくよぉ、うまくいったと思ったのになぁー、こんちくしょう」


 ナスティは恨めしげに盧子のほうを見る。


「お前が持っている情報網では、何人の堕天使を把握している?」


「……お前らを入れりゃ、五人だ。十二名のうち、半分を把握してんだ。すげえもんだろ」


 盧子の問いに、ナスティが胸を張る。今となってはただの空威張りでしかない。


「エフェクト……堕天名とかはわかるんですか?」と深帰人が訊く。


「直接話したわけじゃねえから、百パーセントではねえけどな。遠巻きに観察していたときの言動や態度からおおよその推測は立ってるぜ」


 盧子が「それでいい。言って」と命じる。


「……アウトローに、グリード……それから、バーサークだ」


「特徴や能力は?」


「戦ったことがねえからわかんねえよ。だが、どいつも傍から見た限りでは、性格が好戦的でヤバいぜ。自分が堕天使であることを隠そうともしてねえ。相当、武力に自信があるんだろうよ。奴らが鉢合わせれば、いつ戦闘になってもおかしくねえ。俺としては、潰し合うことを祈ってたんだけどな」


「お前の予測で良い。堕天使は全員、この翆玲市にいるの?」


 翆玲市とは、深帰人たちが住んでいる地域のことだ。


「いるんじゃねえの?」


「どうして、そんなことが言えるんです?」


「ちゃんとしたところは知らねえさ。この状況を仕掛けた奴に会えることがあったら訊いてみればいい。だが、堕天使が受胎している人間の年齢は、俺が知る限り十五歳から十九歳。覚醒が始まったのは、ここ最近だ……とくれば、地域的にも近接的な場所に配置して、戦わせやすくするほうが効率的なんじゃねえか」


 つまり、これから短期間で堕天使同士のバトルロワイヤルがいくつもおこなわれる、ということだ。深帰人は考えただけで足がすくむ。


 突然、ロックな音楽が流れた。


 どうやらナスティの制服に入っているスマートフォンにメッセージが入ったらしい。「取ってくれねえか」と促され、深帰人はナスティに言われるがまま彼のズボンのポケットから取り出して暗証番号を入力し、メッセージ画面を見せる。

 

 ナスティは、小さく口笛を吹いた。


「どうしたんですか」


「また、覚醒の兆候が現れた奴が出たらしい」


 ナスティが持っている人脈からの連絡だったようだ。


「どこの誰?」


「ハハハ。聞いて驚け。お前らと同じ翆玲高校の女子生徒だ。ちゃんと名前まで送られてきてる。知りたいか?」


 挑発するように問うナスティに、「また、刺されたいのね?」と盧子が問い返す。


「冗談だよ」と慌てた言いつくろったナスティは、「翆玲高校の一年A組、岸見理恵っていう女だと」と言い捨てる。


「一年A組って……?」


 深帰人は盧子のほうを見る。一年A組は盧子の所属するクラスだ。


「あなたも知ってる人よ」と盧子が言う。


 初めて聞く名前だった。深帰人は「え? 知らないけど……」と返す。


「あなた見てじゃない。岸見さんたちが、わたしに水をかけているところ」


 あの三人組の一人か……深帰人は盧子に向けていた冷たい笑顔の少女たちを思い出す。


「戦うの?」


「向こうが仕掛けてくるなら」


 深帰人は少しだけ安心した。盧子は戦いに情は挟まないが、好戦的な性格というわけではなさそうだ。


「もういいだろ。そろそろ終わりにしてくれよ」


 さっきまでにやけ面や不敵な笑みを浮かべていたナスティが真面目な表情を作る。


「俺が説明できるのは、あとは翼身化と堕天の輪から光球を取り出すことくらいだ。だが、そんなもん、いくら説明下手でも、実際に見せちまったほうが手っ取り早いだろ」


 深帰人にナスティの言葉の意味がわからなかったが、盧子は「そうね」と答えた。


 盧子が深帰人に向けて口を開く。


「わたしたちは普段、人間の体で生活しているけど、堕天使としての力を使うときは、『翼身化』して、翼が解放し、力を使えるようにする。今回のあなたは勝手に力が発動してしまったみたいだけど、そのコントロールは簡単にできるはず」


 なるほど、と深帰人は思う。ナスティが翼を持った姿になるとき、「ヨクシン」と言っていたのは、それを解放する合図のようなものだろう。


「ちなみに、翼身化してるときは、半零体化しているから、普通の人間の目には見えない。どんなに激しい攻撃のやり取りをしても、現実的に物理世界に影響を与えることもない」


 深帰人は周囲を見回した。


 確かにナスティの見境のない攻撃や盧子の最後の一撃など、建物の壁が崩壊してもおかしくない衝撃のように感じられたが、その影響は見当たらなかった。


「でも……」と深帰人は、ナスティの体を見る。


 彼の体は、盧子に敗北したあと、拷問のような串刺しを受け、血みどろになっていた。


「これは今、俺の体が半零体化しているからできる傷だ。簡単な言い方をすれば、俺の人間としての肉体ではなく、堕天使としての魂が傷を負っている状態だ。翼身を解除すれば、普通の状態に戻る」


 ナスティはそこまで語り、「さあ、お膳立ては調えてやったぞ」と盧子を向いた。


 盧子は持っていた剣を構える。


 深帰人が「何をするつもり?」と言い切る前に、盧子の剣はナスティの頭上にある、メビウスの輪のようになっている光輪を切っていた。


 次の瞬間、ナスティは瞼を閉じて、意識を失ったように倒れ込んだ。


 先ほどの言葉通り、血に染まっていたいくつもの傷口は回復し、血の痕も消え去った。

同時に、まるで堕天同士の戦いに敗れた「敗者の証」とでも言うように、首の後ろに小さな星印の痣が浮かび上がる。

 

 さらに、切られたナスティの光輪は形を変え、光の玉となって、深帰人と盧子の前にぷかぷかと浮かんでいた。


「これ……は?」


「光球よ」


「光球?」


「戦いの勝敗は、最終的に堕天の輪を砕き、光球を手に入れたことで決まる」


 盧子の説明は、ナスティほどわかりやすくはない。


 深帰人は、盧子の言葉足らずな部分に自分なりの解釈を加えて考える。堕天使同士の戦いの勝敗は、最終的に相手を倒したか否かではなく、頭上にあるメビウスの輪になっている光輪――「堕天の輪」というらしい――を砕き、そこから発生する光球を手に入れることなのだろう。


「それは、どうするの?」


 深帰人が問うのと同時に、盧子はその光球に触れ、深帰人の頭上へと移動させた。


 一瞬、頭上に温かいものが流れ込むような感覚があった。


「光球のエネルギーは、堕天の輪に保管ができる。今、あなたの光輪には二つ分の光球がある状態になった」


「どうして?」


「何が?」


「君が勝ったんだから、君が得るべきものじゃないの?」


「……別にいい」


 盧子の真っ黒い瞳に見据えられると、深帰人はそれ以上追及できなくなる。


「そろそろ、翼身を解いたほうがいい」


 深帰人は「え……」と戸惑いの声を上げる。なんとなく体感はあるものの、自分に翼が生え、光の輪がある状態を見られてはいないのだ。


 盧子が言った翼身解除の方法はきわめてシンプルだった。頭の中で翼身から翼と堕天の輪を取り去った、通常の人間体に戻るイメージをするだけのことだ。ただ盧子から、イメージと連動するように『翼身解除』という言葉を紐づけておくとより簡便だ、と聞かされ、それに倣う。


「あん? なんで俺はこんなところにいるんだ?」


 急にしゃがれた声がして、驚きながら深帰人はそちらを振り向く。


 そこには、ナスティ――いや、ナスティだった少年が立ち上がっていた。


「なあ、あんたら、ずっとここにいたのか?」


 ナスティだった少年が訊いてくる。深帰人は答えに窮した。


「わたしたちは今、来たばかり。そのときからずっと、あなたはここで寝ていた」


 盧子のいい加減な説明に、「わけわかんねえなぁ」と首を傾げながら、ナスティだった少年は去っていく。


「光球を破壊されると、堕天使の記憶は失われるのかな……?」


 深帰人が呟くように訊ねると、「そうみたいね」と盧子は答えた。


 初めての戦いを終え、堕天使の戦いの仕組みを知った。


 これから先も戦いがあるのかもしれない。


 そう思うと、深帰人の心には、先の見えない憂鬱な気持ちと恐怖が蓄積されていくのが感じられるのだった。



* * *


 

 おかしい……。

 

 岸見理恵は吐き気を催し、たまたま近くにあった公園に立ち寄った。

 

 トイレを探している余裕はない。その公園に小さな池があるのが救いだった。最悪、そこに吐き出してしまえばいい。どうせ誰も困らない。

 

 学校で、暗くて陰湿なクラスメート、唯永盧子をからかっていたときは、どこも調子は悪くなかった。むしろ楽しくてテンションが上がっていた。


 いったいいつからだ、と思いながら、理恵は池までのわずかな距離を、足を引きずるようにして進む。

 

 友達と三人でカラオケに行ったときだ。

 

 ちょっとまったりした時間のときに、うたた寝をしてしまった。

 

 そこで見たのは、とても懐かしく、心から満たされる素敵な場所にいる夢だった。行ったこともないはずなのに、帰りたいという郷愁に誘われる夢だった。


「何これ……」


 吐き出そうとして、池に体を前傾させると、そこに映る自分の姿が見えた。


 自分の頭上に、光る輪が浮いている。しかも、その輪は、どこかねじれたような歪な形になっていた。

 

 それよりも理恵が驚いたのは、自分の背中から突き出しているものだった。

 

 それは翼のように見えなくもなかった。だが、理恵が知っている、羽根を重ねた翼ではない。砂漠にあるような砂を集めて、翼を模した形のように見えた。


「いったい、なんなの?」


 自分の池に映る姿を見て驚きながらも、胸からこみ上げてくるような異物を取り出したい感覚に身を委ねようとした。


「大丈夫だよ。その苦しみから、すぐに救ってあげるから」

 声がした。男の声だということはわかる。しかし、街灯の光の影響で、その男の顔を見ることはできない。

「君は差し詰め、『寛容』を失い、エフェクトとして『狭量』……『narrowナロウ』になった、という具合かな」


「何言ってんの? いったいなんなのよ、あんた……?」


「知らなくていいことだよ。すぐに忘れてしまうからね」


 雷のような光が走った。


 一瞬の出来事すぎて、理恵は事態の認識すらできない。


 ただ、池に映った自分の頭上にある、光の輪が砕けていることだけは確認できた。


 次の瞬間には、理恵の思考は遠のき、暗闇の中にどっぷりと意識が沈んでいた。

拙い物語をお読みいただき、ありがとうございました。


もしよろしければ、応援いただけますと幸いです。


少しでも価値を感じていただけたら、


リアクションをいただけると、


続きを書くモチベーションになります。


どうぞよろしくお願いいたします。

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